5
「はぁーーーー、全然目を合わせてくれないし、ロゼリアに嫌われたかと思ったぁ」
雰囲気がガラッと変わる。この隣国の第五王子、頭は切れるけど、少々お調子者ですの。表向きは王子らしく尊大に振る舞っているんですけどね。
「少々堪えましたよ。あなたたちと距離を置く程度には」
「ごめんってー! 僕がどうかしていたんだ。学園では何か抗えないと言うか……。この家に滞在するようになって、ようやく僕が戻ってきたというか、うーん」
「ルドルフ様も以前似たようなことをおっしゃっていましたわ。それからお話しできていませんけど…」
「ルドルフもなの? それって不味くない? 王族に対して何かしているってこと?」
「そう、なのかはわからないけど……」
アンナが言っていたゲームの影響は、Aクラスのクラスメートに強く出ているけど、同じクラスでも私のお友達はいつもとお変わりないのよ。他のクラスの方達は周りに流されているだけのようで、この私に強気に出てくることはないのよね。
「なんかさ、洗脳や催眠の類かな? ここ数日いろいろ考えたんだけど、僕たちがおかしくなった時期を考えると、思い当たる人物が一人だけいるんだよね。でもさ、全員なるならわかるんだけど、ロゼリアみたいに平気な人も何人かいるじゃん? なんでかなぁ」
「わかりませんわ。私は学園に行っても、あまりクラスにおりませんし、バルトさんとお話ししないからかしら?」
「ロゼリアもアンジェリーナだと思う? 僕とルドルフにまで影響が出るなんて、相当だよね。媚薬の類だって、大抵のものは口にすればわかるはずなんだけどな」
洗脳、催眠、薬物……。どれも物騒ね。ジェイド様が正気に戻られたことにより、なんとなくだけど、私と近しい方は元に戻る事がわかった。
「王族相手に正気の沙汰とは思えないね。何もわからない以上は、警戒しかないな」
「それがよろしいですね。……ジェイド様から見て、最近のルドルフ様はどうかしら?」
「ルドルフは変わらないように見えるけど、僕も少しおかしかったからなぁ。今度ルドルフと話してみるよ」
「ええ、お願いします。ありがとうございます」
「ねぇ、最近君たち話してる? 大丈夫だよね?」
「少し前にお話ししたきりですの。その時に、ルドルフ様のお心に従いますと言ったわ」
「いやいや、それってさぁ! まぁ、君達なら大丈夫だと思うけど。いやぁ、はぁーー」
もう! 溜め息つかないで欲しいわ。
「ちょっと先の話なんだけど、僕さ、今度どうしても外せない式典があって、国に戻るんだ。その件で今、公爵家にお世話になっているんだけどさ。ロゼリアも一緒に行かない?」
-----
ガタゴトガタガタ…………
あれから半年経ち、私は今、隣国を目指しています。少しの間、国を離れるだけだったはずなのに、こんなことになるとは…。
時は遡り、ジェイド様とお話ししたあと、私のことなど、もうお忘れかもと思いながら、久しぶりにルドルフ様に手紙を書いたわ。
ジェイド様が公爵家に滞在していること(知っていると思うけど)、隣国へ行くため少しだけ国を離れること、お会いしてお話ししたいこと。すると、すぐに返事が来て、忙しい合間を縫って会うことになりましたわ。
お会いする場所は、私たちの思い出が詰まっている王宮のガゼボ。手紙を書いてすぐにお会いできると思っていなかったし、お久しぶりに話すルドルフ様がどうなっているか不安を拭えなかったわ。でも、
「リア! ああ、会いたかった!」
「ルドっルフ様……? お忙しいのに、我儘を言って申し訳ございません。お時間をいただきありがとうございます」
久しぶりに会うルドルフ様は、わたしのルドだったけど、何か様子が違くない? まるで離れ離れになってた、愛し合う二人のような再会? こんなこと今までなかったから、うまく対応できないわ。
「君のためなら、いつだってなんだってするよ」
ルドってこんな情熱的な方だったかしら? どちらかと言うと口数は少なめで、余計なことは言わない方なのに。お優しいのは変わりないけど……。
「ルド? とても嬉しいのだけど、あなた、その……何かあった?」
すると、そっとわたしの手を取り、手の甲にキスを落とす。
「リアが言ったのではないか。自分の心に従えって。俺は俺のやりたいようにしているだけだ」
と言うと、わたしをぐっと抱き寄せ、今度は唇にキスを落とす。こんな情熱的に求められたのは、初めてで、わたしの思考はついに停止したわ。