蛇の腹の中で
鉄の蛇は息をしている、ただ物凄く珍しいタイプの呼吸法だ。えらでも肺でもない……頭部と思われる辺りにある帽子のような長い筒の部位、あそこから煙がたくさん出ている。呼吸と共に煙を吹き出す生き物を見た事は無いが、口から炎を吐く「機人」を見た事ならある。――即ち、これは。
「離れろレイン! こいつは、「機人」だ!」
「なわけないだろ馬鹿」
解きかけた義手の包帯を掴まれ、膝下のすねを蹴られた。痛い……痛がって声を出して、鳩尾の傷に響いてもっと痛い……。こうしている間にもレインは鉄の蛇の穴に入ろうとしている、待て、行くな!
「……いや、大丈夫だって。これが汽車、私たちがこれから利用する乗り物だよ」
「本当か⁉ ……信用するぞ」
「私はお前を信用している、だからお前も信用しろ……とまでは言わない。まぁ、可能な限り信用してくれると助かる。というかもう切符は渡してしまった、いまさら金を返してもらうのも時間がかかるだろう?」
俺は、溜息をつきながらレインの言う事に従った。鉄の蛇、いいや汽車の中に乗り込む。中身は細長い長方形、窓とたくさんの椅子がある。
「ラッキーだな、空いてる。どこでも好きな席に座りたいだろうが……君は私の隣だ」
「その方が助かる、万が一襲い掛かってきたとき守りやすい」
「……はいはい」
やけに呆れた様子のレインは窓側に座った。良い判断だ、車内から外に出る際に壁をぶち抜けば、すぐに外に出られる。……それはそうと、「機人」の体の中は皆こうなのか? やけに綺麗で人がちらほら見える、可哀そうに。
「早く座ってくれ、汽車が出発したら倒れるぞ?」
レインは何やら嬉しそうだった。緊張もしていないため慣れているのだろうか? いろんなことを考えながら俺はレインの隣に座った、するといきなり手を握ってきやがった。
「特に意味は無い」
そう言い捨てたレインは、次に。
「目的地まで時間が掛かる。暇だろう? 互いの事を知るべく話し合おうじゃないか」
「なんだそれ、そんな事より俺は「機人」の倒し方を知りたい。お前はスペシャリストなんだろう?」
「……? そんなこと言ったか?」
この野郎、俺は眉を顰めた。やはり口から出まかせ、全ては俺に近づくための罠だったのだ。だとすれば俺は、もうすぐ……。
「だが安心したまえ、君の寿命はきちんと伸ばしておいた。そんな事より話をしよう、まずは初歩的な質問から……好きな食べ物は? 私はソフトクリームさ」
「……俺はカレーだな。ソフトクリームって何だ?」
「聞かれると難しいな……まぁ、冷たい菓子だ」
甘いものはあまり好きではないが、何故か異常に気になった……ソフトクリーム。良い響きだ、可能なら食べてみよう。
「では次は君から質問だ、何でも聞き給え」
「ええ? ……じゃあ、嫌いな食べ物は?」
「ナットウだね、あれは臭い」
「臭い……? それ腐ってるんじゃないか?」
「実際腐っているのさ、ヨーグルトと同じく発酵しているのさ」
その後も、俺とレインはお互いに質問をし続けた。くだらない雑談はとても楽しく、どれもこれも聞いたことが無く……現実味を疑う物だったが、この目で確かめてみたいという衝動だけは確かにあった。