鉄の蛇
本作品に出てくる汽車の路線、及び世界観は全て作者の独断と偏見による創造世界です、99%のフィクションをお楽しみください。
レインから聞くには、汽車とはとても大きく長いらしい。「イメージするなら蛇が的確だと私は思う」とへらへら笑いながら言っていた。怖い例えをやめて欲しい……俺たちはこれから、その鉄の蛇の腹の中にお邪魔するんだぞ。
(っと、その義手を他の奴に見せてやるなよ? 前にも言ったと思うが、私はお前を独り占めしたいんだ。――全部ね)
意識的に義手に目を落とすと、包帯が解けかかっていた。危うく義手が丸見えになるところだった……こんなところで騒ぎになれば、またさっきの「機人」のような強力な個体がやってくるかもしれない。ろくに動けないこの状態で、戦闘は避けなければ……かなり強めに、絶対に解けないようにきつく縛った。
(それでいい、君は所有物らしく私の言うとおりにしていればいい……)
「何でさっきから小声なんだよ……」
まぁ、どの道俺はレインの言う事を聞く以外に方法が無い。正直言って、一人で「機械の国」に行くのは時間がかかる。しかも俺はあと一年かそこらで死ぬ……だから、正確な道を知っていそうなレインに頼るしかないのだ。
「そんなに私の声が聞きたいのかい? いいだろう、ご要望にお応えして普通に喋るとしようか」
レインはやけにかしこまった声を出した。俺は首を傾げそうになったが、口から出てくる内容は大真面目だった。
「まずここはインドという国だ。「機械の国」があるのはこれよりもっと西……かつて世界最強と呼ばれていたイギリス、つまりブリテン島だ。現在は「機械の国」を侵略者として認識したイギリスと、その同盟国の数々が牽制している形だね。最も、焼け石に水だが」
何も知らなかったと言う事を思い知らされる。自分は一体どこに向かっていた? 目指すべき場所の詳細も知らず……レインと出会っていなければ、全く逆方向に進んで寿命を使い切っていたかもしれない。
「私たちが乗るのは、パキスタン行きの汽車だ」
「? イギリス行きじゃないのか?」
「……君、世界地図見たことあるかい?」
何だそれは、首を横に振る。
「……イギリスとインドは滅茶苦茶遠い。汽車一本で繋げられるほどの距離じゃない、だから時間が必要なんだ」
何故か怒られてしまった……とにかく遠い、時間がかかる。そういう認識のまま歩いていると、レインはいきなり立ち止まった。
「着いたぞ」
顔を上げると、そこには。
「……なんだ、これ」
想像よりもはるかに大きく、太く、立派な鉄の蛇がいた。