カルナの賭け
これまで戦ってきた「機人」には、大きく二つに分けられるタイプがあった。
一つはスピードに特化したタイプ、身体能力が全体的に高いことが特徴で、主に人型として作られることが多い。これまで倒してきた「機人」はほとんどこのタイプだった。おかげで反射神経や即時の判断が鍛えられた。
次にパワーに特化したタイプ。動きが鈍い代わりに一撃が高く、何より図体が大きい……人目に付くなどのデメリットも多いが、対峙した時の厄介さはスピードタイプの「機人」の非ではなかった。
他にも遠距離か近距離かなどの違いもあるが、現れる度に強くなっていっているのは間違いない。きっと進化しているのだ、人類がそうなったように……人間の何倍ものスピードで、技術を積み上げているのだ。
(だからって、いくらなんでもデタラメ過ぎる!)
鉄の棒を伝い肩まで衝撃が走り続ける、それはまるで鳴り止まない拍手か、はたまた不満と批判を思ったままブチ撒けるブーイングの嵐か……いずれにせよ終わる事のない連撃だ。よそ見は出来ない、泣き言を吐く余裕も考える暇も無い……だがそれでも、一刻も早くこの状況から抜け出したいという本能が言う。――逃げろ、勝てない。
〈――〉
カスった、危ない! それでも不安定な平静を乱すには十分すぎる脅しだ、手汗で鉄の棒が滑りそうか? なら死ぬ気で握れ、でないと次の瞬間お前の頭蓋骨が吹き飛ぶぞ!
「うぉおぉぉぉおおおお!」
攻撃するしかなかった、一撃を避けて懐に入る。狙うは一発逆転……「機人」の心臓部である「核」を破壊する! 後のことは考えるな、体力的にも打ち合いの流れ的にも有利な点は一つも無い。貫け!
〈――――〉
最悪だ、掴まれた。焦りで体中が冷えていく、手汗の事ばかり気にしてしまう。落ち着け、まだ大丈夫だ……なんて、現実逃避まがいの自己鼓舞をしていたところに冷水を浴びせられた。引き寄せられると同時に、相手の拳が鳩尾に突き刺さる。肺の中の空気が全部出た、食べた物も溢れて来た血反吐も……全部混ざって。面白いぐらい簡単に吹っ飛ばされた。
「カルナぁ!」
声と同時に何かにぶつかる……ゴミの山に叩きつけられ、俺は口の中の汚物を全部ぶちまけた。酸っぱい匂いが鼻と口を行ったり来たりしながら、俺の意識もまた、あっちとこっちを行ったり来たりしていた。
(……強すぎる)
スピードタイプでもないパワータイプでもない……どちらに置いても超越している。速さと力強さ、両方を兼ね揃えたそれは、対人戦闘では無敵だという結論に至った。
「くぅっ……しっかりしろカルナ! あいつが来る、ほら!」
揺さぶられて多少マシになった意識を奮い立たせる。そこには苦い顔をしたレインがいた、大きな荷物がクッション代わりになると思ったのだろうか? それを見こして俺を受け止めてくれた……そんな事を考えれるぐらいには、まだ頭は回っていた。
「……逃げろ。お前には元から関係ない話だ」
「あんまり舐めた口を利いてるとぶん殴るぞお前! いいからさっさと立て!」
俺は舌打ちをしようとして口の中がおかしくなっている事に気づいた。手元に武器は無い……目の前にいる「機人」が持っているのがそれだろう。そこからの判断は速い、躊躇なく義手を向けた。
義手の掌から放たれるのは、見えない衝撃。肩から吸いこんだ空気を圧縮し、その状態のまま放つ……対象に着弾する頃には膨張し、大岩を砕く衝撃を生む空弾だ。
(まぁ、効く訳ねぇよな!)
これは只の時間稼ぎに過ぎなかった。空弾が当たればあの「機人」は仰け反る……だけだ。あいつはすぐに立ち上がり、なんと何発か食らうと避け始めたのだ。
「駄目だ……逃げるぞ!」
「……! あと少し、あと少しで……」
賭け事はあまり好きではない。だが今は出すしかなかった、自分の命を。体力のない負傷した状態でこのまま逃げても追いつかれる。なら、せめて迎撃して時間を稼ぐ!
「がァッ……ぐぅっ!」
「カルナ! 嘘だろ……こんな時に黒痣か!」
体中が痛む、今までの痛みよりはだいぶマシになりはしたが、それでも激痛だと言う事は変わらない……義手の空弾が止んだことを確認するや否や、鉄仮面の「機人」は真っ直ぐに突っ込んできた。――拳が、振り下ろされる――。
〈四分経過、活動限界を確認。任務失敗、逃走を始める〉
――なんてことは無く、俺は決して目を閉じることなく、「機人」の仮面面を睨みつけていた。




