鉄仮面の『機人』
〈目標、補足〉
やけに五月蠅い機械音は遠かったはずだ。それが一瞬で距離を詰め、こうして俺の後ろで鳴り響いている……蛇行するように走ったはずだった。視界が弱い「機人」が、粉塵がまき散らされたこの環境で、此処まで正確に一つの対象を追跡できるだろうか? いいや、考えている暇は無い。容赦ない攻撃が、一瞬前に俺がいた空を切った。
(地面が抉れた! 見た所こいつは対人型の『機人』……しかも今まで見た事のない程の性能、また新型か!)
攻撃に使用されたのは鉄の棒。対抗策を考える前に、風圧によって辺り一帯の粉塵が吹き飛ばされる。砂粒がいくつか目に入った。
(視界が……クソっ!)
〈――〉
レインを背負ったまま大きな動作をすることは不可能。生身の彼女を抱えたまま攻撃を受けるのも自殺行為……俺は機械音に背を向け、レインを抱きかかえながら歯を食いしばった。
(――――)
猛烈な痛みの次は地面を転がる感覚。痛みに悶える暇もなく、俺はレインを遠くに放り投げた。逃げろ! そう叫んだ瞬間レインは起き上がり、逃げなかった。俺がもう一度声を荒げようとした瞬間……人型の「機人」は俺の背後にいた。
「――伏せろ!」
反射だった。命の危機を感じ、地面を舐める気持ちで顔を擦りつけた。すると俺の頭上から爆音が鳴り響く、衝撃波だけでも殴られたような衝撃が背骨を伝った……鼓膜は破れているかもしれないが、そんな事はどうでもよかった。物騒な筒の照準を向けるレインの元に走る。
「その荷物の中、何が入ってるんだよ!」
「聞いて驚くなよ! 二か月分の食料と水、金、機械用の工具、ダイナマイトとナイフとメリケンサック……そしてこの『対「機人」用バズーカ』だ!」
大層な名前と風貌をにおわせるその銃の威力は、対「機人」の名を冠するには純分過ぎる威力と迫力を持っていたのだ。並の「機人」なら粉々に……跡形もなく吹き飛ばせる人類の英知が誇る兵器なのだ、これは。
「……残弾数は?」
「ゼロ、だね……あの様子だとダイナマイトも効かなそうだ」
レインは銃を放り捨てた。俺も左腕の包帯を解き、もう片腕で鉄の棒を構えた。……仁王立ちでそれは、俺たちを見ていた。バズーカによる粉塵の中を進み、一部砕き割れた装甲から電気が漏れ出しながら……満身創痍のように見えるそれは、決してその威圧感を緩めていなかった。――満身創痍なのは、俺たちの方だ。
〈装甲及びその他の負傷を確認……命令の遂行に支障なしと判断。活動限界時間を四分に決定、これより時間内の任務遂行を課す〉
やけに人間臭くもやはり感情の無い声……全身が黒い装甲に覆われ、顔全体が鉄仮面の「機人」は、静かに俺たちへの勝利を宣言していた。――まず間違いなく、俺が戦ってきた「機人」とは比べ物にならないだろう。俺は歯噛みしながら、義手の力を躊躇うことなく使った。