目覚めと襲撃
「おい寝るな、終わったぞ」
「いっ、てっ!」
微睡みから叩き起こされた。頭がグワングワンする、痛い、ペンチか何かで殴られたか? もしかしてこれも胸が原因か? だとしたら流石にやり過ぎではないか?
「おっと、痛かったかい? すまない手から工具が滑った……許してくれ」
被害妄想に思わず思考が止まった。申し訳ないという想いと、もしかしたら落としたというのはあらかじめ用意していた嘘なのではないか? という自分の悪い癖が出ていた。――やめよう、あんな小さな手で工具を握っていれば、落としてしまうのも無理はない。
「いってぇ……痛かった。でもいいよ、わざとじゃないんだろ?」
「ああ、わざとじゃない。よかったよ君が常識人で。……冗談だそんなに睨むな、悪かった」
軽く頭を下げたレインに拳骨してやろうと思ったがやめた、曲がりなりにも女性……それに体が軽い、無事、左腕の機能抑制に成功したようだ。気のせいか体の黒痣も、少し薄くなっている気がした。
「二、三日はここで安静にしたまえ。なぁに軽く一年は延命してやったんだ、今更一日二日ぐらい安く感じるだろう? それよりも私のような美女と一つ屋根の下で寝れることを喜ぶと良い。――いいぞ?」
何を言っているんだこいつは。にやけた表情の奥で何を考えているのか分からない、こっちは色恋する前に復讐がしたいんだ、あと俺はこんな訳分かんないチビペチャパイ女は好みでは無い……と思う。――それより、さっきから変な音がしないか?
「……なぁ、レイン」
「おっともうやるかい? こう見えても体力には自信があるからね……でも少し待ってくれないか? 風呂に入ってからでも遅くは……あれ、もしかしてそっち系?」
「この家、大掛かりな機械なんて無いよな?」
「――」
真っ赤になっていたレインの顔が、冷める。耳を澄まし……二人同時に軋む音の方向を見据えた。――音源は、外だ。
伏せろ。声帯を震わせるより前に体が動いた、レインの服を掴んで抱き寄せる。次の瞬間背中に衝撃が伝わる、家の瓦礫が吹き飛ぶ……義手による体の硬質化が無ければ、今頃背中はボロボロだっただろう。だが油断はできない、衝撃を放ってきた奴が……追手の「機人」が外にいる!
(でも、こいつを置いては……)
思考した直後は幸運だった。攻撃が放たれることは無く、崩れ落ちた家の瓦礫が粉塵を撒き散らした。「機人」はこういう、視界を遮られる類の妨害が苦手だ。
(逃げるぞ、レイン!)
走らせるよりも担いだ方が早かった。武器代わりに適当な鉄の棒を片手に、レインを肩に担いで俺は走った。