楽しい復讐の旅
お気楽な乗客の中に紛れる、屈強な傭兵の顔つきが変わる。おかしな機械が取り付けられている耳に手を当て、ぶつぶつと何か呟く……そしてしばらくすると、列車が音も無く走り出す。
『対機械戦線崩壊。列強の一角、沈む』
「……」
何度読んでも、どの写真を見ても悲惨な物ばかりである。号外として取り上げられたこの記事に、どれだけの人が度肝を抜かれただろうか……世界トップクラスの軍事力を持つ列強、イギリス領土の殆どが「機人」に制圧されてしまっているんだとか。奴らに同情はないし、同情をする義理も無い……取られた写真には、ゴロゴロと人の抜け殻が転がっている。
車内は涼しいはずだが、俺にとっては熱く感じる。手汗が脆い新聞紙を濡らし、つまんだ指をずらせば崩れていった。
「良い記事では無いな。最も、この紙切れを作るために命を賭けた記者たちには敬意を払うが」
寄りかかるようにレインが新聞紙をのぞき込む。惨状が描かれた白黒を鼻で笑い、カバンの中に入っている食料をつまみ食いしていた。
「よく耐えた方だと私は思って居るよ。何せ、そこには始祖であるエルメスが踏ん反り替えっているんだ。列強と言っても所詮は島国、その気になれば自分自身の手で綺麗な平地にしてしまってもよかったぐらいなんじゃないか? 長くて一週間……だが、実際にかかった時間は十年だ」
頭のいい君なら分かるだろう? ニヤつくレインの表情と、くしゃくしゃになった新聞紙を交互に見つめる。幼い頃のトラウマが見え隠れし、何となくそうだろうなと思う結論に至る。
「エルメスは、死んでる。いいや、壊れてる?」
「部分的には、その通り。これはあくまで私の予想に過ぎないが、エルメス本人……いいや本体が生きているならこんなに時間は掛からない。生きていたら、今頃世界中が『機人』まみれになっているだろうからな」
だがなぁ。レインは喉を唸らせる。
「おかしいんだよ、それじゃあ。君は知らないだろうが、『機人』は通常の場合、エルメスを経由して動いているんだ……奴が破壊されれば全ての『機人』は只の鉄界になり果てる……でも『機人』は元気に人を殺し、エルメスは直接出てきていない……」
「何か事情でもあるんじゃないか? 例えばそうだな……父さんから受けた傷が、酷いとか」
「奴らの科学力なら考えにくい。ある程度のパーツや機関さえ生きていれば修復可能だからなぁ」
謎は深まるばかり、レインと共に頭を抱えた。
「まぁ、私たちがやる事は変わらないさ。――『機械の国』に乗り込み、エルメスを直接……今度こそ完全に破壊する。私はそれを手伝うよ」
「脳筋な考え……うん、そうだな。取り敢えずぶっ壊そう! ははっ」
やけに物騒な話題に笑う俺たちを、周りの乗客は不審そうな目で視ている。それでいい、ああ……怒りだけの旅になるかと思ってはいたが、そろそろ素直に楽しんでもいいのかもしれない……こんな復讐の旅が、あっても。
「なぁ、レイン――」
言いかけて刹那。浮遊したような感覚に胸が空き、強い衝撃と共に頭骨が強く打たれる。
――轟音。野郎どもの叫び声が遠くで聞こえると言う事は……ああ、二度と汽車には乗りたくないと、思う。二度目の、襲撃だ……。




