夢物語
話している時間が大変短く感じたが、実際に時計を見てみるともう一時間は経過していた。未だに会話の熱は冷めることなくむしろ強まり、レインの口から語られる世界は俺の興味を猛烈に誘った。
「世界って面白いんだな。良いなぁ……俺もいつか白黒の「ぱんだ」とか、首が長い「きりん」とか、見てみたいなぁ」
気が付けば俺は夢物語を信じ切っていた。今思い返してもバカバカしく現実味はゼロ、でも絵本作家でもないただの少女が語るには、余りにも素晴らしい内容だった。
「なぁレイン、俺……お前と世界を――」
言い終わる前に、涙が彼女自身の服を濡らした。ボロボロと溢れ出る涙に濡れた顔はくしゃくしゃになっていて、真っすぐだった背筋がどんどん前に倒れていくのを……俺はどうしようもなく見ているしかなかった。
「ごめん」
何も言えるはずなかった。レインは俺の握っていた腕をさらに強く握りしめ、決して離さなかった。
「私にもっと実力があれば、私がもっと早く君の事を調べていれば。一年二年と言わず君の呪いを無力化できていたかもしれないんだ。君は復讐だけに目を向けていて……でも、私が、私が見てきた世界の事を話したから未練が出来てしまった」
――すまない。レインは体を丸めて、呻くように俺に謝ってきた。彼女が言っている事は事実だし、俺は多分、復讐だけに残りの寿命を使って死ぬ。だから彼女が言う世界を見ることは叶わない。
「……お前が気にすることじゃねぇよ。もともとすぐ死ぬ命だと考えれば、お前は俺の恩人だ。それに俺がやろうとしてる復讐は、世界を救うっていう意味も少なからずあると思うし……結果的であっても、俺が何を守る事になるのか知れてよかった。だから」
「ありがとう、なんて言わないでくれよ」
レインは上半身を起こし、俺の顔を見た。
「私だって、君と旅をしたいさ」