機械殺しの少年
――しまった。脳内の言葉を認識すると同時に、そいつに背を向けて走った。
走り出した瞬間、数人にぶつかった。……立ち止まってはいけない。ここで追いつかれてしまえば町のど真ん中で戦う事になる。もしそうなれば、関係のないたくさんの人たちが「機人」共に殺されてしまう。それだけは避けなければならない、走る。
〈人間には無い身体能力を確認。スキャン開始……完了。現在逃走中の個体を『簒奪者』と確定。最重要命令に則り、捕獲及び殺害を遂行する〉
感情の無い声。人間の「言葉」という概念を侮辱したような形だけの喋り方。見た目は人間に瓜二つ……だが、間違いなくあれは「機人」だ。人間を殺し、一つの国を滅ぼし、今も尚破壊と暴力を撒き散らす人類の敵。――父さんの、仇。
「……っ!」
体中の黒痣が疼いた。不味い、このまま放っておけば動けなくなる……その前に安全な場所に身を隠さなければ、俺は動けない程の激痛に苛まれながら嬲り殺されるだろう。無論、ただでやられるつもりはない……このまま逃げながら激痛が来るのを待つよりは、今此処で戦う方がマシだ。
野次馬を退けながらの決断。一か八か、路地裏に逃げ込んだ。「機人」は単純な力やスピードでは人間を遥かに上回るが、狭い道や入り組んだ地形など、移動が困難な道が苦手なのだ。……かなり奥まで進んだ、もう追ってはこないはず。
〈目標まで残り10メートル。攻撃可能範囲まで7メートル〉
(こいつ……まさか新型!?)
心底ツイていないと思う。背後の「機人」は体の形を変形させ、徐々に自分との距離を詰めていた。このままでは、追い付かれる!
〈攻撃開始――〉
「うぉぉおおお!」
背負っていた鉄パイプを掴み、腰を入れたフルスイング。向けられた銃口を圧し折った。その瞬間機関銃は爆発し、「機人」も俺も吹っ飛んだ……一瞬の油断。あんな爆発の仕方をしたんだ……壊れたであろう、壊れていてくれ。
〈――活動、継続〉
「畜生!」
動きは鈍った、遠距離武器もしばらく使わないだろう……だがもうすぐ「あれ」が来る。逃げなければ、逃げなければ……! 走って、走って、道を曲がって……その先は。
「行き止まり……」
機人の駆動音が迫る。心音が五月蠅い……黒痣が光り出す。――ああ、もうだめだ。俺は此処で痛みに悶え苦しみながら、「機人」に殺されて、死ぬ。父さんの仇も取れずに、この忌まわしい左腕を外すことも叶わないまま、ただでさえ少ない命を燃やし尽くすことも許されず。
(――せめて、相打ち……)
体中に痛みが走り始め、俺は頭が回っていなかったのだろう……忌まわしい義手の存在を忘れ、手元にあるただの鉄パイプを、護身術であり父さんの形見でもある棒術を握りしめた。――死ぬ覚悟を、決めた。
『何をしているんだ君は!! ワイヤーだ、左腕のワイヤーで屋上に上がれ!』
聞こえてきたのは少女の声。幻聴か? それとも……いいやありがたい。この左腕を使う事には不満しかないが、ここで死ぬよりは、マシだ!
「フゥううっ……うううぅ!」
義手に巻き付けてある包帯を引きちぎり、激痛を堪えながら照準を合わせ、ワイヤーを発射した。コンクリートの壁に突き刺さった瞬間、俺の体は空へと舞い上がり、ゆっくりと落ちて、建物の屋上に叩きつけられた。
追いかけて、来ない。……生きてる? 一瞬の安堵に気を取られ、俺は歯を食いしばるのを忘れてしまっていた。
「……うっ、あっあっぁっああぁぁぁがぁぁぁぁぁぁぁぁァばぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
勝手に動く心臓や胃袋ですら止まるような痛みが、数十秒間の間……俺の体を食い荒らした。
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