第40話 王宮の鉱
リーカーは力尽きてドサッと床に倒れた。鉱の作用で体の硬化がさらに進んでいた。やがてそれが全身に及ぼうとしていた。
「パパ!」エミリーがリーカーそばに寄った。その顔は心配と不安で青ざめていた。リーカーはエミリーを心配させまいとして、なんとか力を振り絞って体を起こした。
「エミリー。よくやった。」リーカーは笑顔を向けた。だが彼の最期が近いことは誰の目にも明らかだった。それはリーカー自身がよくわかっていた。自分が亡き後、一人になった幼いエミリーを託さねば・・・
「女王様。エミリーを・・・」リーカーはエリザリー女王の方を見た。
「わかっておる。リーカー。エミリーは次の女王とする。安心せよ。」エリザリー女王が告げた。彼女はリーカーの心情を理解し、目に涙をためていた。それは傍らにいるサース大臣も同じだった。
「大丈夫だ。エミリー様は我らが補佐する。」
そしてマークスもよろめきながらも倒れているリーカーのそばに寄った。彼にもリーカーの運命がわかっていた。
「女王様を支える魔騎士隊は私が必ず、再建する。お前の命を無駄にはせぬ。リーカー、お前こそ真の魔騎士であった。」マークスはリーカーの目を見てそう言った。リーカーはそれに答えるように深くうなずいた。
いよいよ最期の時は近づいていた。周囲の人の優しい言葉にリーカーは安心したようだった。そして最後に彼は震える手でエミリーの手を取った。
「私はじきに死ぬだろう。だがエミリー。泣いてはならぬ。お前は一人ではない。女王様やサース大臣をはじめ、多くの人がお前を支えてくれるだろう。また遠い空から私やママがいつも見守っている。お前にはなすべきことが多くある。これからもお前は自ら道を切り開いて進むのだ。」リーカーは微笑みながらやさしく言った。エミリーは涙をこらえていた。
「ただ、救いは暗黒の剣で殺されなかったことだ。鉱の作用で私は命を失うのだから・・・。愛するエミリーよ。さらばだ・・・」リーカーの体は鉱に変わっていき、やがて黒い塊になった。エミリーはいつまでもその鉱にすがっていた。こらえても彼女の目からは涙がこぼれていた。
◇◇◇
ビンデリア国の王宮の広間には、大きな鉱が置かれている。昼間は日の光で輝き、夜は暗闇で鈍い光を放っていた。昼間はその横を人が忙しそうに行き来しており、誰も気に留めようとはしなかった。だが夜になると静まり返った広間に存在感を示し、それはまるで何かを伝えようかとしているようだった。そうするとエミリー女王が広間に姿を現すのであった。そしてその鉱にそっと手を触れて話しかけるのであった。