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幼馴染が記憶喪失シリーズ

私は要らない子ですか?あなたのそばにいてもいいですか?



短編小説幼馴染みであり恋人である彼女が事故で記憶がなくなり振られてしまったが後悔はしたくないので全力で支えたら告白された。


のヒロイン視点です。


前作を読まなくても大丈夫です。


もし興味持たれたらお読みください。





私の名前は樋口真白……らしい。

車に轢かれて意識を失い、病院には運ばれずっと目を覚さなかったと目の前に居る女の人に教えてもらった。


目の前にいる女の人は私のお母さん……らしい。


らしいという表現を使うのはわからない……から。


私は事故のせいで頭を強く打ち記憶をなくしてしまったらしい。


記憶喪失


そう言われた時は正直、実感がなかった。

だって……今までのことは何も覚えていないから……

そして記憶が戻ることはほぼ無いらしい。


無くしたのはこれまでの思い出だけで意味記憶? 知識とかあまり分からなかったけど生活するには困ることはないってお医者さんが言っていた。



「あ、お母さん。ちょっと出るから」



お母さん? はそう言って病室から出て行った。



「………………はぁ」



1人になれたことに息をつく。

あの女の人……私のお母さん……

やっぱり、わからない……


こんこん


不意に扉の開く音がした。


お、お母さん? が帰って来たのかな?

扉を見るとそこに立っていたのはお母さんではなく、知らない男の子だった。

制服を着てる……同じ学校の人? かな?



「―っ!」


その男の子はとても驚いたような顔をしてこちらに向かって駆け寄ってきた。


ひぃ!! だ、だれ? こ、怖いっ……


思わず、体をビクッと縮こませる。


怖くて、声が出ない。


すると男の子は立ち止まってただ呆然と私を見つめていた。



「あ、あの……だ、だれ……?」


精一杯、絞り出すように声を出す。



「……え」


私の言葉に男の子は顔が強張っていた。


うぅ……空気が重たい。

だ、誰か助けてぇ……



「水樹君!」


男の子から目をそらすとお母さんが帰ってきた。

そして何かお話して水樹君?という男の子を連れて行ってくれた。


お、お母さんないす。

……あの男の子はだれだったんだろう?


その後お母さんと男の子が病室に入って来た。


男の子の名前は椎名水樹。


私の幼馴染みで恋人……らしい。

小さい頃からずっと一緒にいたんだとお母さんが言った。


だけど……今の私にとっては知らない人だもん。


それに恋人……


知らない人が恋人……はなんだかいや……かもしれない。


私は椎名君の顔を見れなかった。

別に椎名君は悪くないのに……もやもやしてしまう自分が少し嫌になった。


それから毎日色々な人たちがお見舞いに来てくれた。


知らない友達。


知らない先輩。


知らない後輩。


知らない先生。


知らない恋人で……幼馴染み。


たくさんの知らない人たちが私の事を心配そうに話かけてくれた。


知らない友達が知らない写真を見せてくる。


そこに写っているのは前の私……その写真を見ても懐かしさも何も感じなかった。

なんだか楽しそうとか、仲が良さそうとかそういう感想しか出なかった。

まるで、他人を見ているみたいで……自分のことだと思えなかった。


みんな、お見舞いに来てくれるけど、昔の話ばっかりする。

多分……記憶が戻るきっかけになればいいと思ってくれて話してくれているんだと思うけど……


みんな今の私のことなんか見ていないのかも……そう思ってしまう自分がいて……だから、1人の時が一番気楽……


一番辛いのは椎名くんが1人で来た時で……私は……人とお話するのが苦手……で。

他のみんなは向こうがいっぱいお話するから聞くだけでいいけど、椎名君も私と話すのが苦手そうで……


挨拶だけしてお互い何も言わずただ黙っている。

恋人だと知らされてから私は椎名君の顔が見ることが出来なかった。

たまに椎名君が突然何か言うけど私はそれにびっくりして何も言えない。


そんな日々が続いた。


ある日椎名君が言ってきた。


「こ、今月の末って誕生日だろ? 何か欲しいものとかやりたいこととかある? なんでもいいんだ。お、俺は真白のか、彼氏なんだからさ。なんでも言ってよ」


その言葉を聞いて私は初めて椎名くんの顔を見た。


なんでも……


ぎゅっと手を握って勇気を出す。


「あの……一つだけ。いいですか?」


「!! も、もちろん!」


そう言ったら椎名君は嬉しそうに頷いた。

い、言わなくちゃ……ちゃんと思ってること。


「わ、私と別れてくだ……さいっ」


勇気を振り絞って言った。


「ーえ?」


「あの……私は……あなたのことを知らないし、もう好きでもなんでも無い……です」



最後まで……ちゃんとっ



「だからっその……そんな人に恋人として接してこられてもこ、困ります……迷惑……だから……その……」


「お、お願いだから私と別れて……欲しい」



水樹君にお願いした。


うぅ……言い過ぎちゃったかも……しれない。

でも言わなきゃいけない事だから……


今の私は樋口真白だけど……水樹君の彼女じゃない……


私のお願いを聞いて水樹君はしばらく何も話さなかった。

ただ黙って一点を見つめている。


やがて



「……ぁ、ぅ、うん。分かった……俺……今日は帰るよ」



なんとか言葉を振り絞って立ち上がる。

その顔はとても引き攣っていた。

そんな水樹君を見て心が少しちくってなった。

水樹君は私を一切見ずに病室から出た。


……もうここには来ない……よね。

絶対私のこと嫌いになった。

会うこともないかも……多分、


水樹君の反応を見てそう思った。


翌日


「えー! じゃあ今日はお昼まで寝てたんだー」


「う、うん……ぐっすり寝てた」


「へー真白ちゃんて毎日早起きしてたから意外だね」


「……え、あ……そう……なの?」


「うん! 私何回かモーニングコールしてもらってたし」


「私もー」


「あ、そろそろ時間だね。行こうか」


「真白ちゃん!! また来るねー」


「う、うん」


学校のお友達……だった人達に手を振りながら見送った。


今日は少し……私からもお話できた。でもみんな……やっぱり前の私の話……してた。

聞いて欲しいのは……知って欲しいのは今の私なのに……

みんな……私のお見舞いじゃなくて、私の記憶を戻っているのかどうか確認しに来てるだけ……なのかな?


……今の私はみんなにとってー


はっとして不安を振り切るように首を振った。


はぁ……疲れた……やっぱり人とお話するのは……苦手……今日は頑張ったのでお昼寝しようかな。


目を閉じようとした瞬間


コンコン


扉を叩く音がした。



「どうぞ?」



だれだろう? お母さん……かな?

扉が開くとそこには椎名水樹君がいた。



「……え、な、なんで?」



私は水樹君を見てとても驚いていた。

だってもう来る事はないと思っていたから……



「……少しだけ。話を聞いて欲しくて」



水樹君はとても緊張しているようだった。


話……? な、何の? お、怒りに来たのかな? 昨日あんなこと言ったから。


椎名君が怖くて体が縮こまる。

だんだんこっちに近づいてくるのが怖くて思わず目を閉じた。


そしたら


「ごめん」


って椎名君が言った。


……え? 目を開けてみると椎名君は頭を下げていた。



「樋口さんのいう通りだ。知らない人に恋人だって言われて、接されても嫌なだけだったよな……もしもう俺と会うのが嫌ならもうここには来ないし、樋口さんとは関わらないようにする」



椎名君は顔を上げて私の目を真っ直ぐに見る。



「だけど許されるのなら恋人とか幼馴染とかではなく他人から……ゼロから始めさせて欲しい。今の樋口さんの事色々と教えて欲しい。だから、その……つまり……今の樋口さんを支えさせてくれませんか?」


プルプルと体を震わせながら言った。


「……どうして?」


そこまで私の事を気にかけてくれるの?

どうしてまたここに来てくれたの? 



「樋口さんの気持ちを無視して俺のしたいことを押し付けるようなことはしたくないから……」



その答えを聞いてポカンってなった。

私が聞きたかったのはひどい事言ったのにまたここに来た理由……だったのに。


椎名君はさっきの言葉を言った理由について聞いたと勘違いしたらしい。


でも……さっきの言葉はちゃんと今の私の事をちゃんと考えて言ってくれた……んだと思う。

ここで私が椎名君を拒絶したら……ここに来ることも、もう私に話しかけることもない。


……だけど、「今の私を」という言葉がなんだか無性に嬉しかった。


椎名君はちゃんと「私」の目を見て向き合おうとしてくれている。

自然と表情がほぐれた。


今の椎名君ならちゃんと今の私を見てくれる……かも。



「そっか。今の……か。えへへ、あのっ……椎名君……よ、よろしく……ね?」


そんな期待をしながら椎名君に手を差し出した。



「う、うん。こちらこそよろしく樋口さん」



椎名君も戸惑いながら手を出し、握手した。



「お邪魔します」


「あ……椎名君、いらっしゃい」


それから学校帰り水樹君はお見舞いに来てくれた。



「椎名君、何を買ってきた……の?」


「ん? あぁ、コンビニで買った抹茶ラテだけど……」


椎名君は抹茶ラテ? を袋から取り出しながら言った。



「……へー」


……抹茶ラテ……美味しそう。どんな味がするのかな?

飲んでみたい。かも。



「じー」


で、でも……欲しいって言ったら嫌がれる……かも。

でも、抹茶ラテ飲んでみたい……


つ、伝われっ……!!

さ、さいきっくてれぱし〜

むむと椎名君に向けて念を送った。



「飲んでみる? まだ一口も飲んでないからさ」


「えっ、いいの?」


「うん、なんなら全部飲んじゃってもいいよ」


やった!!伝わった!! にへへ〜さいきっく大成功!!


はいとストローを指して手渡してくれた。


おお……これが……

ゆっくりとストローに口を近づける。


は、初めての抹茶ラテっ……


い、いきましゅ!!



「!! これ……美味しい!」


「えっ!?」



椎名君はとっても意外そうにびっくりした。

その反応を不思議に思いながらあっという間に抹茶ラテを飲み切っちゃった。



「ふぅ……ごちそうさま……でした」


「あ、ああ……樋口さんってもしかして、抹茶が好きなのか?」


「そうかも……しれない」



よく分からないけどなんとなく……そうかもしれない。


抹茶……好きかも。


それ以降椎名君は私の事を聞いてくるようになった。


その中で実は人と話すのが苦手だと話したら意外そうな顔をしてた。


「よかった……最初は俺と話すのが嫌だったのかと」


「あ、最初は単純に椎名君の事は普通に苦手だったよ?」


「えっ……………………………………そっかぁ」


「……あ、えっ!! い、今は違うからっ!! だ、だから……そんな……落ち込まないでっ!! ひ、ひぃん!! ど、どどどうしたら?」


今度からちゃんと考えてから喋ろう……と思いました。



ある日


「……真白って好きなものとかあるのか?」


「……え?」


椎名君は不意にそんな事を聞いてきた。


「えっと……」


好きなもの? なんだろう? 私の……好きなもの


うーんと頑張って見ても何も思い浮かんでこない……


「……ごめん。分からない」


私は……私のことがよく分かっていないって気づいた。

こんな私といてもみんなはきっと楽しくない……時間が経つとだからみんな私から離れて行っちゃうのかな?


それは寂しい……だけど。


「……私には、何にも……ない」



からしょうがない……よね。



「いや、違うだろ」



そんな私の言葉を椎名君は否定した。



「……え?」


「分からないのは何もないからじゃなくて知らないからだろ? だったらこれから一緒に見つけていけばいいんだよ。樋口の好きなものを抹茶の時みたいにさ」


まぁ好きなものだけじゃなくて、今の樋口の事をかな?と椎名君は笑った。


これから……一緒に。


その言葉は私の心を温かく包んだ……気がした。


ゲームが面白い事


グリンピースが嫌いな事


椎名君とお話する度に今の私の事を知っていった。


モノクロだった私がなんだか色づいていくようで……温かい気持ちになれた。

初めて……人とお話するのが楽しいかもって思えた。


自分のことだけじゃない……同時に椎名君のことも知れて……そういうところも楽しいって思う。


だけどたまに……もしかしたら楽しいのは自分だけじゃないのかって不安になる。


だから


「……ねぇ。椎名君は……私といて楽しい?」



椎名君に聞いてみた。

こんなこと聞けるのは椎名君だからだと思う。

他の人になら絶対に怖くて聞けない。

多分お母さんにも。


「楽しいよ。めっちゃ。会うたびにさ、樋口の色々なことが知れるからかな?」


「そっか……えへへ……」


そう言ってくれて少し照れ臭くなる。


ははと楽しそうに笑う椎名君を見てなんだかぽかぽかした。


……椎名君も私と同じなんだ。


よかった。





「真白ちゃん!! 誕生日おめでとー!!」


「え? あ……そうか……今日誕生日……」


お見舞いに来てくれた友達に言われて気づいた。


なんだろう……実感が今ひとつ湧かない……かも。



「そうだよー!! これ誕生日プレゼント!」


「あ、ありがとう……」


今日はたくさんの学校の人たちが来てくれた。

みんな、私の誕生日をお祝いしてくれる。


ぷ、プレゼント……たくさんあって病室が溢れそう。


化粧品とか……ファッション小物とかかわいいスマホとか多分これは事故をする前の私が好きだったもの……だと思う。



「……………………」



みんな、記憶を無くす前の私が大好きなんだ……今の私は……やっぱり、要らないー



「お、ぉぉ……すごい量だな」



ふと椎名君の声が聞こえた。



「あ、椎名くん……こんにちは。これ全部学校のみんなからの誕生日プレゼント……」




「えっと……これ、誕生日プレゼント」



なんだか自信がなさそうに渡してきた。


だけど、不思議と不安を感じなかった。

椎名君のプレゼントならきっと嬉しいと思えると思ったから。


「あ、ありがとう。えへへ……えっと、中身は……抹茶プリン?」


「え、あ、う、うん……ほら、前に抹茶ラテ美味しそうに飲んでたからさ。一緒に食べようかなと思って……」


「……覚えててくれたんだ」


私にとっては何気ない会話だったけど、椎名君はちゃんと覚えててくれた。


今の私の事を考えてくれて……抹茶プリンを選んでくれた。

えへへ……とても嬉しい……な。


「……樋口さん?」


「にへへ〜このプリンすごく美味しそう!早く食べたい」



ほっと安心した椎名君の顔を見ながら急いで準備をして2人で一斉に抹茶プリンを食べる。



「!! これうまいな!!」


「うん!甘すぎず、抹茶と黒蜜の相性が抜群っ」


「これすごく人気でさ……開店前に並んでもギリギリだったよ」


「……これからは毎日食べたいな」


チラチラとこちらを見ながらわがままを言ってみる。



「樋口さん……それは俺に毎日並んで買って来いって意味っすかね……」



………………樋口さん。



「……真白でいいよ。水樹……君」


「……え?」



うぅ……す、すごく恥ずかしい……

でも、最近……樋口さんって呼ばれるのはなんだか距離を置かれているみたいで嫌だった……それに椎名君もなんだか壁を作っている見たいで……だから勇気……出した。



「………………だめ?」


「い、いや!! そんな事……ない…。よ? ま、真白」


恥ずかしそうに水樹君は返してくれた。


それが嬉しくて顔がにや〜てなっちゃう。


「う、うん。水樹く」


…………水樹君は……なんでだろう? 違和感がある。

あ、そうだ。ちょっと照れ臭さいけれど……


「えへへ〜みー君」


誕生日から日が経ち、退院の日が来た。


お父さんとお母さんに迎いに来て貰う。

初めて病院の外を出た。


お父さんもあ母さんも歩きながら思い出を話してくれた。


いつも家族で買い物に行っているらしいスーパー。

子供の時よく行ったらしいファミレス。

子供の頃大好きだったらしいおもちゃ屋。


実際に見て、話を聞いても何も思い出さなかった。


なんで……思い出せないんだろう……私は……うぅ。


ごめんなさいと謝る私に申し訳なさそうな顔をしごめんねと言った。

それがなんだか……いやだった。


家についた……け、結構大きいお家……


けど、ここが家だという実感が全然湧かなかった。


自分の部屋を案内してもらって入って見渡す。


なんだか……たくさんかわいい小物とか化粧品とか色々あってすごく女の子ぽい部屋。



「……うぅ……なんだか落ち着かない……病室の方が落ち着く……かも」



学校は今夏休みに入っているので学校に行かなくて……大丈夫。


だから……たくさんここに居なくちゃいけない。


「……あれ?」


机を見るとノートが一冊置いてあった。


表紙は樋口真白と名前が書いてるだけ……

中身を見てみることにした。

これ……日記? 


3月4日


今日は人生で一番幸せな日だった☆

子供のころいつも一緒に遊んでいた公園でみっ君が私の事好きだって言ってくれた!

公園に着いた時なんか緊張で泣きそうになったけどみっ君の言葉を聞いてめっちゃ嬉しかった!!

思わず飛び跳ねてしまいそうだった。

私はこの日のことを絶対に忘れない……明日からみっくんと恋人。幸せすぎて今日は眠れないかも!!

ずっと一緒に……居たいな。



……みっ君て、みー君の事……だよね。


……告白……してくれたんだ。


「……………………」



ブー!ブー!


わわっ!! ブーと携帯が震えてるっ!!

えと、えと、えと、えと! みー君に教えてもらった通りに……で、できた!!


「も、もしもし!?」


『もしもし? 真白?』


「!! み、みーくん!!」


『ど、どうした? なんか……あぁ……初めての通話だもんな。ちゃんと出れたじゃん!真白すごい!!』


「え……そ、そうかな? えへへ……」



や、やったー褒められた!!



『あ、そうだ。窓開けてみ』



ま、窓? これ……? ……あ!!



「みーくん……!」


窓の向こう側には反対側にある家の窓からみーくんが手を振っていた。


な、なんか……顔が熱い……から目を逸らしちゃう……うぅ……


次の日から私は朝ごはんを食べたらみー君の部屋に遊びに行くようになった。


部屋で1人でいるより、みー君と一緒にいる方が楽しい……それになんだかほっとする。

ゲームとか、漫画とかアニメを一緒に見て過ごしてみー君のお母さんがお昼ご飯を作ってくれてそれを2人で食べて……夕方になったら帰る。


それで晩御飯やお風呂に入る。

その後、眠たくなるまでみーくんと通話しながら深夜まで一緒にゲームする。


そんな生活を送っていたらあっという間に夏休みが終わっちゃった……


最後の日、みー君に学校に行きたくないって言ったら迎えに行くって言ってくれたので頑張ることにした。



夏休み明け


眠たくてみー君の袖を掴みながら一緒に登校した。


学校を通い始まると先輩、同年代、後輩……学校中の生徒が次から次へと真白に話かけてくる。


やっと退院できたんだねとか。


困った事があったらなんでも言ってねとか。


記憶が戻るように私たちも協力するからとか。

ただみんな共通していたことは


『早く記憶が戻るといいね』 だった。


入院してた時と同じ言葉。


授業終わると前の私がよく行っていたらしいショッピングモール、ケーキ屋、カフェ……たくさん、たくさんいろんな人と行った。


思い出の写真を見せてくれたりも……した。

クラスのみんなは積極的に記憶が戻るよう手伝ってくれた。


みんな、私の記憶が戻って前のように……いつもの日常が戻るのを心の底から望んでいた。


本当に大好きだったんだ……と心の底から思った。


前の……私じゃない……樋口真白の事が。


でも……今の私はなんもできない……みんなに心配ばっかりかけて……迷惑ばかりかけて……

どうにかしなきゃって思うけどどうすればいいのか……わからない……


みんなが望んでるのは……樋口真白は……私じゃない……


今の私は……やっぱり、要らない子なんだ……



そして終業式の日になった。

明日から……冬休み。

みー君と一緒に家の前まで一緒に帰った。



「それじゃ」



私の家の玄関前まで送ってれて家に帰ろとするみー君の背中を見る。



「あの……」


私はみー君を呼び止めた。



「ん? どうした?」


「……………………」


ねぇ……みー君は今の私の事……好き? 前の私の事はどう思ってる? 前の私の方がー


だめ……


怖い。


聞きたくても聞けない。


「……なんでも……ない」


そうか?と心配そうに見つめてくるみー君に大丈夫だと嘘をついて家に入った。


部屋に入ってノートを見る。


3月4日のページを開く。


………………そうだよ……ね。みー君が……告白したのは……私じゃない……から。


このままじゃ。みー君から愛想……尽かされて、誰もそばに居てくれなくなっちゃう。


1人には……なりたくない。


だから……私は……みんなが大好きな樋口真白に……ならなくちゃ……


過去の日記をたくさん読んだ。


友達の事も呼び方も好きなものも日記に書いてあった。

だから……これを覚えて話し方も、性格も変えれば……いいんだ。


今の私を消して……前の私になれば……いい。

そうすれば……みんな喜んで……くれる。

そうだよね? みっ君。

冬休みの半分を日記を覚えることに使った。



「……えっと。この服は……この組み合わせ?」


前の私がお気に入りしていたおしゃれ動画を見ながら服を着る。

髪も整えて。スマホの写真に残っている前の私と同じようにおしゃれをした。


……うん。こんな感じで……いいのかな?


………………よし。


記憶を失う前は休みの日はみっ君を起こしてあげるのが日課だったらしい。

だから……みっ君の家に言ってみっ君のお父さんとお母さんに入れてもらった。


みっ君の部屋に着いた。

深呼吸をする。


……大丈夫。きっとうまくいく。


扉を開けるとそこには幸せそうに眠っているみっ君がいた。



「みっ君、みっ君!!」



ゆさゆさと体を揺らしてみっ君を起こす。



「……んあ?」



すぐ、目を覚まして上半身を起こした。



「……おはよう……ございます」



寝癖だらけで寝ぼけた様子でつぶやいた。



「もう。おはようじゃないでしょ? もうお昼前だよ?」


「マジで……?」


「マジです。全くしょうがないんだから……みっ君は」


昔のようにもうと言う私をなんとも言えない顔で見つめる。

はっとし、声も出せないほど驚いている顔をしたみっ君に言った。



「あのね……私っ、記憶……戻ったよ……みっ君、私の事支えてくれてありがとう」



そう笑いながら言ったらみっ君は涙をぽろっと流した。



「あっ……ごめっ……くそっ」



そこから子供のように泣き始めた。


……そうだよ……ね。うん。わかってた……から……だからっ悲しくなんて……ないよっ


ぎゅっとみっ君を抱きしめた。


残りの冬休みはみっ君とあの日行くことができなかったケーキ屋、ショッピング、カフェといろんなところに行った。

興味とか……全然なくて話とか合わせるのが大変だったけど、みっ君の楽しそうな顔を見ていたらまぁいいかって思える。

だけど、ふとした瞬間、みっ君は何か引っかかってるような表情で考えこむ時があった。


冬休みが終わり、記憶が戻ったことで学校はもう大騒ぎだった。


よかった!と安堵する人。


嬉しさで泣く人。


はしゃぐ人。


みんな心のそこから喜んでいたことだった。


その反応はなんだか自分の事を否定されてしまったようで……

……大丈夫……かな? 私は……ちゃんと笑えてる……かな。


授業が終わっていつも通りの帰り道。

みっ君とたわいも無い話をしながら帰っていたら寄りたいところがあるって言い出した。


みっ君について行くと近所にある公園に着いた。



「……この場所覚えてるかな? 小さい頃、よくここで遊んだよな。そしてここは」



みっ君はちらっと私を見る。

この様子……ここは……で書いてあった公園だと思う。

日記に書いてあった3月4日みっ君が告白してくれた公園。



「……うん。ちゃんと思い出してるよ。ここはみっ君は告白してくれた場所でしょ?」


「…………そう。一年前ここで俺から告白したんだ。人生で一番緊張したよ。断られるかもしれないって思うと怖くてさ……告白した後の真白の表情はすごかったな〜……そんなに俺が告白するのが意外だった?」


「そうだね。まさかみっ君から好きだって言ってくれるなんて思っても見なかったもん☆意外とそういう所は男気あるよね〜」


前の私みたいに少しからかいながら言った。



「……でも、だからこそ嬉しかったよ。飛び跳ねてしまいそうになるくらい」


……まさか、また……同じように……告白してくれる……の?

そんな期待をしながらみっ君の顔を見る。



「真白、お前……本当は記憶なんて戻って無いんだろ?」


「……………………え?」



みっ君の言葉を聞いて心臓が大きく高鳴った。

あ、だめだ……ちゃんと、ちゃんと否定しないと……



「な、なんでっ? あはは……そんな事ないよ!! ちゃんと」


「俺はここで告白なんてしていない」


「……え」



え? え? え? 今……なんて? え? 日記ではー



「ここで告白したのは俺じゃなくて真白……お前だったんだよ」



「っ!?」



「3月3日……この公園でお前は俺に告白してくれた。顔を真っ赤にして震えて泣きそうになりながらさ……返事しようと思ったけど言うだけ言って帰っていったから告白の次の日の3月4日に返事をしたんだ」



3月3日は……確か何も書いてなかった……はず!!



「こことは違う。家の近くの公園で」


「………………」


「俺がなんて返事したか覚えてる?」



っ!!



「そ、それは……」


「そうだよな。わからないよな……俺が話したことは全部日記には書いていなかったんだから」


「!! な、なんで!?」


「本当は記憶なんて戻っていなくって日記を見て思い出したように見せかけていた……違う?」



……私は黙って頷いた。もしかしたらみー君は冬休みの時から……



「……どうして記憶が戻った振りなんかしたんだ?」



どうして? そんなの……



「……だって、みんな……みんなそれを望んでいたからっ!!」


「入院中も退院した後も……みんなっ! みんなっ!! 早く記憶が戻るといいねって私に言うから……!!」


「みんなが会いたいのは……好きなのは……見ているのは今の私じゃない……」


「私は……私の事が大嫌い……」



今まで溜めていた想いを全て吐き出した。

溢れる涙も隠す気もなかった。

時々しゃっくりを上げる自分は高校生とは思えない……弱々しい臆病な子供だった。


こんな私の事なんて……誰も……



「みんなが望んでいる樋口真白は私じゃない……今の私は……要らない子……だから」



痛い……痛いっ。胸が……痛い。



「だから……そんな私は……消えた方がいいんだってっー」



「違う!! そんな事ない!!ここにいるよ!! 今の真白の事……好きな人間がちゃんと!!ここにいる!!」


顔を上げるとみっ君は泣いていた。

とても悲しそうで、くるしそうで……そんなみー君を見ていると胸が苦しくなる。



「だから……だから……そんな……要らないとか消えた方がいいなんて……そんな悲しい事っ言わないでくれよ……」



みー君は同じように子供のように泣き喚きながら言った。


その言葉は私を救い不安も恐怖も痛みも全てを蹴散らした。



「……どうして? みー君が泣いてるの?」


「うっ、うぅぅ……だってっ!! 悲しくって……そして何より……俺は……支えるっていいながら結局真白に何もしてやれなかったんだってっ……悔しくてっ」


「そんな……事ない!! みー君はちゃんと……私を見てくれてた!! だけどっ怖かった……今の私より……昔の私が好きだって……そう言われるのが怖かった……」


そう……私が……みー君を信じて……あの時ちゃんと聞いていれば……

だから……今度はちゃんと勇気を出して。


「……違っていいの?」


「……ああ」


「今の私……ぐうたらでちゃんとしてないよ? ……きっと嫌いになるよ? 失望しない?」


「失望なんて絶対しないし、ちゃんとしてなくても嫌いだと思うんじゃなくて支えたいって思うよ」


俺は涙を流しながら笑い、真白に手を差し伸べた。


「……みー君は優しんだね」


それから学校でちゃんと記憶が戻ってない事を話した。

記憶が戻らなくて申し訳なかった事、今の自分を受け入れて欲しいこと思っている事を全部言った。

そしたら……みんな号泣しながら謝ってきてくれた。


それで……こんな私のことも受け入れてくれて……それがとっても嬉しかった。


でも、最近新しい問題が……生まれちゃった。


変わったのは私だけじゃない、みー君も変わって最近色々な人と話すようになった。

他の人と話すみー君を見ていると寂しく感じる。

あと女の子と話ているのを見るとなんか……へんになる。


今日はみー君はクラスの人たちに連れて行かれちゃった。

最近一緒に帰れてない……気がする。


「……寂しい」


「……真白ちゃん?」


「……あ」


ため息をつきながら歩いているとみー君のお母さんがいた。


椎名小鳥……みーくんのお母さんで夏休みはたくさんご飯を食べさせてもらった。


小鳥さんに家に入れてもらい縁側に座る。


……夕日が綺麗。


「はい……抹茶どら焼き」


「あ、ありがとうございましゅ」


空を見上げていると小鳥さんが和菓子を持ってきてくれた。


「……うちのばか息子が何かしちゃった?」


「……え?」


「なんだが悩んでるようだから」



一緒に持ってきてくれたお茶を見つめる。



「……えっと……悩みは……あります」



小鳥さんの優しい笑顔を声を聞いたら自然と悩んでいる事を全部話していた。



「……なるほど……真白ちゃんは水樹に彼女ができたらどう思う?」



みー君に彼女……私以外の……そうするともう私とは一緒に居てくれなくなるのかな?



「……それは……いや……です」


「そう……それはね。真白ちゃんは恋をしてるのよ」


「……恋?」



え、え……私……みー君の事……好き……なの?

私……みーくんに恋……してるの……か。

そっか……うん……そうかもしれない。


「ど、どうしたら?」


「……あいつは旦那と同じでばかだから好きって言って、真白ちゃんのそのままの気持ちを水樹にぶつけてなきゃ伝わらないわ……私がそうだったから」


「……気持ちをぶつける」


「真白ちゃんは水樹をどうなりたい?」


「私は……みー君に……ずっとそばにいてほしい……です。お母さんとお父さん。一樹さんと小鳥さんみたい……に」


「……そっか。ありがとう」


小鳥さんは嬉しそうに笑った。




3月3日


クラスのみんなに協力してもらってみーくんと2人で帰っている。

告白のセリフもみんなで考えたものがある。

大丈夫……できる!!


で、でも、ど、どう切り出した方がいいのかな? い、いつ言ったら……あ、この電柱を過ぎたら言おう!

そんな事を心の中で繰り返し呟いていたらもう帰路の半分以上が過ぎていた。


ひぇ……こ、このままじゃ……まずい!!


うぅぅぅぅ!! が、がんばれ!! 私!!



「あのっ!! ちょっと!! 公園!! よりませんか!?」



やった!! 言えた!!

……今のでマジックポイント半分くらい使ったくらい疲れた……


「お、おう。別にいいけど」


みー君は驚きながら公園までついてきてくれた。


ここは……去年、前の私がみーくんに告白した所。


「……どうかした? なんか様子がおかしいけど……」


みーくんは心配そうに私を見つめてくれる。


「……うん」


「?」


えっと、えっと……あ、れ

なんていうんだっけ? あ、頭が……真っしろに……



「ま、真白!? だ、だだだだだいじょうぶ?」


「だ、だだだいじょうぶだから!! き、聞いて欲しいっ!」


「は、はいっ!」



「ーあのね。私、みっ君の事がー」


心臓がバクバクする。

大丈夫、言える。言える。言える……ここで言わなくちゃ……後悔……するからっ


「あ……え……ぅ……」


「………………」



沈黙と静寂が続いた。



「…………う」


だめだ……や、やっぱり、また……明日でも……



「そう言えばさ、もう真白もクラスにすっかり馴染んだよな」


「……え?」


不意にみー君がそんな事を言い出した。


「……今日も人気者でさ……思ったんだ。真白は根っこの部分は変わってないんだって。沢山の人が集まってさ……常に人の中心に居て。そんな真白がうらやましいよ」


俺にはできない事だからと寂しそうに言った。


「なんだか真白が離れて行ってしまいそうでさ、少し寂しいよ。いずれ俺も真白のそばには居なくなるかもしれないけど……椎名水樹っていう幼馴染がいたって事をたまにでもいいから思い出してくれたらうれー」



「好き」



みー君に抱きつきながらそう言った。



「……へ?」


「居なくなるかもとか……絶対にないよ……ずっとそばにいてよ……好き……大好き!! だから……お願いだから……そんな寂しい事言わないで……」


「ま、真白?」



言わなきゃ……私のありのままに気持ち。


みー君とどうなりたいか……



「……みっ君!!」


ばっとみー君の顔を見上げる。


「は、はい!!」


「私……を!! みー君の……お嫁さんにしてくだしゃい!!」


「……えっ」


あ、か、噛んじゃった……



「お? お嫁? ???????」


あ、みー君ショート寸前だ……




3月4日


今日は人生で一番幸せな日でした。

みーくんが公園でプロポーズの返事をしてくれました。

絶対に1人なんてさせない!! ずっと隣にいる!! だから……6年後!!け、けけ結婚してくだしゃい!!

って言ってくれた。

私と一緒で噛んだことを笑ったらみー君も笑ってた。

私はこの日のことを絶対に忘れない……また6年後日記を見ていますように。



「真白? どうした? ノートなんて見て……もう結婚式始まるぞ」


「あ、ごめん……みー君」


パタンとノートを閉じて花婿の元に向かう。


「……ふふ」


「なんだ? いきなり笑って……この服似合わないかな?」


「いや……そうじゃなくて……少し昔を思い出してたの」


「……昔か」


「……うん……ねぇ私、今幸せだよ」



「あなたのそばにいられるから」






「面白かった!」


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[良い点] 泣けるほどに最高! そして記憶が無くなったあとの人格を別の人として扱うのは特別と思ってる人ほど大変で辛いって言う気持ちが読者の私にはよくわかって 昔の元カノが多重人格で記憶はあっても感覚や…
[良い点] 感想欄見て、両親が他の話の2人と名前一緒なのに気づいた。 続きだったらいいな〜 記憶喪失ものは思い出すのが定番だから、思い出さないままハッピーエンド向かえるたのもなんかいいな。
[良い点] 水樹の母親の名前聞いてビックリした。そっか。そういうことか。 水樹のお父さんの言葉が妙に現実味があったのは、あの経験があったからなんですね!
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