77-昇華
「ウミヘイ様、ナミヘイ様!?」
魔族の兵士は倒れたミノタウロスたちに気づく。同じ部屋で抱き合っている俺たちに敵意を向けてくる。
「お前たちがウミヘイ様たちを。この寒さもお前たちか?」
「ヒートコート」
アイラを熱の膜で覆い体を離す。
「今魔力が飽和状態だから波及するかもしれない。だから気を付けて」
アイラへ牽制をいれ、立ち上がり扉のところにいる魔族の元へとゆっくりと歩く。
「そうだ。おれ、おおっとっとっと」
凍った床に滑りずっこけてしまった。
「キリュウ!」
「大丈夫だから」
「お前が、お前が!」
扉の魔族がまだ床に座り込んでいる俺に襲い掛かってくる。持っている槍の刃を俺の額めがけ、凍った床も気にしないとばかりに。
「絶対零度」
目前で刃が止まり、俺の命は助かった。いや、止まったのは刃だけではない。槍をもつ腕も、走っていた脚も、怒り心頭だった表情も、こいつを生かしていた心臓もとまった。この魔族は絶対温度0度完全停止状態になった。
……絶対零度でこれだけの消費しかならないのか。先が長いな。
自身最大の魔法を使おうと魔力はまだまだ全然残っている。よくこれだけの魔力を受け入れられたと驚くものだ。
……サーモグラフィー。
こちらへ向かってくる熱源の軍団がある。さっき入ってきた兵士は『水回りが止まった』と言っていた。恐らく≪兄≫の魔法はこのダンジョンの水道代わりをしていたのだろう。あれがあればポンプがなかろうと下から上へと水を送れるから。でも、それが止まったため何かあったと思い軍勢を送ってきたと思われる。
立ち上がり、扉の奥へと歩き出す。
……耐えてくれよ俺の体。
扉の外側は吊り橋があった。対岸にあるのは洞窟。上には岩の天井があり、鎖が吊るされ、橋や部屋を固定している。下には予想通りため池があった。池にはちらほらと流氷のように氷が浮いている。
橋の奥、洞窟のほうに軍団が仁王たちしていた。
「ウミヘイを殺ったのはあなた?」
軍団の中から黒く伸ばした髪に、緑の服をきた女の鬼が出てきた。
「ああ、あんたがこのダンジョンのボス?」
「いいえ、私はただの雇われ兵よ。ここの頭はあなたが倒したあの2人。雇い主がなくなったならもう戦う必要はないけど、そうもいかないようね」
橋を凍らせ斬られて落とされないようにする。コールドフィールドで冷気を発し、俺有利のフィールドを作り出す。
「斬風」
「絶対零度」
俺に襲い掛かる風の刃が止まる。絶対温度0度。それは絶えず振動している原子が完全に動きを止める温度。風とはつまり、空気の動き。その動きを完全停止させることで風は止まり、氷の壁が作られた。
……一撃必殺技をこんなことに使うとは。
魔力が有り余っている状態だからできる芸当。いつもなら空気を停止させるなんて無駄なことはしない。相手に触れて即死を狙う。
氷の壁を蒸発させながら氷上の橋を少しづつ少しづつ歩き出す。決してこけないよう気を付けながら。俺がゆっくり前へ進むと軍団はゆっくり後退していく。
「引くな。相手は一人だ。全員でかかれ」
先ほどの女鬼が檄を飛ばすがかかってくる兵士は現れない。
「逃がすと思うなよ」
……貴重な魔力発散場なのだから。
「氷柱×絶対零度」
俺を中心に氷柱を作り、軍団向けて飛ばす。だが、魔力が多すぎてうまく操作できずほとんど命中はしなかった。氷柱に貫かれる兵士はごくわずか、2桁にもいかない。ほとんどの氷柱は壁や天井、床に刺さった。
……たしかに、これは大変だな。アイラはこんなのを操作しようとしているのか。
しかし、方向さえあっていれば問題はない。もともと当てる必要のない魔法なのだから。
岩壁に当たった氷柱からそれ以上の氷のとげが出現する。そのとげに触れた魔族は一瞬で氷の彫刻、完全停止状態になった。それを見た軍団は動揺し、恐慌状態へ陥る。ただでさえボスを失って士気が下がっている中で仲間が一瞬で凍ったのだ。それで平静を保てる奴などなかなかいない。ある者は逃げようと後ろへ走り出す。しかし、後ろにも氷柱は刺さっている。そこから波及した氷のとげが退路を塞いでいた。ある者は自暴自棄に叫びながら俺に詰め寄ってくる。しかし、氷上の橋に足を踏み入れた瞬間凍ってしまった。どうすればいいかわからない者は立ち止まり、とげの餌食になっていく。
「竜巻」
前、右、左と3方向から竜巻が俺に襲い掛かる。
「絶対零度」
しかし、その竜巻も凍ってしまった。しかし、3方向と思った竜巻は実は4方向だった。4つめは下。水をまとって大きく、重い水流が橋ごと俺に襲い掛かる。しかし、その攻撃も効かなかった。橋は切れることも、壊れることも、揺れることもなく竜巻は止んだから。俺の氷は生半可な風で壊せるほどもろくはない。
「そ、そんな」
勇逸戦意があった女鬼の戦意も喪失しその場にへたり込んだ。俺はその女のもとへ歩いて行く。
「強いわね。こんな全く歯が立たないのなんて初めてよ」
「それはどうも。絶対零度」
最後にそれだけを言い残し女の鬼は凍った。
……これは俺の力じゃない。アイラの魔力を借りているだけだ。だから決して驕らない。
女の鬼を倒したころには軍の9割以上が氷の彫刻に変えられていた。あとは待っていれば全滅するだろうと思いコールドフィールドを解除する。まだ魔力は余っているがこれも発散方法はもう考えてある。だからその前にやらないといけないことを終わらす。といっても、凍らせた橋の氷を溶かすだけだが。熱で橋を溶かしていく。なんならコールドフィールで寒くなった場も熱を発し温めていく。
……私はストーブです。人間ストーブです。決して火事は起こしません。
俺が橋や扉の氷を完全に溶かし切ったころ軍の悲鳴も止み100%氷の彫刻に変わっていた。なおも拡大を広げる絶対零度のとげを停止させ、氷の彫刻群に手をかける。
「昇華」
昇華。個体が液体にならず直接気体になる現象。二酸化炭素などがこれに該当する。その現象をモチーフにして魔法を編み出した。絶対零度で凍らせたものはいわばコールドスリープ状態。ないとは思うが氷が解ければまた生命活動を再開することもあるかもしれない。一撃必殺技なのに殺さなかったらそれは必殺ではなくなる。それになにより。
……道の邪魔。そっから帰るんだから。
自身が凍らせたものを一気に気体へと変じさせる。氷からはキラキラと光る白い煙がでた。量が量だけに大量の魔力を使い、飽和状態だった俺の魔力は俺の器にちょうどいい塩梅にまで消費された。有機物限定だから岩などの無機物は氷だけ溶けてそのまま残ったが、凍らせた魔族たちは消えて装備していた武器類だけが残った。消える彫刻たちからは白い粉がでてくる。
……なにこれ? 骨粉?
凍っていた場所は白い粉だらけだ。完全にこれは想定外。
……通りたくないな。ほうきでもないかな。
緊張で忘れていた体への負担が一気に襲い掛かってきて俺はその場に倒れこんだ。白い粉がちょうどクッションの役割を果たしてくれて岩肌にあたり顔面血だらけになることを回避できた。
……うー、通りたくないといったものにダイブするとは。不覚。
身体的には助かったが精神的には完全にダメージだった。
……うー。べたべたするー。口んなか入った。ばっちい。しょっぱ。
「キリュウ。もう開けて大丈夫」
扉の向こう側からアイラの声が聞こえてくる。しかし、今の俺にアイラに届くまで声を届ける元気がない。
「ちょっと、返事しなさい」
アイラは扉を開けて剣を構えながらでてきた。倒れた俺を見つけるとすぐに駆け寄ってくる。
「大丈夫?」
「魔力の完全開放に体が悲鳴をあげました。もう立つ元気もありません」
「そう、なら少し休んでなさい」
そういうとアイラは俺の頭を太ももに置いた。
……ひ、ひひひひひひひ、膝枕!?
「ゆっくり休みなさい。ここは温かいからよかったわ」
……温めといてよかった~。
俺は眠りについた。アイラの膝の上で。魔族の死体からでた塩に囲まれながら。
第二章 偽モノ 完!
ここまで読んでいただきありがとうございました。
強い! 強くしすぎた。でもまだ強くなる。そんな物語。




