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異世界転生してもハーレムは作れません  作者: ミカン
第二章 偽モノ
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74-とたんに怖くなった

「行くぜ!」


 青緑のミノタウロス《兄》がこちらへ走ってくる。斧を後ろに振り上げ俺へと攻撃してくることがわかる態勢だ。


「氷へ……ふぇ?」


 氷壁を作りガードしようとしたが突然右足が宙に浮いた。右半身が落下現象に襲われる。体が安定しなくなり気を散らされたせいで魔法を使おうとしたイメージが霧散した。


「死ね」


 眼前へと迫る《兄》が斧を振り下ろす。


 ……やばい、間に合わない。


 防御手段が間に合わないと思われたがその斧は俺に届くことはなかった。斧がアイラの剣によって止められていた。


「ふあっ」


 ミノタウロスの巨腕から降ろされた斧をアイラは平然と受け止め、それを打ち返した。


 ……その細腕のどこにそんな力が!?


 アイラとミノタウロスが肉迫する。斧では剣のスピードについてこれないのかややアイラのほうが優勢な感じだ。アイラの剣戟に《兄》は防御と回避で精いっぱい。無数の切り傷を生み出している。


カキンッ


 アイラが防御姿勢をとった《兄》の斧をはじいた。≪兄≫の態勢が崩れ、体が後ろ向きに倒れかけている。


 ……チャンス!


 俺は援護するため氷柱を《兄》へと向ける。

 アイラがとどめといわんばかりに《兄》の眉間に向けて突きをくり出そうとしたところでこけた。目の前にいるのはこけたアイラと態勢を戻した《兄》。


 ……まずい。


 チャンスが一転してピンチになった。援護のために準備していた氷柱をアイラと《兄》の間に繰り出し、障害物を作る。《兄》はジャンプで後退し、アイラもその間に立ち上がった。


 ……なんだ?


 氷壁をだそうとしたときも俺は気がそがれ、さっきのアイラもチャンスでこけた。急に地面がなくなったようなかんじがした。地面を見渡すがこの部屋は一面木造空間だ。床がへこんでいたり穴が開いていたりすることもない。


 ……魔法? 


「はあ、あぶねえ、あぶねえ。助かったぜ弟よ」

「近距離戦はまずいのでは、ここは距離をとって」

「いいやだめだ。バカ魔力2人だ。距離をとったらじり貧だ。いくぞ」


 2人のミノタウロスの作戦会議が終了し、またさっきのミノタウロスが俺へと走っていく。


 ……そっちが肉弾戦はお望みならしてやる。凍らせればいいんだ。


 考えてもよくわからなかったため頭を脳筋にシフトする。誰であれ凍ればそれは死と同じだ。それが最も早く簡単に片づける方法なため迫ってくる《兄》に俺も向かう。俺と《兄》の距離1メートルというところで突然水が顔に吹きかかった。


「ぶっ」


 水に殺傷力はない、しかし視界を邪魔され、鼻に水も入る。気もそがれ迎撃態勢が崩された。


「もらった」

「させない」


 アイラが間に入り《兄》の斧を防ぎはじき返す。穴が消え、水が出なくもなった。そのまま追撃へシフトしようとすると《兄》の足元の床が消え、そこから水が噴射し、アイラの顔面にかかる。


「フンッ!」


 噴水を斬り《兄》が斧で攻撃する。アイラは目をつぶっているにもかかわらずその攻撃を剣で受け止めたが、受け止めきれず吹き飛ばされた。


「氷壁」


 お互いが《兄》から離れたことにより氷壁を挟んで距離を取る。


「大丈夫」

「受け止めきれなかっただけ。けがはしてないわ。それよりもあれは」

「床に穴を開けてたね」

「あれをやっているのは《弟》のほうよね」

「多分そうでしょ。じゃないと彼見てるだけになるし。水も弟なのかな」

「いいえ、多分《兄》の方よ。天井を見て」


 アイラに言われた通り天井を向くと天井には水が溜まっていた。まるで重力が反転したような感じだ。


「水を逆流させる魔法か」

「多分そうだと思うわ。私たちがこの部屋に来た魔法もそれね」


 ここへ来るとき水がどんどん体を押し上げてここまで来させられた。さながら水流エレベーターだった。


「この床の下に水をためているのでしょうね」

「水を逆流させる魔法と床に穴を開ける魔法」

「一見しょぼそうなのに使い方と連携でここまで強いなんて。すごく厄介だわ」

「うん。……え?」

「どうしたの」


 ……しょぼい? 確かにやっていることは水を逆流させているだけ、床に穴を開けるだけ。じゃそれを人体にできるとしたら? 血を逆流させれば、体に心臓や脳に穴を開けたら。穴を塞いで体を切断されたら。


 たらればかもしれないがそれができるかもと思うととたんに怖くなった。だってこういうことをできたやつは元の世界の創作物に居たのだから。


 ……絶対零度はだめだ。触れていいかわからない。


 《兄》に触れたら血が逆流させてくるかもしれない。


「ねえ、どうしたの?」

「いや」


 アイラはこの考えに至ってないようだ。伝えるべきか迷う。


「距離をとって戦おう。奴らの連携を防げる気がしないし」


 伝えないことにした。まだ確定ではない。


「ええ、……わかったわ」


パキッ


 《兄》が氷を砕いてやってきた。


「作戦会議は終了か。まあ、それでも勝つのは俺たちだがな」

「氷柱」


 《兄》めがけて氷柱を発射する。《兄》は横へ飛んでかわすがすぐに追撃を加える。


 ……とにかく近づけさせてはダメだ。もっと早く、早く。


 氷柱の連射性をどんどん上げていく。発射後すぐにすぐに次を次を。だが、そのすべてを避けられる。しかも距離はちょっとずつちょっとずつ迫ってきている。


 ……一方行がだめなら。


 俺の後ろ、側面、天井、床、5方向から氷柱の束だ出る。


「当たれ!」

「開け!」


 氷柱の荒らしが《兄》を襲う。しかし、天井に張り付けていた氷柱は天井に穴が開いたことで方向をわずかにずらされ≪兄≫には当たらない。


「上がれ」


 兄の周りから穴がいくつか開き水が噴射される。その水たちは先ほどよりも勢いが上がっていた。ホースからの水くらいだった威力が消防が消化するときの水の威力になっていた。その水の勢いに氷柱が押されはじかれる。しかし、≪兄≫には着弾した。


「はあ、はあ」


 あまりのごり押しに魔力をかなり消費してしまった。あれがちらつくせいで息も乱れてしまった。


「あ~、ほんとすごい魔力量だ」

「え?」


 ……生きてる?


「でも、この程度の攻撃で死ぬことはないな」


 《兄》は両腕でガードをして攻撃を耐えきっていた。《兄》の腕は凍っているがそれ以外は無事、腕の氷も振り払ったらなくなった。


 ……一発一発がかなりの威力を持っている氷柱だ。あれで死なないなんて。


「ちょっと休んでなさい。私が相手するから」

「待って、ダメ!」


 アイラの左腕を掴んで引き留める。


 ……接近戦なんかしたらやられるかもしれない。


「ねえ、何があったの?」

「いや、だってあいつは」


 伝えるか迷う。確定情報ではない。でも言わなければアイラは飛び出して向かうだろう。すでに俺がつかんだ手を振りほどかれてしまった。


「あいつは血を逆流させれるかも」

「!? 確かにその可能性はあるわね」

「即死攻撃があるかもしれないの。だから、近づかないほうが」

「かも、ね。絶対ではなく」

「かもでも即死だよ。対策しないと」

「あなたがやっているのは対策じゃなくて、怖くて逃げてるだけだわ」

「そうだよ。怖いよ。だって即死だよ。くらったら死ぬんだよ」

「……だから?」

「は? 命が大切じゃないの?」


 ……いくらイギリスの銃社会は命を投げ捨てる教育なのか。


「ごめん、何を言っているのかわからないわ」

「だから」

「即死攻撃なら私たちもあるじゃない。あなたは焼き消すことも、凍らせることもできるはずよ。私だって電気ですぐ殺せちゃうし」

「あっ」

「そもそもこんな魔法がある世界なんだから人を殺す手段なんていっぱいあるでしょ。魔法がない私たちの世界でもたくさんあったのよ」

「……」

「それなのに、あるかもわからない攻撃にびびってあなたは何をしてるの!」


パチン!


 アイラにビンタをされ、頬がジンジンと痛む。その痛みが今までの戦いを思い出させる。


 ……そうだ。もっと過酷な戦いがあったじゃないか。熊のときなんて殴られただけで骨が折れるかもしれない戦闘だったし、ホムラだって攻撃が通らなくてめちゃくちゃ強かった。何度も死ぬと思った。対して今はどうだ。死ぬかもしれないあるかも不明な攻撃を警戒して、一人で勝手に焦り、普段の調子を出せていない。俺は驕っていたのか。豊富な魔力で攻撃していれば敵が屠れるから。燃やせば生物は死ぬ。凍らせれば生命は止まる。サポートに徹すればヘイトを買わず安全にやってくれる。死ぬ危険性が限りなくゼロだった。最近の戦いですっかり勘違いしていた。王族の学生も言っていたじゃないか「撃っていいのは撃たれる覚悟のある奴だけだ」と。俺は撃たれる覚悟もないまま撃っていたのだ。俺は殺される覚悟もないまま敵を殺していたのだ。


「仲間割れだチャンスだぜ兄者」


 ……覚悟を決めよう。もちろん殺されるのは嫌だ。自暴自棄になるわけじゃない。対策はする。でも、逃げはしない。


「おう」


 《兄》がチャンスと見て迫ってくる。


 ……敵は斧を持つ水を逆流させる前衛と床に穴を開ける後衛。《兄》は血を逆流させることができるかもしれない。《弟》は人体に穴を開けたり、穴を塞いで体を切断できるかもしれない。床の下は水がある。


 空気中に冷気が充満する。その冷気により《兄》が警戒して足を止めた。


 ……熊やホムラほど強くはない。絡めてが多いだけ。自分の有利なフィールドで戦っている。戦い方がうまいだけだ。だったらそれを対策する。やってきた攻撃を対策し、来るかもしれない攻撃を警戒する。


 アイラを腕を引っ張り、抱き寄せる。


「コールドフィールド、ヒートコート」


 急な環境の変化を生物は嫌う。この部屋を冷気で満たすことで敵のパフォーマンスを落とす。さらに、冷気は伝播する。この部屋に断熱材が使われていれば厳しいがこの冷気は部屋の外へも向かう。それは噴水を防ぐ手立てとなる。周りの水に冷気が伝播して氷へと変える。そうなったらもう水の逆流は使えない。

 そして、環境の変化から味方を守るため周囲の温度変化を防ぐ膜で覆う。熱血の応用だ。これでアイラは一定の温度しか感じなくなる。暑いも寒いも感じない。だから環境変化に対するアイラのパフォーマンスが落ちることはないはずだ。


「ごめん。覚悟は決めたから。反撃を始めよう」

最後の数行とたんにかっこよくなったな。


次回 魔法解禁

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