73-火が魔力で、料理が剣
「さっきのどうやっったの?」
奥へと歩いている最中アビーから質問が飛んできた。さきほどの隊長リザードマンをどうやって仕留めたか気になるのだろう。俺にあいつの肉体を貫く力がないと思っているはずだ。
「熱で剣先を熱くしたの。俺はあいつの体を貫いたというより体を溶かして心臓を貫いたの」
「それって火ですよね。ダンジョンの毒は作動しないのですか」
俺がアビーに説明すると前からホレスの質問が飛んでくる。
「火じゃなくて熱。ただ熱いだけで火はでてないからダンジョンの毒とやらはでないの」
「熱。……火とは違うのか」
「火はね燃えているから熱いんです。燃えているから毒もでるんです。でも俺の魔法は燃えてないから、ただ熱いだけだから毒もでないの」
「難しいですね」
「わかんない」
……難しいね。うまく、自分でも説明できないよ。
俺の説明ではホレスもアビーもわからないようだ。
「アイラさん、うまく説明を」
「え? えーと、できたての料理は熱いですよね? でも、火がついているわけではないです。それは料理を作るときに火で熱くしてるからです。キリュウの魔法も同じ感じで魔力で熱くしてるんです。さっきの攻撃は火が魔力で、料理が剣になってるんです」
「なるほど、わかりやすい」
「アイラさんすごいです」
……いやいや、俺の魔法よ。すごいのアイラじゃなくて俺よね?
「いえいえ、ありがとうございます」
「ということはキリュウはキリュウはここで火の攻撃ができるということか?」
興味なさそうだったネイサンが聞いてきた。
「限定的ですね。物体を熱くできるだけですから。全員の剣を熱くして殺傷力を上げることは可能ですけどそれすると全員刃に触れることができなくなりますし危険かと。あと、さっきは一瞬だったからよかったけど長くやりすぎたら剣先が溶けて曲がりそうです」
「あまり薦められないな」
「剣は高いんだぞ。やめろよな」
ネイサンはおすすめしないよ程度だったけどライアンに必死に止められた。
「あと、熱中は氷が使えません。援護不可です」
「それはだめだな。あの壁はでかいからな」
……やはりあの氷柱で障害物を作ったのはでかかったか。さすが俺。遮蔽の使い方、1v1、2v1の大切さをわかってる。
「雑談はそこまでのようです」
シンシアの声で全員が臨戦態勢に入る。細い廊下その先に鬼の敵。
「ここまで入られるとは下のリザードマンは雑魚ばかりか」
「……」
「まあ、いい。死ね」
その言葉と同時に鬼が手を振る。
「シールド!」
シンシアが咄嗟に防御態勢に入ったが何も見えない。前に出ているシンシアにも何も影響なさそうだ。
「風? ですか」
俺には見えなかった。いや、全員見えなかったがシンシアは受けた攻撃からどのような攻撃かわかったそうだ。
「将軍みたいなやつか」
シンシアの言葉を聞いたライアンがつぶやいた。
「防いだか。だが、いつまで防げる」
「くっ」
見えない攻撃で俺には何が起こっているか不明だが鬼とシンシアの攻防が行われているのだろう。ライアンの言っていることが正しいなら敵は将軍みたいに風の刃を飛ばしてくるやつ。
……厄介な。
ただでさえ不可視の攻撃なのに、この狭い廊下では数の有利を生かせない。さきほどまで俺たちがやってたことを今度は相手にされた。
「引くぞ」
ネイサンの号令で後ろへ歩き出す。
「シンシア悪いが耐えてくれ」
「了解」
「氷壁」
すこしでもシンシアの負担を減らそうと氷の壁を作るしかし、俺の作ったものなど紙のように風の刃に破られた。
……威力高っ!?
こんな高威力バンバン連発してくる相手もやばいし、これを耐えてるシンシアもすごい。
「その右の部屋に入れ」
後ろから飛んできた号令に反応してアビーから順に部屋へ入っていく。
「扉を固めろ」
「凍れ!」
空気中の気体をまとめて凍らせ触れると死ぬ壁を形成した。
「この氷には触れないで」
すぐにみんなに注意喚起をする。マイナス200度くらいだからほんと触れちゃまずい。咄嗟に大きなのを作ろうとするとどうしても温度は低くなる。
……これを部屋の外へも。
部屋の外にも冷気を出していく。これで敵も引いてくれたらなと願望を込めて。
「ほう、これはすごい。俺でも簡単には裂けないな」
ぶおおおおおおおお、ガリガリガリガリ
部屋の外からものすごい音が聞こえてくる。台風のときのような強風の音が聞こえたかと思えば、壁が削れるような音がしだした。
……まさか!?
「下がれ」
急いで机の下へと隠れる。
ダン
壁1面が取り除かれた。密室空間は一瞬にして開放的な空間になった。
「後ろまで」
ハンナから驚きの声があがる。鬼は俺たちがいた部屋だけでなく、その後ろの部屋の壁も削ったのだ。
「広い空間になったな? 狙ったか?」
「どうかなっ」
ネイサンと鬼の戦闘が始まった。ネイサンの剣を鬼は素手で相手している。そこへ鬼の背後からフィンの斬撃が飛んだ。しかし、それはかわされる。
「ほう、お前気配隠すのがうまいな」
「っ!」
鬼に蹴りを入れられフィンは反対側に飛ばされる。
「はああ」
その蹴りを入れた足向けてライアンとアーロが剣を振り下ろす。
「ちっ」
「うっ」
「っ」
見事鬼の足を切り裂いたが鬼の拳で2人が飛ばされた。
「足をやられるとは油断したな」
「はっ」
ネイサンの伸びる剣が鬼に迫る。鬼は剣をかわし手を振る。風の刃だ。不可視の攻撃をネイサンの前にでたシンシアが防いだ。その後もネイサンの伸びる剣が鬼に迫る。致命傷は与えれないが、傷をいくつもいくつも作っている。鬼からでる刃はすべてシンシアの盾が防いでいる。
「勝った」
ホレスが勝ちを確信していた。
「あれは、ネイサン様とシンシア様の連携だ。あの2人のコンビにかなう者は騎士団にもそういない」
俺たちが勝ちを確信し始めたころそれは瓦解した。
「うざい」
「「うわあ」」
2人が飛ばされたのだ。壁まで突き飛ばされ、すぐには立てない状態だ。
「氷柱」
「ぐっ」
すぐに俺が追撃する。命中するがすぐ砕かれた。
「はあ、はあ」
それでも鬼も疲れている。片足は落とされているのだ。これはいけるはずだ。
「そこの2人は厄介だな。送るか」
鬼が腕を振り上げた。ガードするため壁を作るがその風は壁を透過した。壁を砕いたのではなく砕くことなく俺へ届いたのだ。
「ふぇっ」
「きゃっ」
俺と後ろにいたアイラが浮かされ後ろに飛ばされる。後ろには壁があった。反射的に高等部へ手を回してしまう。しかし、後ろにあったのは固い壁ではなかった。水だ。下から上へと上昇する水が俺たちを受け止め上へ上へと押しだした。
水でどんどん押し上げられ着地した。
「ぐへっ」
「ん」
そこは部屋だった。全面青白く光る石で覆われた部屋でも、城のように暗い部屋でもない。床、壁すべてが木材の空間だった。
「ハヤテめ、めんどうなのを送りおって」
「まあまあ、兄者獲物がきたのですから、久々に戦えますよ」
「ああ、油断するなよ弟よ」
部屋の奥に2人のミノタウロスがいた。兄と呼ばれた青緑のミノタウロスと弟と呼ばれた水色のミノタウロス。斧をもった2人のミノタウロスだ。
俺とアイラは暗い鬼から木で囲まれた牛人間2人に、環境が一気に変わっていた。




