72-俺は今盤面をコントロールしている
「時間だ。行くぞ」
包囲網が完成したという知らせが来てから時間をとり俺たち10人は城へとつながる橋に立った。
目の前の城には城壁なんてものはない。橋を渡ったらすぐに建物の中だ。だからか橋からは誰一人も魔族は見えなかった。
「行くぞ!」
10人全員で城目指し橋を渡る。先頭にネイサン、シンシア、ホレスと騎士の3人。後方にアーロ、アビー、ハンナ、真ん中に俺、アイラ、フィン、ライアン。サッカーで例えたら3-4-3のバランス型みたいな感じだ。まあサッカーと違って、前衛が攻め、後衛が守りではなく全員攻めなんだが。
他の箇所からも歓声が聞こえる。この城は6つの橋とつながる大変アクセスのいい建物だ。あの水流のトラップに絶対の自信があってそれ以上の守りをおろそかにしたのだろう。だから、6か所から攻めることになった。分断は悪手かもしれないが、そもそも、狭い橋、狭い玄関を全員が通れないので攻める範囲を広げた方がいいという判断なのだろう。
「突き破るぞ」
木製の扉にネイサンが剣を突き刺す。
「スチームテール!!」
「ぐわっ」
扉の後ろでうめき声が聞こえる。ネイサンの伸びる剣が扉を塞いでいた魔族を蹴散らしたのだろう。前衛3人が扉にタックルをし扉をこじ開けた。
「突入!」
前衛に続き俺たちも中に続く。青い光があった外とは違って中は明かりのない空間だった。暗くて何も見えない。
……サーモグラフィー。
急いでサーモグラフィーを使用して視界を確保する。これだと味方敵の判別がつきにくいが何も見えないよりはましだろう。全身甲冑の騎士は鎧のおかげで体温より表面温度が低いからそこで判別ができるかもしれない。
……とりあえず見てる方向が一緒の人は敵じゃない。敵はこっちに向かってくる人だ。
6か所から入ってくるからそのうち向かい側も味方という状況になるかもしれないがそれまでには他の人が暗闇に目が慣れてくれるかもしれない。今は他の人が暗闇に慣れてない間自分が戦えるだけでいいのだ。
前衛の前に出て向かってくる敵に魔法を撃つ。
「氷柱」
黒の槍が緑色を貫き、緑を青へと変えていく。氷柱が敵に当たり、死んでいったものたちの温度を奪っているのだ。
「しばらく俺が相手をします。皆さんはその間に目を」
「任せた」
一番前へ出て氷柱を前方全体に射出する。後先考えず魔力を消費していく。圧倒的な弾幕が魔族たちを襲い全員が暗闇に慣れる時間を見事稼げた。
しばらく経つとネイサンから交代の合図が来た。俺は暗闇に目を慣らすためサーモグラフィーを解除し暗闇に目を向ける。
「フレンドリーファイアしてないよね?」
「ええ、見えてたんじゃないですか?」
味方に魔法が当たってないか心配になって暇そうなアイラに聞く。今のアイラは周りに人が多いため素がでてない。
「色だけだから」
「what?」
「視界がサーモグラフィーカメラにみたいになる魔法なの」
「ああ、確かにそれじゃ不安ですね」
これだけでわかってくれたれらしい。アイラと話していると俺の目も暗闇に慣れてきた。
騎士3人が前にでてリザードマンたちの相手している。フィン、アーロ、ライアンも違う方向へと飛び出し3人の連携でリザードマンたちの相手をしていってる。俺たち4人はそれを見ているだけだ。狭い室内で戦うには人数が圧倒的に多い。そのうえ氷柱が障害物とかしているせいでさらに狭くなっている。だから後方4人はやることがない状態なのだ。
……俺はあるか。
後ろから氷柱で強襲する。当たれば大ダメージ。外しても氷のオブジェクトとして残り続け障害物となってくれる。逆にこちらが倒して前に進むときは氷を溶かして道を広げる。後退しようと逃げるものが溶けた氷にスリップして転ぶなんてこともあるかもしれない。
……ハッハッハッ。俺は今盤面をコントロールしている。
パキン
氷でチェスのキングを作りそれを強く床に置く。氷にヒビが入る音がした。俺が強く置いたから氷の駒にヒビが入ったのだろう。
バキバキバキバキ
……そうそう、ヒビヒビ。ってこんな音鳴らないよね。
急いで手で周りを探るが駒は健在だ。ならそれが意味するのは。
「お前らこんな氷に何をびびって嫌がる。これくらい壊して進め!」
俺の氷が壊されたのだ。
奥から出てきたのは他より一回りも大きいリザードマンだ。三社鉾を振り回し氷を砕いていってる。
「厄介な。氷柱!」
大きなリザードマンへ攻撃するが着弾前に三社鉾で砕かれた。
「ぬるいわ!」
「氷壁」
大きなリザードマンを氷の壁に閉じ込める。
「邪魔だ!」
しかし、一振りで破られた。
前6人は他のリザードマンたちでていっぱい。あんな強いのを相手する余裕はないだろう。
……あいつと接敵する前に倒さなければ。
その時後ろから何かが飛び出した。
「むっ?」
大リザードマンが三社鉾を振ろうが振れなかった。
「効かんわ!」
その後すぐに大リザードマンが大声を上げた。
「何か起きたの?」
後ろを振り返るとそこにアビーの姿がいなかった。
「アビー様の攻撃です」
説明してくれたのはハンナだ。
「サーモグラフィーカメラを使ってみなさい。分かるわよ」
アイラに言われサーモグラフィーを使う。緑の大群の中に置くで2つの緑が戦闘している。大きな緑がリザードマンで小さな緑がアビーだろう。そのアビーは空中で動いていた。俺の動体視力ぎりぎり見えるものすごいスピードで動きながら、空中でジャンプでもしているような軌道をしている。
……アイラはこれが見えるのか。
戦闘経験は多くないはずだがこの暗さにも拘わらず余裕で見えている口ぶりに驚く。俺でもギリギリなのだ。サーモグラフィーを使っているから見えているだけで肉眼ならまったく見えなかった。
「彼女の魔法は飛べるんですか」
「いいえ、糸という魔法です。糸を足場にして空中移動しているのです」
アイラの質問にハンナは丁寧に返した。
……なんてワイヤー殺法。
「でも相手は効いてないようですね」
そうなのだ。さっきから巧な動きで翻弄はしているが肝心の刃が相手には効いていない。そうとうな硬さだ。
「ハンナさん剣貸してください」
「何をするんですか」
「援護です」
氷の壁で大リザードマンへの道を作る。そこを全力で走る。
「ちょこまかとちょこまかとうっとうしいぞ」
大リザードマンはアビーに夢中で俺に気づいていない。
「動くな」
「っ!?」
アビーの殺気を含む声が聞こえる。とても普段の声とは思えない声だ。
「今」
「ああ」
俺は大リザードマンの左胸めがけて剣を突き出した。俺の剣は大リザードマンの筋肉に覆われた胸に止められた。
「そんな力で俺が倒せるか!」
「何がしたいの?」
大リザードマンとアビーから舐められるがそれは一瞬だけだ。俺の剣はゆっくりと確実に大リザードマンの胸に刺していった。
「がっ!?」
「力? だから?」
下から大リザードマンの顔を覗くようにして煽る。その後も剣は入っていき大リザードマンを絶命させた。
「隊長!」
「今だ。掃討するぞ。アイラ様も」
敵の隊長が殺されたタイミングでネイサンが号令をだした。アイラも参戦して一気に残ったリザードマンたちを倒していく。俺の仕事はもちろん、敵を逃がさない、1v1を作る壁を作ること。
頭を失った敵は士気も落ち淡々と倒されていった。
「敵の隊長を倒してくれて助かった。だが、祝勝はまだだ。先へ急ぐぞ」
すぐに城の奥へと歩き出した。




