70-地下都市
下へ下へと歩き続ける。青白く光る石たちに囲まれながら。歩いている途中で誰かと接敵することも誰かと合流することもなく、分かれ道を延々と右に行き続け昨日と同じような部屋を発見した。見える惨状は昨日よりひどい。部屋一面に広がる血の跡。地べたに落ちた頭蓋骨。壁に槍で突き刺された青い体。
……あ、ここ人間が勝ったんだ。
壁に突き刺さった死体は鬼であった。血塗られた頭部にツノが2本生えている。ドアを開けて部屋を素通りする。あんまり死体がある部屋にいたくはない。
またまた、何もない洞窟を下へ下へいく旅路が始まったが、それはすぐ終わった。何かあったからだ。死体だが。やばいものが通った跡のように死体が置き去りにされている。さっき部屋で見た死体と違ってこっちは急所一筋で絶命させられたものばかりだ。
「臭い」
「しっ、気づかれるでしょ」
「大丈夫大丈夫」
……サーモグラフィーで周りに誰もいないことは確認済みです。
鼻を抑えながらそれでも前へ前へと進んでいく。そこでやっと道の合流地点と思われる広場へとたどり着いた。分かれ道が16個もあるところからするとあの部屋も16部屋あるのだろう。その道とは別にひときわ大きな扉がある。この扉の先がこのダンジョンの深部へとつながる扉なのだろうか。
アイラを見ると他への分かれ道をちらちらと見ている。捕まったかもしれない人達が気になるのだろう。
……仕方ない、後方確認も大事だもん。後ろから挟まれたらとんでもないし。
「行くよ」
「うん」
本当は扉の先へ行きたかったが、分かれ道をしらみつぶしに見て回ることになった。全て回った結果は散々。人間の死体、魔族の死体。どちらかまたはどちらもの死体が部屋に転がっていた。ここまでの道、部屋に生きている者は一人もいない。血だらけで転がる者ばかりだ。後ろの方は人間の死体を見て吐いていた。俺も吐きはしないが見てて気分は悪くなっている。
「少し休もう」
奥への扉がある場所へ帰ってきて休む。ただ歩いただけだが出血現場で過ごすのはすごく疲れる。
「他の人たちは全滅したのかしら。ネイサンやシンシアは」
「んー、人間の死体がない部屋もあったし、まだ生きている可能性もあると思うよ」
「そうなの?」
「多分だけど。騎士が着けている鎧とか剣がひとつも落ちてなかったんだよね」
「……確かに」
傭兵が使っているような粗野な剣や鎧を着けた死体はあったが、騎士が着けている綺麗な鎧や剣を身につけた死体はなかった。経験は俺やアイラよりは断然多いのだ。だから騎士ならあの水に流されても生き抜く力はあるはずだ。
「だから全滅はまだしてないよ。期待して先に進もう」
「ええ」
「じゃ、休憩終了! 行こ」
そう言い、奥への大きな両開きの扉を開いた。2人で分担して一つずつ開いた。
扉の先は地下都市だった。天井までは10メートルほどだろうか。2,3階建ての建物が並んでいる。天井が近いせいかキッザニアを思い出してしまう。道と道の間に川が流れていて橋も多くかかっている。そして、今までの青白い洞窟とは異なり、石の色は暗いが、道の脇に街灯のように青白い光が出ている。その光は洞窟のそれよりも小さいはずなのに、光は強い。
「誰もいない?」
索敵能力を持たないアイラがそう聞いてくる。もちろんいない。その辺は扉を開ける前にちゃんと確認している。
「うん、いない」
この街はゴーストタウンとなっていた。これはダンジョン攻略が始まったからここに住んでいる魔族たちが避難しようといなくなったのだろうか。ただ、それだと街に警備が一人もいないことが不思議だ。こういうのは避難後も巡回の兵士はいると思っていた。しかし、ここは誰もいない。
……もしかして、もう終わった。
そんな期待さえしてしまいたくなる。
「どうするの?」
「とりあえず、あの建物に向かおう 」
道の先にある天井に突き刺さった城のような大きな建物へ向かう。適宜索敵をするため足を止めながら道を堂々と歩いて行く。
「あっ」
「どうしたの?」
城と街を繋ぐ橋を見えてきたところで熱源反応があった。橋近くの左の建物で5人の熱源反応がある。
……5人ならいけるかな? 橋の前の建物にいるということは見張りだろうか。建物を凍らせて、5人一網打尽! でもそれだと目立ってすぐ救援がくるだろうか。
「ねえ、どうしたの?」
「はっ」
自分の考えに没頭していたところをアイラに肩をゆすられ現実に引き戻された。
「あの建物に5人いる」
「人間?」
「わからない」
……どうしよう。味方だったら攻撃するわけにはいかない。それに敵だったらバレずに倒さなければいけない。ベリーハードだ。
「とりあえず、右の建物に入ろう。そこからあっちの建物の情報が拾えるかも」
右側の建物に行くため橋を渡っているとき川から魔族が2人出てきた。鱗に覆われたトカゲのような人、リザードマンだ。
……は? なんで?
急な奇襲で完全に反応が遅れ、魔法で迎え撃つ準備が間に合わなかった。リザードマンの槍が俺とアイラの喉元目掛け向かってくる。しかし、その槍が俺たちに当たることはなかった。
「へ?」
何が起こっているかわからず間抜けな声が出る。
「スチームテール」
そこにどこか聞いたことある声が響いた。目の前のリザードマンは突然現れた何かに吹き飛ばされる。吹き飛ばされたリザードマンのところへ向かう金髪が1人。すごいスピードで駆け、リザードマン2人を一瞬で切り裂いた。
「え? フィン?」
「ネイサン? シンシア? どうしてここに?」
俺もアイラも知っている人たちを見て驚いてしまった。




