69-調子乗ってない?
この暗さにも慣れ下の情報がわかるようになった。一人は絶命している。槍がふくらはぎに刺さり、氷柱が体を貫くように地面から串刺しになっている。しかし、もう一人は立っていた。左腕がなくなっているところを見ると俺の氷柱はあいつの左腕を貫いただけだったのだろう。
「一人か? いや、呼吸音的に2人か」
……この牛、耳いいな。
「さっきのお礼だ。2人とも串刺しにしてやる」
死体のふくらはぎに刺さった槍を抜き取りこっちに投げてくる。
「氷壁」
飛んできた槍を氷の壁で防ぐ。
「氷柱」
「ふんっ!」
次は確実に絶命させようと放った氷は打ち砕かれた。
「こんな氷でわしは死なん!」
……こいつ氷を砕きおったぞ。強化する系の魔法?
「ところでそっからどうやって攻撃するの」
俺とミノタウロスの間には鉄格子という会えない壁が挟んである。これを超えて攻撃することはあいつには可能なのだろうか。
「そんなのこうするに決まっておるわ!」
そう大声を出すとミノタウロスは鉄格子に手をかけた。ぶち破る気漫々だ。
「ふんっ! んんんんっ」
だが、鉄格子に気をそがれすぎ、俺たちから注意が完全に欠けていた。アイラが下へ飛び出し、ミノタウロスの首を両断した。
「お疲れ」
ミノタウロスが死んだことを確認して俺も網の上に飛んだ。槍で網を斬り破り落ちている鍵を拾う。鉄格子から手を出して鉄格子の扉を開けて向こう側へと行くことに成功した。
……一時はどうなるかと思ったけど何事もなく良かった。こちとら無傷だ。これは完全勝利だろう。
「ねぇ、何か来ない?」
アイラがこの部屋を出る扉に手をかけたときそう聞いてきた。俺も耳を澄ましてみる。
ドスッ、ドスッ、ドスッ、ドスッ。
大勢の足音、金属と金属がぶつかる音が聞こえる。
……サーモグラフィー。
こちらに来る数を見るが、総数がわからない。分かることは30度くらいの大きな塊が迫っているということだけ。
……これは、援軍だね。
さっきの鉄格子が動きかけたときの音だろうか、それともあいつの大声だろうか。
「逃げるよ」
「逃げるってどうやって、あの高さよ」
アイラが降りてきた穴を指してそういう。天井の穴までは5メートルほど。
「こうするの。氷柱」
アイラの腰に手を回しこっちに引き寄せる。そして、氷柱を地面から生やす。今回のは攻撃が目的じゃないので針状ではなく円柱状。エレベーターのように上へと上がる。
「さあ」
「うん」
俺たちは急いで来た道を走り戻った。
「「はぁ」」
さっき休憩したところでまた休憩中。一応、穴は氷柱で塞いだし、ここの前に氷壁で壁を作ったのでやつらが追いつくことはないだろう。
「この道はもう使えないな」
「そうね」
アイラの顔を見るとだいぶ疲れの色が見える。まぁ、疲れて当然だろう。殺しあって、窒息しかけ、暗がり全力ダッシュ。俺も疲れた。
「はい、まずいけど」
俺は携帯食の硬いパンを出す。
「ありがと」
「今日はここで休もっか。俺が見張っておくから先寝ていいよ」
「それはだめよ」
「え?」
……俺が先寝てもいいの?
「あの部屋を見たでしょ。他にもあの部屋はあるはずだわ。早く助けないと」
水流で窒息、運よく生きても捕らえ、殺す。死体からは持ち物回収という具合だろうか。
……でもね、もう遅いよ。俺たちがいたのは最後尾。水流からどれくらい経ったかわからないがだいぶ経った。流れてきた人間を殺す時間は十分なはずだ。
そんなことは言えなかった。
「じゃ、俺先寝るわ。寝たかったら起こして。見張り変わるから」
氷の壁がある限りアイラはここから動けない。だから、俺は休むことにした。人が休んでいるのをみたら自分もを期待して。
「ちょっと、起きなさい。起きて。Get up!」
耳元で声をだされ、しまいにはビンタで寝ることは許されなかった。
「疲れた。眠い。寝る」
「他の人の心配はないの? あなたの仲間だっているでしょ」
「……心配だよ。でも、急いでどうなるの?」
「だから早く行って」
「ちょっと戦えるようになったから調子乗ってない?」
「え?」
「君より強い人なんてたくさんいるよ。今回参加した騎士で君より弱い人なんていないと思うし」
「……」
我ながらひどいことを言っているという自覚はある。それでも言わなければならない。心配や怒りで先走り他人に心配をかけたり、死ぬことがあるのだから。それが俺の過ちだから。
「君はまだ魔法を操れないよ。体力だって限界はくるよ。げんに疲れてるでしょ。顔色悪い。そんなやつが行っても助けになるどころか殺されます!」
「……」
アイラは何も言い返してこない。言い返せないのだろう。
「だから、今は休みなさい。心配なら神様にでも祈ったら。パワとか、イギリスならキリスト? とか」
「うん。ごめん休むわ」
アイラはコートを敷き布団変わりにして休んだ。限界状態だったからだろう。横になるとすぐに寝息が聞こえてきた。
「ごめんねひどいこと言って」
俺は謝り、掛け布団代わりに自分のコートをかけた。




