6-オサケ、コワイ
起きたらベッドの上で寝ていた。
……うっ……頭痛い。
頭がジンジンと痛い。それにちょっと吐き気もする。
昨日傭兵登録をしてからの記憶がない。たしか魔法使いについての話をするはずだったのだけど。
隣のベッドにはアーロが寝ていた。
風にでもあたろうと窓を開けた。外を見ればまだ暗い。夜のようだ。
「二度寝しよ」
頭痛いんだし、まだみんな寝ているし、前世では二度寝どころか三度寝、四度寝していたのだ。
そんなことを考えているときだった。外が少し白くなったような気がした。なんとなく、窓際まで行く。
「朝日だ……」
その朝日を見たときなぜか目から涙が出ていた。
……そうか自分は疲れていたんだ。
この世界にきてから今までずっと心の安寧があるところはなかった。いくらこの世界にきてすぐ助けられたとはいえ急に知らない世界で知らない常識のなかに投げ出されてずっと外で生活をして……。寝るときは地面、歩くのは整備されていない森の中。
そしてずっと認めていなかったのだ。自分が全く違う世界に来たことを。
全く違う姿になった。創作話のような生物を見た。魔法をだした。とても前世では理解できないことをした。
それでもここは現実なのだ。やっと心にあったもやもやがとれたような気がする。
……よし、がんばるぞ。
それから太陽が昇りきるまでずっと朝日を見続けていた。
……あ、頭の痛み消えている。
見終わった時には頭痛も吐き気も消えていた。気分がすごくスッキリしている。
「ん、ん~、おはようございます」
アーロが起きてきた。
「おはよう」
いつもはアーロたちのほうが早起きだからなんだか気持ちがいい。
そんなことを思っていると突然アーロがしゃべり始めた。
「それにしても昨日は大変でしたよ。お酒を飲んで寝たと思ったら突然暴れだして。」
「へ?」
アーロが語ったのは昨日の俺の醜態だった。
まさか記憶がないと思ったら、頭が痛いと思ったら、吐き気がすると思ったら、酒癖が悪かったなんて。しかも1杯も飲みきらずに。
……モウ、ムリ。ソト、デタク、ナイ。
さっき決心したことは一瞬で砕け散った。
なぜ裸で踊ったのか、なぜ火を吹いたのかまるでわからない。
「おーい、遅いぞ。さっさと起きろ」
ライアンとフィンが迎えに来た。
「あ~、ライアン、フィン起きてはいるのですが……」
アーロはライアン達に目を向けてから俺の方へ目を向けてきた。————まあ実際にその光景を見たわけではないが多分そんな感じだろう。
今の俺は布団を頭からかぶりベッドの上でうずくまっていた。
「おい、坊主どうした」
「それが、昨日のことをお話ししたらこうなってしまって」
「あ~、坊主酒で失敗することなんていくらでもある。俺なんか起こそうとしてきたやつを殴り倒したことだってあるんだぞ」
うわぁ~、起こそうとした人かわいそう。
「そうです。だからたった1回の失敗くらいそんな気にしなくて大丈夫です」
2人とも励ましてくれている。
てかよくよく考えればお酒での醜態より今の方が恥ずかしいのではないだろうか。
人のお金でお酒を飲んでそして暴れて、しかもそれの対応まで。それに今だってこれから向かうのも俺の装備をそろえるため。3人にはほかにも用事があるかもしれないのに。
そんなことを考えていると今のこの状態が非常にまずいことに気が付いた。
俺はすぐに布団からでて3人に謝った。
部屋を出て酒場のロビーに行ってから昨日のカウンターの人にも謝った。
「あ~、もういいからこれからは酒を飲むなよ」
そういわれた。もちろんうなずいた。
オサケ、コワイ。
あんな失敗をしたのだ。もう怖くて飲めない。
そうして昨日迷惑をかけた人に謝ってから酒場を後にした。