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異世界転生してもハーレムは作れません  作者: ミカン
第二章 偽モノ
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閑話  かわいい

今回はアナベル視点

コンコン


「アイラ様入ってよろしいでしょうか」


 昼前になり勇者様を迎えに行くためトレーニングルームを訪れた。何度もノックをし、声をかけてみるが中からは一向に返事がない。そもそも、中から人の気配がない。


「アイラ様入りますよ」


 私が中に入るとトレーニングルームには休憩用にと水のどを置いておいたワゴンがあったり、的が破壊されてたりしているのに勇者様の姿がなかった。


 ……先に帰ったのかしら?



 勇者様の部屋にたどり着くと扉を開けた。リビングにはいない。次に寝室を確認しようと扉を開けると勇者様を発見した。

 勇者様はベッドに座り込み放心状態になっていた。その顔には泣いていたのか目は腫れ、涙の跡があった。

 私のことに気づいたのか顔をこちらの方に向けてくる。しかし、何も言わず目はすぐに放心状態に戻った。


 ……一体何が?


 私の知っている勇者アイラ様は感情があまり表に出ない。まだ3日の付き合いだが、いつも仮面をかぶったように誰に対しても笑顔で丁寧な喋り方をしている。召喚されたときも混乱したりせず冷静だった。落ち込んだときもすぐ切り替わり、仮面をかぶる。なのに今は私が声をかけても抜け殻のような状態になってしまっている。


「一体何があったのですか」


 魔法のコントロールができなくとも今朝切り替わっていたのだたった半日でここまでなったりはしないはずだ。それ以上のことがあったとしか思えない。


「私……人殺しですね」


 ……そのことか!?


 昨日の修練場では勇者様が魔法をコントロールできず、大量の騎士が倒れた。それで4人が死亡、15人がまだ目が覚めてないと状態となっている。このことはこれ以上心労を掛けないため勇者様には言うなと言われていた。民にも勇者様が騎士を殺したなどと知られては困るから緘口令が敷かれていたはずだ。いったいどこでそれを聞いたのか。


「大丈夫です。確かに死者は出ましたがアイラ様が存命ですので」

「大丈夫なわけないじゃないでしょ!」


 勇者様が大声をあげて言い返してきた。


「人が死んだのよ。一生に一度の命が。その人の家族がどう思うか」

「騎士は国に、ひいては聖女様に命をささげた身です。ですから彼らも国のために死んだのです」

「そんなわけないでしょ!」


 勇者様は枕を投げ、激昂していた。


「国に命をささげたからといってそれを私が奪っていいわけじゃない。こんな私なんて」


 勇者様の手から青い光がではじめた。


ガタゴトガタゴト


 そして、周りの装飾や家具も動き始める。装飾類が飛びあがり、ベッドの周りを旋回する。ベッド周りの机や椅子も小刻みにだが動き出す。


 ……これはなに?


「私なんて、私なんて。死ぬべきなのよ」


 装飾品たちが勇者様めがけて飛び出した。


「いけない」


 私は勇者様の元へ飛び込み、抱きしめてベッドを転がり落ちた。ベッドの上には装飾品の山ができている。


「どうして助けるの? 私なんて死ぬべきなのに」

「逃げないでください」

「え?」

「死んで逃げようとしないでください。あなたが殺してしまった騎士に罪の意識があるなら逃げず戦ってください」

「でもわたし」

「でもじゃない!」


 私が大声を上げると勇者様は肩を上げ、背筋を伸ばした。


「魔法の訓練をすればいいのです。あなたの魔法は凄まじいのですから」

「……」

「そして、騎士やその家族を思うなら魔族を倒しましょう。彼らの分あなたが魔族を倒すのです」

「えぇ」

「でも、今は思いっきり泣いてもいいですよ。貴族が泣くときは一人か親や伴侶の前だけですけど、今は私がその代わりを務めましょう」

「ぐすっ、うわああぁぁん。……こ゛め゛ん゛な゛さ゛い゛。こ゛め゛ん゛な゛さ゛い゛」


 勇者様は泣いた。まるで子供のように。

 でも実際に子供なのだ。いくら外面を取りつくろって動じず、笑顔の仮面をかぶれても、人を傷つければ不安になり、人を殺めてしまえば怖がり、泣いてしまう。可愛らしい秘密だってある少女なのだ。

 今までは急に召喚され、慌てたり、取り乱したりするはずなのに、笑顔で丁寧なしぐさで接し、切り替えの早さに恐れ入りさすが勇者と思った。しかし、こういう部分もあることを知れてこの子も人なんだと親近感すら芽生えてくる。



 私の胸の中で泣いている勇者様が泣き止むと私の腕をほどき離れた。


「もう大丈夫です。ありがとうございました」


 涙で若干顔も目も赤いが笑顔になっている。貴族のような、内面を見せないような。でも、貴族がこれをするのは同じ貴族や外国の人間に対してくらいだ。親族や友人、従者には基本的にしない。なぜなら疲れるからだ。いつもいつも相手を警戒して自分の本音を隠し、丁寧な態度を取り繕うのはなかなか疲れる。なのに、この少女は侍女の私にもしてくる。


 ……それだけ信用してないのだろうか。


 そりゃ会って3日だ。信用のしの字もないだろう。それでもこうした後だ。少しは見せてくれないだろうか。


「わかりました。顔を洗うためタオルを準備してきます」


 給湯室に行くため立ち上がろうとすると勇者様は私からは離れていたが私の袖をきつく握っていた。


「アイラ様、この手は」

「はっ!? ごめんなさい。どうぞ」


 無意識だったのだろう。急いで手を離し、その手を扉のほうへ向ける。


 ……かわいい。無意識に袖を握りあわてるなんてかわいすぎる。


「行かないのですか?」


 私がかわいいと思って固まっていると質問を投げてきた。


 ……これは好都合化もしれない。


「アイラ様のその喋り方疲れませんか? 私はあなたの侍女ですよ。私の前では素でいいのですよ」

「? ……どういうことでしょう?」

「その笑顔、喋り方、すべて取り繕ってますよね。私は、信用されていませんか?」

「いえ、そういうわけでは、なくて、ですね」

「ではなぜでしょう」

「人に対してずっとこうして接してきたので」

「では止めましょう。今すぐ止めましょう。そんな腹黒い貴族がやるようなしぐさしなくていいです」

「でも、産まれてこのかたずっとこうですし今さら直すのなんて」

「大丈夫です。実際さっきは違いました」

「ど、どうしてそんなにやめさせたいんですか」

「そっちのほうがかわいいからです」

「は?」

「間違えました。そちらの方が疲れなくて楽ですよね。それに従者相手ですよ。従者に敬語で話す方なんてなかなかいませんよ」

「……わかり、わかった。でも条件がある」

「なんでしょう」

「私にもその仕事口調をやめてくれるなら」

「でも私はアイラ様の」

「それでも、私だけはなんかやだから」


 そう言って勇者様は腕を組んで目をそらした。泣いたせいなのか恥ずかしがってかわからないが顔が赤くなっている。


 ……かわいい。すごくかわいい。


「わかったわ。アイラ」


 そう言って私はアイラに抱き着いた。


「ちょ、胸。胸。苦しい。やめて」

アナベル。かわいいものが大好きな20代女子。アイラの素のしぐさはこの人に刺さるよう。


次回 お外出ます。

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