44-コントロールできない
アナベルに連れられ自分の部屋まで戻ってくる。私はすぐにソファに倒れこんだ。
……どうしよう、どうしよう、どうしよう。魔法は出たのにコントロールできない。あんなんになると思ってなかった。当たった人は大丈夫なの?
私がソファに頭を預け抱えているとアナベルが紅茶を置いてくれた。
「どうぞ、気が落ち着くでしょう」
紅茶を飲む気分になれない。さっき起きたことが不安でしょうがない。
「あの人たちは大丈夫なのですか?」
「大丈夫です」
「でも、たくさん倒れて」
「大丈夫です」
「死んでな」
「落ち着いてください」
アナベルは私の顔を持ち上げた。反対の手にはカップを持っている。
「ふー、ふー。どうぞ」
私の口元まで持ってこられ少々強引に飲まされる。少し飲むとカップは離された。
「ふぅ」
「落ち着きましたか?」
さっきより、少しは気分が落ち着いた。
「はい。ありがとうございます。もうしわけありません、取り乱してしまいました」
「いえ。私も出過ぎたことをしました」
「そんなことないです。おかげで落ち着きました。ありがとうございます」
そう言って私はアナベルにお辞儀をする。
「私は大丈夫ですので、少し一人にしてください」
「でも」
「大丈夫ですから」
そう言うとアナベルは私の部屋を出て行った。私は寝室へと行き、ベッドに倒れる。
……失敗した。
てっきり、手から電撃が直線方向に飛び出ると思っていたのにあたり一面に広がるなんて。こんなんじゃ神やら魔王を倒す前に周りの人たちを倒してしまう。
「だいたいなんで私なの?」
……考えてみれば意味が分からない。この世界に私関係ないのに勝手につれてきて倒さないと帰らせないって意味が分からない。私はただの女子大生なのにこんなのどうにもおかしい。
「ねぇ、パワなんでなのよ」
声に出して文句を言ってみるが何も起こらない。
……また、あの白い世界に連れてってもらって抗議したい。まぁ、彼は私の話も聞かずに一方的に話して消えたけど。
「ああ、なんか腹立ってきた。なんなのよあいつ。もうっ。もうっ」
ポコポコとベッドを殴る。
「死ねよ。中年誘拐男。なんなの? あのジジイ。何がすぐに戦える力よ、全然コントロールできないじゃない。こんなよくわからない力くれるんなら早く私を帰せ」
思いつくままに暴言を吐きだし、殴り続けているうちに疲れて着替えもせず、そのまま眠ってしまった。
「おはようございます」
「ふぇ、おはよう、ございます」
「おかげんどうですか」
「え~と、特に」
「そうですか、それはよかったです。今日はまず身支度から始めましょう」
私はアナベルに起こされ、衣装部屋まで連れていかれる。
衣裳部屋にある鏡で自分を見るとひどい状態であった。髪はボサボサで髪が垂直に立っている。顔には涙の跡があり真っ赤だ。
アナベルは私の顔を暖かいタオルで拭くと髪を梳かし始めた。
「昨日のことは大丈夫だったんですか?」
「問題ありませんでした」
「倒れていた人いましたよね?」
「みなさん軽症です。訓練でのけがはよくあるので気にすることではございません」
「そうですか。よかった~」
安心した。後遺症の残るようなけがや死者がでてなくてほっとする。昨日は不安でいっぱいいっぱいで焦って、怒って、泣いてしまったが今日はすごくすっきりしていた。
「今日の予定はあるんですか」
「いえ、エリザベス様が今日はおやすみくださいと言っておられました」
「そうですか。あの~、人がいないところってありますか」
「どうされるんですか」
「練習しようと思って、昨日全然魔法をコントロールできなかったので」
「わかりました。許可を取ってきます」
私の身支度が完全に終わり朝ごはんを食べ始めるとアナベルは許可を取りに部屋を出て行った。
朝ごはんがちょうど終わるころにアナベルは帰ってきた。
「魔法の修練をするのでしたら着替えましょう」
部屋着から白い服装に着替えさせられる。建物の中を結構歩き、着いた先はただの部屋だった。部屋の中にあるのは昨日も見た的くらいだ。
「ここは?」
「聖女の子専用のトレーニングルームです」
「エリザベスは子供がいるんですか」
「いいえ、結婚はしていますが、まだお子はいません」
……け、結婚⁉ 20代前半くらいにみえたけどもう結婚なんてしているなんて。
「そ、そうなんですか」
……あんなに若いのに国の主で結婚までしているなんて。私と5歳くらいしか離れていないと思うのに。あと5年後果たして私は何をやっているだろうか。帰れているといいな。
「今は使われてない部屋ですのでここならだれも入ってくることはないでしょう」
未来のことを考えているとアナベルは話の続きを話していた。危ない危ない聞き逃すところだった。
「それじゃあ、この部屋をありがたく使わせていただきます」
そう言って、アナベルが部屋を出ていくのを待つがアナベルは部屋の隅に向かって私のことをじっと見る。私の練習中あそこで待っているつもりなのだろうか。
「あの~」
「はい」
「魔法のコントロールができなくて、当たってしまったら悪いので退出してもらっていいでしょうか」
「わかりました。お水はこちらにおいていますので。昼食の時に迎えに来ます」
「わかりました。ありがとうございます」
そう言うとアナベルは部屋から出て行った。
「よしっ」
部屋には昨日の訓練場にもあった的が置いてあるだけの部屋だ。的から10メートル離れた位置に立つ。
……昨日よりも威力を下げて、下げて。
的めがけて手から電撃を放つ。だが、電撃は部屋中に広がり的を破壊した。的は破壊されたが部屋にはどこも傷がない。昨日は私の周りに焦げ跡が残っていた。威力だけは制限できたのだろうか。
「威力は下げれた。いける。もっかい」
的はなくなったが狙った方向に電撃がいくよう壁に向かって何回も何回も魔法を放つ。そのたびに電撃は勝手に変な方向へ行ったり、昨日みたいに広がったりする。だから外すたびに自分を励まし、挫けないようにひたすら練習をした。
「はぁ」
水を飲みながら反省点を考える。狙っている方向とは違う方向へ飛んでいくわけが分からない。昨日の騎士団長は当然な感じで的に当てていた。あの人は40歳くらいに見えたから何年も練習してあれだけの精度でだせるようになったのだろうか。
「むむむむむむ……。……はぁ、……トイレ」
部屋を出て、トイレに行こうと思ったが場所が分からない。自分の部屋の以外使ったことがない。部屋まで戻った方がいいだろうか。
そう思っているとちょうど近くに侍女服を着た女の子がいた。
……彼女に尋ねよう。
「すみません。ちょっといいですか」
「……ゆ、勇者様⁉」
驚かせてしまった。
「あっ、あ、あの、どうしましたか」
彼女は驚いて声も裏返っている。
「驚かせてすみません。お手洗いの場所を知りたくて」
「はははははいっ、こ、こちらになります」
「まずは落ち着きましょう。息を吸って、吐いて」
「すー、はー。落ち着きました。申し訳ございません」
「いえ、こちらこそ驚かせてしまってごめんなさい」
「お手洗いはこちらになります」
落ち着きを取り戻した彼女に送ってもらいトイレへ案内される。
「ありがとうございました。もう大丈夫ですので」
そう言うと彼女はそそくさと行ってしまった。
スッキリしてトイレを出ようと扉を少し開いたとき話し声が聞こえた。別に盗み聞きの趣味なんてないし、普通に出て行ってもいいのだが、私のことを話していて出ることができなかった。
「昨日の勇者様恐ろしかったらしいぜ」
「あ、聞いた聞いた。なんでもその場にいた騎士を全員倒したとか」
「あぁ、騎士団長まで倒れたそうだ」
「え? 騎士団長までもが?」
「重傷者たくさん。死人も出たそうだ」
「ふえ~、その場にいなくてよかった」
……死人?
今日の朝アナベルは軽症者だけだと言っていた。でも今通りすがった騎士は死人と。
……あれは安心させるための嘘? でも、騎士は人づてに聞いたみたいな話し方。根も葉もないうわさ?
そのとき、昨日の光景を思い出す。
……電撃はあたり一面に広がりほぼすべての騎士に当たっていた。騎士たちの鎧は金属でできていた。だったら電気なんて防げるわけない。金属なんだもの。もしゴムみたいに体に電気を通さないものがあれば少しは防げるかもしれないが、アナベルに見せてもらったこの世界の服や下着には一切ゴムが使われていなかった。私の記憶の中では抵抗のようなものが一つもない。それに、騎士たちは私たちが来る前訓練をしていた。つまり、汗をかいていたはず。だったらなおさら電気を通すよね?
「あっ、あ、あ、あ、あ……」
自分の頭の中で昨日のことを整理していくと今の騎士の言葉は本当だということが分かった。電撃なんて防げないことが分かってしまった。
「私、人……殺し」




