逃げた先にあったもの
「キッついなぁ……」
アランは重い体を起こそうと力を込める
クランツとの激闘の中、【鎧装】を纏うことでなんとか勝利を収めることが出来た
現状周りには追手の姿は見えない
出来る限り多くの騎士を倒していたのが功を奏したのだろう
だが安心することは出来ない
騎士はある程度倒してはいるが完全ではない
この逃げ道を選んだのもそもそも人目も少ないというものだったので今のところは見つかってもいないがこの惨状を誰が目にするか分からない状況だ
早いところ移動したいところではあるが……
「あ、あの大丈夫ですか?直ぐに癒しの奇跡を使います」
聖女と呼ばれる所以の1つにこの癒しの奇跡を行使する力が挙げられる
その名の通り人の傷や疲労などを癒す力がある
上位騎士が鎧を通して奇跡を使うのと違い聖女は生身でその奇跡を扱うことが出来る
本人にデメリットは無いようだが連続で行使するとさすがに疲労や効果が弱まることはあるようだ
ちなみに教会はこの奇跡にお金を取っている
それもとても高額でここで暮らす市民の月の給料の約4倍に相当する
確かに本人が疲労するのもあるのでどこかしらで規制したりする必要はあるのだが、教会がそんなことを考えて割高に設定しているようには思えない
何せ聖女を利用して様々な悪事を働いているような連中だ
ただただ金にしか目がいっていないのだろう
それはともかく、アランはそんな奇跡を断る
「どうしてですか!?そんなに深い傷でしかも動けないじゃないですか!」
私の事嫌いなんですか、とでも言いたげに目に涙を浮かべわなわなと震えている
可愛らしいなぁと思いつつもそうでは無い理由を説明する
「あーさっきの見てもらったら分かるようにこの体はもう普通の人間とは違うんだ。明らかに禍々しいオーラが出てたと思うんだけどこの力はどうも神の奇跡を弾いてしまうんだよね……だから癒しの奇跡は効かないと思うし、もう少しで治るから」
え?とリリアナは首を傾げる
そんなリリアナにアランは傷跡を見せると傷が現在進行形で塞がっているのがわかる
リリアナはその様子に少し驚いていた
まぁ今思えば肉が蠢いて塞がる様子は気味が悪いよな
そう思い傷を隠す
これは先程ノロイに教えてもらったことだ
詳しく説明をする
瘴気を吸い込んだことで体の性質が変化した
人の想い、それも教会へ向ける感情が瘴気の正体であるらしい
そんなものを取り込み自身の体の構成の一部にしている訳で、失った部分はある程度この瘴気で補うことができる
ただその部分は先程の先頭の時のように変質して痣のような形で残る
ただしそれに生命力を消費することは言わない
ある程度生命力も回復する見込みはあるからだ
余計な心配をかける必要はないだろう
もとの体に戻す方法は今のところない
しかし後悔はしていない
何だかんだ不安ではあるが現状便利なことには変わりない
それにこの力が無ければ既に力尽きていただろうし上位騎士を倒すことも出来なかっただろう
「そんなわけだしそろそろ回復してきたから移動しよう。また騎士が出てくるとさすがにしんどい」
「ほんとうに良いんでしょうか?私聖女で……」
「構わない。それに聖女なんて名ばかりの役職にこだわる必要なんてないだろ?確かに君は奇跡を貰ってそれを使う責任というのがあるかもしれない。でも今の教会の聖女である必要なんてないだろう。結局力はどこで使うかじゃなくてどう使うかだ。教会から離れても誰かを助けたいって思うならそうすればいい。そこで何かあれば俺が助ける。今のまま教会に縛られていても助けられる人も決まってるし何より君が救われない。だから行こう」
(ケケ、言うじゃねぇか)
「……そう、ですね」
少し間があったが移動することに同意してくれたようだ
とりあえず今はこれでいいだろう
すぐに考え方や在り方を変えるのは難しいしこれから徐々に変えて行ければいいと思うしその手伝いをするつもりだ
リリアナの手を引きその場を離れる
そうして貧民街に入り込む
かなり移動したところで教会方面が少し騒がしくなってきた
クランツが倒されたことなどを察知したのだろう
「急ごう」
貧困街を走り抜けていく
「いたぞっ!!こっちだ」
恐らく別ルートから巡回していた騎士が目の前に現れる
リリアナを抱え右の細い通路に入り込み転がっている積荷などを超えていく
アランは当初のルートを迂回することにした
だが想像以上に騎士たちの動きが早い
行く先々に騎士が現れる
誰かが監視をしているかのような……そんな予感すら感じる
徐々に追い込まれていく
「くそ、どうする……」
そして曲がりに曲がり行き着いた先は行き止まりだった
「なんでここに壁が……」
事前に手に入れた地図だとここは通路になってたはずだか……
偽物を掴まされたか……?
いやでもそんなはずは……
そんな時後ろから騎士が追ってくる声が聞こえてきた
「騎士様、私が出ますのでその間にお逃げ下さい」
「いや、そんなのダメだ。力を残していたかったがこうなれば全員追い返して――」
そんな時後ろの壁から手が現れる
その手はアランとリリアナを掴み引き摺り込む
「なんだ!?」
抵抗しようにも力が強く振り解けない
そのままアラン達は壁の中に取り込まれた
騎士達がこの場に到着した時には人の姿は既になく、ただ固く高い壁があるだけだった
また間が空いてすみません!!
古戦場も近々始まるのでそれまでにもう1話上げられればいいかなと……
その後は少し時間は空きますがアランとリリアナの過去を少しお届けしようかなと思ってます