闇夜の騎士
「ど、うして……どうしてまた……」
リリアナは泣きながら言葉を繋げる
「それはもちろん君を助けるために」
「でも、そんなことをしたら今度こそどうなることか分からないのに……」
「それでも君を救いたい、今度こそ君が苦しまなくていいように」
「そうやって、助けてくれようとした人は何人かいました。でも……でも!スザンナ達もイリスもナルサスもみんなみんな居なくなった!!!なのに今度は大丈夫なんていえるの!?」
名前の挙がった人達のことはよく知らない
今までにこの状況を変えようと動いた人で失敗した人だろう
もちろん俺自身も1度、いや2度失敗している
確かに今度こそ大丈夫だという保証はないのかもしれない
でもだからって最初から諦めるのは嫌だ
「確かに保証はないかもしれない。でも今度こそ俺は君を連れ出す。その為に出来ることはしてきたから」
「なにそれ……それを信じろって言うの?」
「あぁ、信じて欲しい」
「……信じられないと言ったら?」
並大抵な覚悟で今まで耐えてきた訳では無いだろう
彼女の中では自分よりも他人が傷つく方が嫌なんだろう
でもそんなのは俺も同じだ
自分よりも彼女が傷つく方が嫌だ
だから折れる訳には行かないし説得できようが出来まいが連れていく
「無理矢理でも連れ出す」
「な!?それじゃ私の意見なんて関係ないじゃない……」
「ん?でも助けて欲しいんだろ?」
「っ、そうだけど……でもそうなったら他の人が……」
「関係ないな、知らない人のことまではどうにかしてやれない」
「そんな!?」
そう、俺が救えるのはリリアナだけ
申し訳ないが他の人のことまでどうにか出来るほど自分の力を驕ってない
もちろん何も手を打たないわけでは無い
その為にわざわざ騎士の数を減らしたのだ
でもそれを伝える必要も無いだろう
俺は手を差し出す
リリアナは手を掴むか迷っている
(あのなぁ、俺が言うのもなんだがお前もうちょっと言い方あるんじゃないか?萎縮しちゃってんぞ)
確かにそうかもしれない
でも言ってしまったものは仕方ない
(そうかもしれないがなぁ……まぁいいさ。時間食って失敗する方が困るしな)
ノロイはため息をつく
以前よりもアランの少し性格が短絡的というか、なんというか……
これも瘴気を吸った影響か……?
吸わせたオレが言うのもなんなんだが……
まぁ根っこの部分――リリアナを助けたいというところは変わっていない
結局このやり取りもリリアナが気負わないように配慮しているのだろう
「私はどうしたら……」
「すまないがあまり時間ないからな、失礼するぞ」
「えっ?ちょっ……」
アランは戸惑う聖女の手を引き抱え上げる
そしてそのまま窓から飛び降りた
「舌噛まないように気をつけろよ?」
「きゃぁぁぁ――」
叫ぶリリアナを他所に危なげなく裏庭に着地する
「何するんですか!」
「そりゃ連れ出すんだから外には出ないとだろ?」
「いやそういう事ではなくて……あぁもう」
何が言いたいのかイマイチ分からない……
そんなことよりも今後のことを考えなければならない
まずは教会から脱出して街の外に出なければいけない
そこからは追っ手から逃げ続ける日々になるだろう
幾つか候補はある
だがずっとその場所にいられる保証もない
そのまま行くあてもなくさ迷うことになるかもしれないがそれはそれで楽しそうでいい
まぁリリアナは嫌がるかもしれないがその時は事態の解決を何を賭しても進めるだけだ
「とりあえずここから離れるぞ」
「……わかりました」
リリアナの手を引く
そんなに手に力を込めてはいないから振り解けなくもないはずだがそんなことをしようとする気はないようだ
(まぁ助けてくれるっていうやつの手を振り解いてわざわざ迷惑を掛けたくは無いんだろうな……)
何だかんだいいつつもやはり今の生活は嫌だろうからな
あえてノロイは口には出さない
助けて欲しくないやつが期待したり泣いたりしないだろうからな――
アランはリリアナを抱え教会内の敷地を駈けていく
「あの、走りずらくはありませんか?」
「聖女様は軽いから大丈夫、なによりこうした方が早く進めそうだしな」
「……そうですか」
途中何人か騎士が追いかけてきたが全て片手で斬りふせる
リリアナには首に手を掛けて貰い極力前を見えないような体勢で居てもらった
向かう場所は貧困街に唯一接している堀だ
正門や裏門は警備が常駐しているし何より夜も遅いが人目も少なからずある
出来るだけ整備もされていなく、明かりもないため顔を認識されずらい貧困街に紛れ込む予定だった
そろそろ敷地から出れる――と思っていたがさすがにそんなに甘くはなかった
貧困街に接する堀の前にはあの時の騎士――序列八位【湖畔の騎士】クランツが待ち構えていた
クランツは以前と違い専用鎧装に身を包み槍を構えている
序列を持つ騎士には神の恩恵により与えられた特殊な力――奇跡を操る能力を持つ鎧がそれぞれ授けられている
このクランツが鎧と共に授けられたのは水の力を操る奇跡
ただし無から水を生成することは出来ない
だが地中や空気中にある微量な水は操ることができるし水が近くにあれば無類の力を誇る
「あれれー?君生きてたんだ……まぁそんなことよりも聖女を返してくんない?それがないと教会、困るんだよねぇ」
「そんな人を物のように扱う奴らに渡すつもりは無い。このまま連れていかせてもらう」
クランツが殺気を帯びた目線こちらを睨みつける
リリアナはひっと声を上げて縮こまる
アランはリリアナを下ろしリリアナを背に庇う
「へぇ、これだけの殺気を受けても立ってられるんだ……ほんとめんどくさいなぁ……これで終わってくれれば楽だったのに」
「安心しろ、ここでお前はずっと寝られるようにしてやるよ」
「はぁ俺に手も足も出なかったやつが吼えるなよッ」
クランツが槍に水を纏わせこちらに突撃してくる
相変わらず後ろのリリアナが傷つくことを躊躇わずに――
「ほんとクソだなっ」
リリアナを抱えて回避をする
が、そのまま方向を変え今度は地を蹴り跳躍して飛び込んできた
このままだとリリアナにも槍が突き刺さってしまう
アランはそのまま槍を剣で受け止める
「聖女様、少し離れててくれッ」
「は、はいっ」
リリアナが距離を取る
その瞬間槍に纏っていた水が弾ける
「なっ!?」
弾けた水が針のように周囲に展開されそのまま発射される
その発射先にはリリアナがいた
「ちくしょう」
アランは走りリリアナの前で針を受け止める
何本かは剣で弾くことが出来たがそれでも大半は体に突き刺さってしまう
「お前ぇ……」
「さすがに君に行動は分かりやすいからねぇ、利用出来るものは全て利用させてもらうさ」
リリアナが涙を浮かべながら俺を見ている
「聖女様、これくらい大丈夫だから」
「で、でも傷が……え?回復していっている……?」
「ちょっと体が丈夫なんだ」
そう、俺の体は瘴気を吸ったことでおよそ人間とは思えない再生能力を手に入れた
どうも傷が出来たところから瘴気が溢れることでその瘴気が塞ぐことで止血、そしてそのまま瘴気は新たな肉体に変化していく
その光景はとてもグロテスクなのだが便利ではある
変化した部分は若干黒みがかっているが気にしないでいいだろう
「面白い、どれだけ耐えれるかな?」
クランツはまた針を展開し発射する
防ごうにも防ぎきれず傷は増えまた塞がっていく
(ちっ……このままだとよくないな。まだ使いたくはなかったがこっちも鎧装使うぞ)
鎧装があるのか!?なんで最初から使わないんだよ
(使いたくないんだっつったろ。コイツは神の奇跡とは正反対の代物だ。劇的に力は増すし戦力も増やせるが使い続けると生命力が持ってかれる――いわば諸刃の剣だ。お前にはまだやってもらわなきゃならねぇ事があんのにこんな序盤で倒れられるのは困んだよ)
だがそれで早急にケリ付けれるんだろ?
(まぁ間違いないだろうな)
なら頼む――
(鍵を教える、それを唱えれば呼出可能だ。それと一つ忠告しとく呑まれるな)
「我愚かな神に罰を与えるもの、この身は護るべきものの為にあり。我が魂は何者にも染まらず、信念を貫く
こい――【闇夜の呪鎧】」
鎧装がアランを包み込み装着されていく
「ぐぁぁ」
呪いを吸い込んだ時よりも痛みは激しく何より体が吸い込まれるような感覚に襲われる
これが言っていた生命力を吸われている状態なんだろう
思考まで飲み込まれそうになるが必死に耐える
今やるべきはここで這い蹲ることではない
あの腐った騎士を倒すのだ
その思いで立ち上がりクランツの元へ走る
「な、なんだその気味の悪い鎧装は」
「……」
「く、来るな!気持ち悪い!!寄るなぁ寄るなぁぁぁ」
先程のように針を何度も放つ
が、鎧が全て弾いてしまい歩みを止めることが出来ない
そのままクランツの目の前に立ち剣を振り上げる
「やめろぉおおおおおお――――」
「あの世で反省してろ」
クランツを両断する
そうしてアランは鎧装を解除した
「クソ、確かにこれはあんまり使いたくねぇな……」
誰だこんなもん作ったやつは――
かつて神に認められた匠がいた
その匠は神を護る騎士の為に神の奇跡を秘めた装備を用意した
匠は天才であったが為何度も装備を打つうちに奇跡の模倣を行うことができるようになった
いつしか匠は気づいてしまった、この世界の真相に
その匠の存在を■■は許すことができなかった
そうして匠は追われる身となった
何とか命は取り留めたが腕を奪われもう装備を打つ事が出来なくなった
匠は生涯の楽しみを奪われたのだ
匠は復讐の為に奇跡の模倣をした試作品に祈りを込めた
そうしてその装備はたくさんの祈りを込めて受け継がれていった
ただその力にだけは取り込まれないようにと
それこそがこの【闇夜の呪鎧】
夜よりも深い漆黒の鎧と剣を備え隙間から赤黒い瘴気を放つ鎧装だ
全ては狂った■■を討つために
良ければ励みになりますので評価等お願いします!
次回は戦闘なしの予定です!