聖都脱出作戦・深層
目を開くと周り一体は闇に包まれていた
自分に何が起きたのか理解ができていなかった
腕には鎖が繋がれている
どういった状況なんだろうか
「ここはどこだろう?何が起きたんだ?」
「お前はオレの一部に呑まれたんだヨ」
帰ってくるとは思っていたなかった返事の方向を向くとそこには顔には靄が掛かっている男——ノロイが立っていた
「お前、今までどこにいたんだよっ」
「オレはずっとお前の中にいたサ」
「でも何も返事がなかったのに……」
「そりゃオレもアイツを抑え込むのに忙しかったからナ」
「あいつ?」
そういって指を指す方を見てみると、耳が長いエルフと呼ばれる種族の少年が俯いて立っていた
俺たちと違い鎖には繋がれておらず意識はこちらに向いていない
一人でブツブツと喋りながら笑っている姿はただただ不気味だった
「アイツはお前が見たっていう夢に出てきた男ダ」
「あの人が……」
「そして今お前の体の主導権を奪っている奴ダ」
「え?」
そう言われてハッと思い出す
今さっきまでフィンと戦っていて俺は敗れた
そうして俺を庇うようにリリアナが傷ついて俺は感情を抑えられなくなったんだ
「まずい、はやく戻らないとリリアナがっ」
動こうとすると鎖が更に体に巻き付き行動を制限する
「何なんだよっ」
「まあ焦るナ。それはあいつが主導権を奪っている間纏わりつくものだ。お前が無意識にオレら瘴気の行動を制限しているものでもある」
「どうすれば、いいんだ?」
「さあナ?それがわかっていればこうして捕まったままじゃないサ」
「くそっ!!」
思わず地団太を踏む
すると更に足に鎖が巻き付く
藻掻けば藻掻くほど強く締まり、鎖が体を覆おうと侵食する
「とにかく落ち着け、現状聖女の身は無事ダ。今は感情のままにあの上位騎士と騎士らを蹴散らしてるサ」
「それは、よかったけども……この先も大丈夫なのか?」
「そこまではわからんヨ。それこそアイツに確認してみないことには、ナ」
そうしてもう一度あの人のことを確認する
未だに俯いたままブツブツと独り言を言っている
表情は相変わらず確認できない
「あれ……?」
でもその顔から一粒の涙が零れていた
「なあお前なんで泣いているんだ?」
「……」
声を掛けても返事は帰ってこない
それでも諦めずに声を掛ける
外にいるリリアナのためにもここに居続けるわけにはいかない
「聞こえないのか?何故お前は泣いているんだ?何か悲しいことでもあったのか?」
「……お前に何がわかるんだ?」
「わからないよ、だから聞いてるんだ」
「……守れなかった、ずっと一緒にいた。好きだったリナを守れなかったんだ。ようやくその仇を討てそうなんだ。でもリナは帰ってこない。それがとてつもなく悲しいんだ」
「そうか、俺と似てるんだなあなたは」
きっとこの人は俺と一緒なんだと思う
俺の場合はリリアナが特殊で命を落とすことは限りなくないに等しいだろう
でもだからといって守らなくていいわけじゃない
彼女は泣いていた、苦しんでいた
リリアナの笑顔を守りたいと思っていたのにまた守れなかった
きっと守れなかったときまた今回みたいに失意に呑まれるのかもしれない
「でも、今度こそは守りたいんだ」
「何度もそう誓って守れなかったのにか?」
「それでもいつか、彼女が本当に笑える日が来るまで諦めたくないんだ」
「そうか……」
そういってあの人は顔をあげる
「絶対に守れよ、でないと僕がお前を呑み込んでやる」
わかったと頷きその場を動く
身を包んでいた鎖は霧散する
代わりにあの人の体を拘束していく
「僕が成就できなかった想いを、願いを君に託そう」
(甘いナ、全くヨ)
ノロイがいつものように話しかけてくる
そうかもしれないと思いつつも足は止めない
なんであろうとチャンスは掴めたんだ
暗い闇の中差す光を目指して歩く
そうして視界が光に包まれる
今度こそ、何度も誓うリリアナを守ると
また火曜日中に続きだします!