聖都脱出作戦・戦闘
目の前には剣を持った男が立っている
あの嫌な夢で見た姿に酷似している
見るだけで体が拒絶反応を示しているかのように震える
断風と呼ばれる男は飄々としているようでまるで隙がない
こうなると門を抜けた後の時間も稼がなければならない
北門は目と鼻の先、近くにいるリリアナと子供たちが門を抜けてそのままスザンナが先導し逃げ先へ無事に移動してほしいものだが……
目の前の男にどれだけ時間を稼ぐことができるだろうか、思わず自分の不運さを呪いたくなる
ノロイはこんな状況でも反応がない
頼りっぱなしになるつもりはないが、出来れば相談に乗ってほしいものだと思う
それにノロイの話によれば【闇夜の呪鎧】はノロイが負担を一部背負ってくれている
この状況で鎧を使うことができるかもわからないのも痛い
そう考えているとフィンは目の前でイライラしているのか、持っている剣で地面を何度もカツカツと叩いている
「ねぇ?無視するのぉ?」
「……そんなつもりはないが急に話しかけられた挙句、物騒なことを言われても反応に困るんでな」
「ふうん、そう。ところで君が僕を楽しませてくれるのかなぁ?」
「不本意ながら相手をさせてもらおうかなッ」
そういいつつ不意打ちで攻撃を仕掛ける
「今のうちに行けっ!!」
「——っはい」
リリアナと子供たちはスザンナたちと合流するべく行動を開始する
だが、フィンもそれを見逃してはくれない
アランの不意打ちをそのまますぐに切り返し飛ぶ斬撃——飛刃をリリアナたちに向けて放つ
それを慌ててアランは防ぐ
「せっかく獲物がたくさんあるのに逃がすわけないじゃん」
「やらせないっ」
「へぇ、少しはやるようだねぇ」
リリアナたちを庇うように位置取りを変える
何とかフィンの意識を自分に向けようとするもその意図をわかっているのか敢えてリリアナたちを狙って思い通りにはさせてはくれない
本当にやりにくい、そう思わざるえない
でも自分は曲がりなりにも騎士を目指しているのだから弱音を吐くわけにはいかない
そうやって何度も何度もフィンの攻撃を弾き、時には身を挺して受ける
「いいね、いいねぇ。最高の気分だよ」
肉が裂ける、その度にフィンは嬉しそうに声を上げる
「どれくらい楽しませてくれるんだろぉ?」
そうしてギアが上がったように攻撃は激しくなる
体には傷が無数に広がっている
血がどんどん少なくなって力が抜けそうになる
その都度剣を杖替わりにせめて後ろに攻撃が及ばないよう盾になる
「あハハハハハハハハハハハハハハハ楽しい楽しいよぉ!!」
体が悲鳴を上げている
ボロボロの体に鞭を打ち倒れることを許さないと自分に言い聞かせる
ただただ耳に響く不快な笑い声にイライラする
このままだと時間を稼ぐことはできやしない
ふと後ろを確認する何とかスザンナたちと合流はできたようだ
「……ここまでか」
こっちは満身創痍なのに相手は無傷で笑う余裕すらあるときた
自分の命を懸けるしかない
この絶望的な状況、どうやっても自分は助からない
ならせめて自分を失っても時間を稼がないければならない
「さてと、君には感謝しなければ。そろそろ食後のお楽しみの時間だ」
そういってフィンの意識は既に子供たちに向いている
そんなことさせるわけにはいかない
「リリアナ、スザンナ。後は頼んだっ」
声を張り上げ後を託す
その時フィンから斬撃が放たれるがそれを打ち破る
それを聞いてスザンナは察してくれたのか皆を連れて門から急いで外へ出る
これで憂いなく戦える、周りを気にせず暴れられるわけだ
ふうと一息つく。アランの体に瘴気が纏わりつく
そうして鎧を呼び出すための言葉を紡ぐ
「我愚かな神に罰を与えるもの、この身は護るべきものの為にあり。我が魂は何者にも染まらず、信念を貫く
こい――【闇夜の呪鎧】」
体が鎧に包まれる、同時に頭が張り裂けそうなくらいに多くの恨みや怒り、殺意が駆け巡る
「うぉあああああああああ」
切り裂かれていた体はメキメキと音を立てて修復されていく
目の前の騎士を殺せと何かが耳元で囁く
うるさいうるさいうるさい、何度も悪意に染まりそうになりつつもその悪意を振り払う
「あぁ?なんだそれは、気持ち悪いなお前」
先ほどまで間延びしていたようなある意味無邪気だったフィンの言葉が嘘のように明確な殺意を帯びる
フィンはすでに決していたはずの勝負がまだ終わっていないのだと理解した
これは明らかに教会の敵だとそう体が告げている
「お前にだけハ言われたくねェ」
何とか意識を保ちつつも言葉を返す
今でも意識を保つのはキツイ
ノロイもいない今どれだけこの状態を維持できるかわからない
それでも今は時間を最大限稼がねばならない
そうして剣を前に構え逆手で持ちフィンへ距離を詰めるために踏み込む
「さァ第二ラウンドの開始だッ!!」
「気持ち悪りぃ、寄るんじゃねええ」
何度も剣を交える
その度にお互い傷を負っていく
そうして周りの建物にもその激しい戦いの余波が襲う
民家や商店は崩れ門は半壊している
人がいなくてよかったと改めて思う
それに門も半壊しているから馬などはすぐには出ることはできないだろう
修復されるまで大分距離は稼げるだろう
「鬱陶しいぃ。お前は絶対に殺す」
「奇遇だなァ。俺もお前を殺してェ」
体が切り裂かれるたびに瘴気が溢れすぐ傷を塞いでくれる
だが、これが生命力を吸っているのだと思わされるかのように胸がどんどん苦しくなる
それでも今止まるわけにはいかない
一つのミスが命取りになる
今は長く生きなければならない
それが時間を稼ぐことに繋がるのだから
どちらが先に限界を迎えるかそんな勝負だ
途中騒ぎを聞きつけた騎士がワラワラと集まってくる
「邪魔だァァ」
瘴気を纏った刃でフィンの飛ぶ斬撃——飛刃を再現する
そうして雑魚を蹴散らしつつフィンの足止めを行う
だがこの戦いも決着は近い
「ッ——しまっ」
突如胸の動悸が激しくなる
そうして動きが止まった時フィンは見逃さず急所へ一撃を見舞う
アランは何とかその攻撃に反応して剣で受けるが剣は中ほどから弾け門の壁へと吹き飛ばされる
「ちっ、よくもまぁ邪魔してくれたなぁ」
フィンはそういいながら近づいてくる
そうして間合いが近くなったときに一定の距離をとったまま剣を振りかぶる
「お前はどうも厄介だからねぜ、僕の最大の奇跡で一気に葬ってあげるよぉ」
あぁ皆逃げれたかな?
少しの間だったけどあの子達と遊んだ日々は楽しかったな
リリアナには最後まで守るっていう約束守れなくて申し訳ないな……
せめて幸せに暮らしてくれればそれで——
「——【風断ち】」
強風が迫る
きっと俺の体は修復は叶わないだろう
でもなぜか妙な達成感はあった
ようやく守ることができたのであればそれでよかった
目を閉じる
リリアナが笑っている姿を想像する
できれば彼女が心から笑っている姿を見たかったな
肉を割く音が聞こえる
だが、いつまでたっても痛みは襲ってこない
目を開けると目の前にはリリアナがアランを庇う様に立っていたのだった
今日は日付を跨がず投稿できました……!
さて、今回の話はいかがでしたか?
また明日も投稿予定ですのでお楽しみに!
できれば残り二日で一章の終わりまでいければいいなと思ってますので、もしかしたら明日明後日は数話ずつ投稿になるかも?