悪夢
今回はいつもより長めです。
*内容注意
それは突然のことだった
いつものように子供たちの相手をして眠りにつこうとしていた
でも眠気はあるのになぜか寝ることを体が拒んでいた
それでも明日はスザンナに連れられ下見に行くことになっていた
だから早く寝て明日に備えるつもりだった
なのに寝ることができない
寝てはいけないと体が警鐘を鳴らしている
そんな体に言い聞かせるように無理やり眠りにつく
今までこんなことはなかったのに疲れているのだろうか?
いや疲れているからこそ眠るべきだろうに
深く考えるのはやめよう
そうしてアランは瞼を閉じ意識を手放す
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周りは森に囲まれていた村があった
僕はそんな村で育った
外の世界はよくわからないけどそれでもこの村に住んでていて困ることはなかった
だから僕たちの村は外との関わりを持っていなかった
食料も森に獣がいるし畑になる作物も潤っていた
水も地下水から綺麗な水をくむこともできる
それに将来を誓った幼馴染もいて幸せに暮らしていた
森の恵みを受けて僕たちは長く長くこの森で平和に暮らしていた
誰もがこの平和を続くと思っていた——なのに……
最近村がどうにも騒がしかった
周りの大人たちも大丈夫だから気にするなと言っていた
その言葉を疑うことなく僕らはまた日々を過ごしていた
そうして気づいたときには村の人口が少しずつ減っていっていた
さすがにおかしいと思い村の長老達に聞いても何も答えない
ただただみんな口をそろえて大丈夫だから気にするなという
森の恵みを受けるこの村はすべての悪意から守られているのだからと
恵みを与えてくれた女神に今日も感謝を捧げる
「ねね、最近なんか騒がしくない?」
「んーいろんな人に聞いたけどみんな大丈夫っていうから大丈夫なんじゃないかな?」
「えーでも気になるよ」
そういって隣で目を輝かせているのは幼馴染のリナだ
リナはとても好奇心が旺盛で気になることはすべて自分で調べたがる
その度に僕は連行されて調べものの手伝いをする
昔リナが外が気になるといって一緒に連れられ魔物に襲われたことがあった
その後すぐに大人たちが駆けつけて大事には至らなかったが、僕がリナを庇ってかすり傷を負ったことでリナは魔物に対してトラウマ気味になったようだった
傷を負ったのは僕のはずなのにおかしいねって笑ったら涙目でそれでも僕が死んじゃうかもしれないからって訴えてきた
そのこともあってお互い意識し始めてこうして今は将来を誓っているのだから安い代償だと思う
そんなこと言ったらまたリナに怒られそうだから言わないけども
「そうはいっても何があったのか誰も話してくれないから何にもわからないと思うよ?」
「そうなんだよねー。私もお母さんたちに聞いたんだけど何も教えてくれなくって……んーーーーモヤモヤするっ」
「まあまあ。今は我慢して落ち着いてから教えてもらおう?」
「仕方ないね……めちゃくちゃ不本意だけどもっ」
毎度毎度気になることを調べるもののリナの望む回答だったということは少ない
生活する分にはこの村でも完結しているがどうしても知識面では村だけでは解明できることが少ないのだ
こればかりはどうしようもない
外に出ようにもリナは魔物を見ただけで動けなくなるし、仮にその外に出たとしてもどこに行けば解明できるのかもわからないのだ
リスクが大きすぎるのでリナも気になってもどうしようもないときは諦めるしかないのだ
「早く落ち着くといいんだけどね」
「そうだねー!」
そういって二人は畑仕事を終えて帰路につく
また明日といってそれぞれの家に帰り体を清めて眠りにつく
そうしてまた明日たわいもない話をして日々を過ごしていく
それがささやかな幸せだった
夜——バチバチと鳴る音に目を覚ます
そうしてすぐに至る所から悲鳴が聞こえる
「なんだ!?——え?」
そうして外を見ると視界は炎に染まっていた
森も村も火に包まれ村の人々は悲鳴を上げながら外に集まっている
「そうだ、リナっ」
僕はリナのもとへ走る
木々が倒れ道を塞いでいく
途中焼けた枝が落ちてきて肩を焼いた
それでもお構いなしにリナのもとへ急ぐ
リナの家に辿り着く
でもその家は半壊していた
背筋に冷たい汗が伝う
「リナっ大丈夫か!?」
「お母さんがお母さんがっ……私のせいで」
そういってリナはボロボロと涙を流している
見るとリナのお母さんが家の下敷きになっていた
先ほどの言葉と状況を見るに恐らくリナを庇って下敷きになったのだろう
「お願い、リナを連れて逃げて」
「嫌だ、お母さんをおいていくなんてできないよっ」
「もう足が動かないから、だからあなた達だけでも逃げるのよ」
もう家も半壊しているしこのままここに残るのは危ない
でもリナのお母さんを見捨てるなんて、
悔しくて唇を噛む
「リナをお願い」
そういってリナのお母さんは僕のことを力強い瞳で見つめる
「わかり、ました」
もうどうしようもないのは僕でもわかる
このまま全員家の下敷きになるなんてそれこそリナのお母さんは望んでいない
声を振り絞って了承を伝える
そうしてリナを無理やり担いで外へ連れ出す
リナはずっと暴れていたがそれでも離すことはなく外へ連れ出す
最後にありがとうと後ろから聞こえた
そうしてそのまま家は崩れ落ちた
「おかあさんっ」
そうしてリナはその場で崩れ落ち泣き出す
僕はそんなリナに声を掛けることが出来ずにただただその場で立ち尽くしていた
「なぁんか、五月蠅い音が聞こえますねぇ」
そういって一人の耳が短い男が近寄ってくる
僕はリナを庇うように男との間に入る
でも一瞬で距離を詰められ鳩尾に拳がめり込む
そのまま僕は地面に倒れる
「がはっ」
「邪魔なのでぇどいてくださいねぇ」
その男はそのまま進みリナの首を掴み持ち上げる
リナを嘗め回すように見てうんうんと首を振っている
「なかなかの上玉ですねぇそれに実験にも使えそうですねぇ」
「うぅ」
「でも五月蠅いのは嫌いなんですよぉだから黙っててもらえますかぁ?」
泣いているリナを黙らせようと左手に持っている剣先を胸元に押し付ける
その剣先から血が僅かに滲む
リナは歯を食いしばって一回頷いた
「よしよし、そしたらこいつも一緒に持っていきましょうかねぇ」
男に担がれ村の中央に移動する
リナは声を出さないように必死に涙を堪えながら男に追随している
村の中央には村の人たちが集められ、その周りを甲冑を纏った人たちが囲んでいた
「さてさてぇ、あなたたちは我らが神に選ばれましたぁ!いやぁ光栄ですねぇ。というわけでこれから聖都へ移動しますのでついてきてくださいねぇ。あぁ、わかってると思いますけどぉ、質問も何も受け付けてません。無駄なことをしようとするとどうなるかわかってますよねぇ?」
村のみんなは一様に首を縦に振っていた
よく見ると数が少ないし、傷だらけの人が多い
きっとすでに抵抗した人がいて殺されたり見せしめにされたのだろう
一撃で沈められ逆らうことが出来ず抱えられた僕はそのまま指示に従うしかなかったのだ
剣を持つ男につれられる形で森を移動する
村を出るのはリナに連れられて以来になるがそれがこんなことになるなんて思わなかった
村の人たちはみな暗い顔をして一様に言葉を発していない
自分たちには力がないことを理解している
だからこそ周りを危険に冒すようなことをすることはできない
それがとても悔しくて情けなくて、リナのお母さんに頼まれたのに何もできない
こんなにも自分は無力なんだと思い知らされる
どうすればよかったのかわからない
村でしか過ごしたことがない僕たちには結局生活で必要なこと以外のことなんてわかるわけがないのだ
だからみんなはこれ以上酷いことが起きないようただただ祈るしかなかった
森の恵みを授けてくれた女神様に救いを求めるよう縋るしかなかった
――GRAAAAAAA
森を半日ほど歩いたところで火の中から突然魔物が現れた
魔物は体に火を纏い村の人たちや甲冑を着ていた人たちを襲っていく
「あらまぁ、せっかく大量の獲物が減っちゃうねぇ。残念」
残念といいながらも全く残念そうな顔をしていない男を見ながら歯噛みする
皆必死に抵抗するが武器もない丸腰の身でどうすることもできない
何よりこの男の顔は楽しんでいるように見える
「まだ途中だけど仕方ないしぃ今のうちに行こうかぁ」
襲われている人らを見捨てて行くらしい
この男は間違いなく戦える力を持っている
それでも自分の連れてきた仲間も含めて見捨てるという
決して口には出せないがそれでも男を精一杯睨みつける
「生意気な目だねぇ。帰ったら楽しみだぁ」
そういって口角を釣り上げてニヤリと笑う
その顔はいつかの絵本で見た悪魔のようだった
「いや、いや、いやああああああああああああ」
突然聞こえた悲鳴にハッと振り返るとリナがその場で叫び崩れ落ちて震えていた
そうだ、リナは魔物がダメだったんだと今になって思う
そうして僕が気づいた時には男はリナのもとへ近づいていた
それを追いかけようにも近くにいた甲冑の人に捕まり押さえつけられる
「はなせぇええ」
藻掻いても藻掻いても抜け出すことはできない
そうこうしているうちに男はリナのもとへ辿り着く
「五月蠅いなぁ。もう君いらないよ」
そういってリナを掴み魔物のほうへ投げつける
リナ自身何が起きたかわからず戸惑っていた
魔物が一瞬怯んでその要因となったリナのもとへ近づく
「あぁ久しぶりだなぁ。どんな音を聞かせてくれるかなぁ―【繊切】」
その時リナは一瞬こちらに顔を向けて一言、ごめんねとつぶやいていた
一瞬男が剣を振るうとリナも含めて魔物を粉々に切り裂いた
その一瞬の出来事に僕は何もすることができなかった
様々な感情が沸き上がる
それでも僕は何もできずにただその場を見つめていた
「あ、あ、あ」
僕の体の中で何かが割れる音がした
叫ぶことも泣くことも出来ず、ただただ今の現状を受け入れることが出来ずにいた
「あぁ本当裂ける音は最高だぁ。五月蠅いやつでもいい音を聞かせてくれたんだ感謝しねぇと―さてぇこれで片付いたわけだから移動を再開しようかぁ」
僕はまた男に担がれて森を移動する
リナの最後に浮かべていた取り繕ったような笑顔が頭から離れない
そのまま僕はリナがいた場所を遠くに見ながら森を出て行った
こんなことならリナと無理やりにでも外の世界に出たほうが幸せだったのだろうか―今でもわからないや
僕はその後大きな教会と呼ばれる建物の地下に連れていかれた
そのまま村の人たちは別の場所へ連れていかれ僕は【断風】と呼ばれていた男―フィンにたくさんの器具が置かれた部屋に拘束された
そこから地獄の始まりだった
何度も何度も切り刻まれるうちにその想いは強くなっていった
ただただ目の前のフィンと呼ばれる男を殺したいと
それでも動くことのできず男の言いなりになるばかり
ただただ悔しくて憎くて憎くて憎くて、殺意は募りに募っていった
長く感じていたそうした日々も終わりを告げるときがきた
もう僕の体がボロボロであの男に飽きられていた
僕は間近に迫る死を受け入れられずにいた
いつか必ずあの男を―殺す
そうして僕は命を終えた
でもこの想いだけは絶対に忘れない
そしてその時はもうすぐだ
暗い靄の中で耳の長いエルフと呼ばれる種族の男は笑う
「さぁ復讐の時だ」
―――――――
「―――」
アランは恐怖で目を覚ます
背中を大量の汗が伝う
今見た夢はなんだったのだろうか
やけにリアルな夢に怖くなった
今のはノロイの記憶なのだろうか……
でもなんとなくだが今ノロイに反応はなく落ち着いているような感じがする
それにノロイとは何故かイメージが違う気がした
なんだかわからない夢に驚いたし怖くなったが周りはまだリリアナも子供たちも静かに寝ている
起こすのも悪い気がしたので汗を拭いてもう一度寝ることにした
今度はもっといい夢が見られたらいいな
また暗い話かと思われた方、申し訳ない
どうしても必要だったんです・・・
次回からまた物語が動き出します
お楽しみに