最初の出会い
sideリリアナ
もう何度目になるのかわからない
体を切り刻まれる感覚は今でも慣れない
それでも私は生き続ける
奇跡が恨めしいとさえ思えた
奇跡のせいで何度も同じ痛みを繰り返す
他の誰かが傷つくくらいならマシだと自分に何度も言い聞かせる
それでもやっぱり痛みは消えない
だから私は歌う
唯一残っている母の記憶
記憶の中でもよく聞いた子守唄
それを聞いている間は安らかな気持ちで居られたから
だから私は歌う
そうしてないと意識を保つことさえ辛いから
叶うならばこの痛みが消えて平和な日常を送りたい
いつかそんな日を夢見て……今日も地下へと連れられる
「いつになったら私は自由になれるんだろう?」
そしてリリアナは歌う、苦痛な日々を忘れるために
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sideアラン
「っ……どこだここは」
アランは目を覚ます
周りは薄暗い路地
空には夜の帳が下りている
徐々に何があったのか思い出してきた
「そういえば教会に聖水を恵んでもらおうとしたら門前払いを受けたんだった」
アランはため息をつく
別に暴力を受けるのは慣れてる
この際それはどうでもいい
それよりも聖水を何としても手に入れなければならない
これ以上はもうお母さんが持たない
そんな気がしてならないから
「やりたくは無かったけど……まぁ仕方ないよね。そっちが素直に恵んでくれなかったんだから」
アランは決意した
何としても聖水を手に入れる
その為だったら盗みだろうがなんだろうがやってやる
そうしてアランは教会に侵入する為に外壁を回ることにした
登れそうな壁や隙間を見つけるためだ
そうして少し探していると子供1人侵入出来そうな穴を見つけた
「よし、行こうか」
自分に言い聞かせるように一言呟く
悪びれることはしない
そうしないとお母さんが危ないから
だから俺は進む
それしか道がないから
「でもどこに聖水あるんだろうか」
当然教会に入ることが今まで無かったので構造も知らないしどこになるがあるかもわからない
いつ巡回の騎士に見つかるも知れないし無謀としか思えない
騎士に受けた痛みは引いた訳では無いしやり返したい気持ちもあるがそんなものよりもお母さんに聖水をあげたい
その中でたくさんの苦痛を受けたとしても構わない
どれだけ無茶でも1度決めたならやり通す
それが今俺の中に残っているせめてものプライドだから
「なんだろうここ?歌が――聞こえる?」
内部に侵入して探索していると1箇所不自然にずれた床が目に入る
その隙間から歌声が聞こえる
「綺麗な声だな……」
それは不意に出た感想だった
綺麗な歌声に誘われるように床をずらして地下へと向かう
「えっ?」
そして地下で見たのは歌う少女に群がり体をバラバラにする白衣の人達
少女は涙を流しながら苦痛に耐えるように歌声を漏らしていた
あぁ、本当にここの連中は腐っている
俺の中で何かが軋む音がした
そうして気づいた時には近くにあった鉄の棒を手に白衣の奴らに向かって走っていた
「なんだコイツは!何処から来た!!!」
「やめろ!寄るんじゃない!!!」
白衣の奴らは口々に何かを言っていたがそんなのお構い無しに襲いかかる
そうして白衣の奴ら6人ほどを文字通り血祭りにした
服は真っ赤に染まり辺りも血で水溜まりができていた
初めて人を殺めた
そこに罪悪感はなくむしろ清々したと言ってもいい
そうして惚けていると不意に声がかかる
「貴方は誰?」
先程までバラバラにされていた少女は五体満足でそこにいた
アランはとりあえず少女の四肢についている枷を外す
「えっと、通りすがりの――騎士かな?」
さすがに盗むとはいっても正直に泥棒と名乗るのは気が引けた
だからといって高潔な騎士を名乗るのもどうかと思ったがすぐに自分の中で否定した
ここにいるのはロクな奴じゃないし
うん、騎士を名乗っちゃおうか
「鉄の棒を振り回す騎士ですか……?」
「そこは、まぁ手頃なものがそこにあったので……それよりもよければここから逃げませんか?」
「逃げる……?どこに?」
「んーどこか遠いところに?」
「なんで疑問形なんですか……でも行けたら良いですね」
そういって目の前の少女は微笑む
その笑顔に一瞬引き込まれそうになる
そこで当初の目的を思い出す
「そういえば聖水ってどこにあるか知りませんか?」
「それでしたらここにも幾つか置いてあったと思いますよ」
そういって近くの棚から瓶を取り出す
「どうぞ」
「ありがとう、というかこんな不審な人に渡してもいいの?」
「まぁ……ここにいる人達に比べればまだマシかと思いまして」
「それはそうかもしれないけど」
とりあえず目的のものは手に入れることが出来た
ちょっと予定外のこともあったが2人であとは逃げるだけだ
「とりあえず一時的ではありますが我が主、逃げましょうか」
「ええ、逃げましょう、私の騎士様」
格好つけて言ったものの逃げるなんて我ながらダサいなと思う
でも目の前の少女はそれを笑いながらもちゃんと返してくれた
物語の中の騎士のようになれたみたいで少し嬉しかった
そのまま少女の手を引き走り出す
辺りは暗い中、月の光は強く輝いていた
今日明日でもう1話あげる予定です!