06 あの頃思い描いていた夢
夢は、小説家だった。
子どもの頃から空想することが大好きで、高校生の時、親にも友達にもあの時は吉沢くんにすら内緒で密かに執筆して応募した短編小説が小さな賞を受賞した。
どこか漠然としかしていなかった夢が形になった瞬間だった。
両親は反対こそしなかったが、小説ならどこでも書けるのだからわざわざ無理をしてまで、東京の大学にこだわらなくてもいいんじゃないかと言われた。
きっと私も同じ立場だったら、そう言っていると思う。だけど、当時は甘えられる環境を飛び出して、真剣に向き合ってみたい気持ちの方が大きかった。
もちろん努力したからといってなれる職業ではないことは、重々承知している。
けれど、それとは別に学歴や環境を広げることは、それだけ将来の選択肢も増やすことにも繋がると現実的な事も考え、両親もその考えにひとまず納得してくれたのだった。
それなのに大学2年の時、私は逃げるように辞めてしまった……。
私にとってその事実は大きなショックとなり、挫折感さいなまれることになる。
一度は、地元に帰ることも考えたけれど、人の目が怖くなっていた私は、結局、誰も知り合いがいない土地に引っ越したあと、高卒として厳しい就職活動を続けた末に、やっと今の会社に拾ってもらったのだ。
働きながら、細々と執筆をしていた時期もあった。
けれど、心のどこかでいつも「こんなはずじゃなかった」っていう思いが拭いきれなくて、書いても、書いても、あと一歩が届かない状況に、皆に「ほらみろ」と言われたような気がして、やっぱり私じゃダメだったのかという気持ちに陥っていた……。
そんな精神状態で書き続けていくうちに、キラキラとしたものがどんどんと零れ落ちていくような気がして、私がやっていることは所詮無駄な努力に過ぎないんじゃないかって、一度そう思ってしまったら、もうここ数年はパソコンの前で文字を打つことすら、苦しくなっていた。
◇◆◇
「今、振り返ってみれば、大学辞めずにもう少し踏ん張れてたら……。今日だって、もうちょっとマシな顔で、吉沢くんにも会えたかもしれないけど……。もう私、ホント、全然ダメダメで……」
グスグスとしながらやっとのことで話し終えると、思わずふぅ、と小さく息をついた。
もう取りつくろっても仕方ないと、吉沢くんにこれまでの事を大まかに打ち明けた。
ふと視線を移動させると、それまで静かに話を聞いてくれていた吉沢くんは、目を閉じて何やら考え込んでいる様子だった。
楽しくもない話を聞かせたうえに、掛ける言葉に悩ませてしまっているのかもしれないと思うと、申し訳ない気持ちになった。
けれど、ふと目を開けた彼が口にした言葉は、私にとっては意外だった。
「すみません。今の話の中で、朱里さんのどこにダメなところがありましたか?」
「え……?」