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第1話 魔物

初めまして。夏田幻といいます。

本作はダンジョン内で繰り広げられる、スローライフ×バトルアクションな牧歌ファンタジーです。

強力な魔物を交配して、徐々にヤバくなっていく牧場をお楽しみください!

魔物モンスター——。

 体内に魔なる性質を宿した生命。


 この世界には、様々な魔物が息づいている。

 スライム。ゴブリン。サラマンダー。ドラゴン……。数え上げれば、キリがないほど、この世界は魔物で溢れかえっている。


 彼らは、ときに人々を殺し、あるいは人々に殺される存在——。


 人類の、魔物に対する認識はどの地域でも、どの時代でも共通している。


 それは、彼らが”敵”でしかないということだ。


 魔物は、動物のように、決して人類に迎合することはない。


 それが、何故なのか、この世界で誰も知らない。——否、知ろうとしない。


 なぜなら、大迷宮(ダンジョン)が発見されたからだ——。


 ◇ ◇  ◇ ◇


 そして今、ダンジョンの一画でひとりの少女が死に物狂いになってひた走っていた。


 ひと目で亜人であることがわかる、特徴的な容姿——薄い褐色肌に、絹のような白髪。そして、この世ならざる美貌はあどけなさと可憐さを備えているが、何よりも長く尖った両耳が、彼女の正体を明らかにしていた。


 そんな美しい相貌も、今は恐怖と絶望と焦燥のみが張り付いていた。


 少女は脚力には、さらさら自信がなかった。彼女が足を蹴っている地面は、一面がでこぼこになった木肌そのものだった。故に、彼女は幾度となく転びそうになりながらも、かろうじて追手から逃れていた。

 少女は今、()()()()のただ中を走っている。

 ——迷宮第8層《洞(うろ)の道》。

 そこは、複数の樹々が縦横に繋がり、移動も困難な立体迷宮を形成していた。

 少女がわずかに背後を振り返ると、冒険者と思われる三人の姿が、次第に近づきつつあった。


「おい! 逃げるんじゃねぇ!」


 男の大声が、うろに響き渡った。

 少女はビクッと肩を震わせながらも、それには従わず、なおも足を前へ前へと進め続けた。


「はぁっ、はぁっ……」


 呼気が乱れ、恐怖と焦燥が、心臓を締め付けた。額から汗が流れ落ちる。


「——ひっ」


 足が木肌の窪みに引っかかる。そう思う間も無く、少女は盛大に転び、洞の壁面に身体をしたたかに打ち付けた。

 あまりの激痛に声も出せず、少女は思わずその場にうずくまる。しかし、即座に少女は、自身が置かれた状況に気付く。

「なあ、逃げなくてもいいじゃねえか?」

 三人の冒険者はすでに、少女の完全に到達していた。そのうちの一人、巨大な棍棒を片手に添えた大柄な男が、苛立ちを露わに、少女に詰め寄った。


「こ、来ないで……!」


 少女は震える声を絞り出した。


「なーに、殺しはしねぇよ。俺らは、お前の血が欲しいだけなんだからよ。だからよ、大人しくしやがれや——」


 その言葉とは裏腹に、男の言動には溢れんばかりの殺気が付き纏っていた。

 少女は、尻餅をついた大勢のまま、三人から距離をとるように後ずさろうとした。

 その動きを嘲笑うように、大柄な男は棍棒を地面に叩きつけた。その瞬間、彼らが立つ地面が大きく震えた。

 次の瞬間、全身を駆け抜ける吐き気を催すような波動が、少女を突き上げた。少女は頭を抱え、苦痛に耐えることしかできない。


「逃げれると思うなよ。ダークエルフさんよ……」


 その言葉とともに、大柄の男の両脇を固めていた二人の冒険者が詰め寄る。そのうちの一人が、大柄な男に言葉を向けた。


「だけど、本当なのか? ブレイさんよ。この小娘の血なんかを、()()素材の闇市が高く買い取ってくれるっていうのは」

「あん? テメェ知らねえのか、ダークエルフの血っつったら、下層の禁忌……。っと——」


 大柄の男の言葉は途切れ、同時に彼は、首をわずかに傾けた。その刹那、今しがた男の頭部が存在した空間に、鋭利な風の刃が吹き抜けた。


「……」


 わずかな沈黙。轟く風圧の破裂音。

 少女は愕然とした。まさか、不意をついて発動した【疾風刃(ウィンドカッター)】をあれほど容易く避けてしまうとは思わなかった。


「いや、早かったな……。だがなんだ? 人一人傷つけることすら恐れているかのような、そのブレた魔力は……。まるで気付いてくれと言わんばかりじゃねえか」


 そして、男は決定的な言葉を少女に投げかけた。


()()のクセに人様に情けをかけるたぁ、いい度胸じゃねえか——」


 男の片腕から、巨大な棍棒が振るわれる。威力は抑え、それでも目にも止まらぬ速度で、少女に打擲(ちょうちゃく)が襲い掛かる。

 彼にとっては、最後の仕留め、気絶を狙う峰打ちだった。

 しかし、少女の心は、先ほどの男の言葉によって、すでに打ちのめされていた。


 (私は、魔物……。)

 魔物(モンスター)


 ——彼らは、ときに人々を殺し、あるいは人々に殺される存在——。


 その無慈悲な共生関係は、ことダンジョンに至っては絶対的なドグマだ。

 ダンジョンの深奥に秘された真実に眩む人類にとって、魔物など、殺せばアイテムを落とす障害物でしかない。


 その事実は、大迷宮(ダンジョン)内部にて()()()()()、このダークエルフの少女自身においても何ら変わらない。


 これまで、少女は、多くの冒険者に追われ、騙され、奪われ、利用され、殺されかけてきた。その都度、這い上がり、足掻き続けた少女の小さき意志も、ここにいたって、潰えようとしていた。

 

 だけど——。少女は、ただで敗北を喫っしようとはしなかった。

(せめて、私の体を人間に、好き勝手させたりはしない……!)

 棍棒がダークエルフの小さな頭部に直撃する寸前、少女は胸に手を合わせ呪文の詠唱を終えた。


【ƌǢ,ȺƶƸ】(零の黒炎、我より爆ぜよ)


 それは、少女の肉体を中心にして発散される、破滅の爆炎。

 少女の膨大な魔力が、針の穴にも満たない一点、少女の華奢な手の内に収束していく。

 少女の全身から、血の気が引いていく。

 同時に、少女の両手はまばゆい闇に包まれはじめる。

 ——そして全てを焦がし尽くす黒炎が、少女自身をめっするように爆ぜようとする刹那——


『ぽよん』


 不思議なことが起きた。

 少女は、訪れぬ消滅に疑問を覚え、うっすらと目を開ける。


「ぇ?」


 少女の両手には、スライムが覆いかぶさっていた。


『じゅーー』


 ほうけ面を晒す少女の眼前で、スライムが自身の体内で、少女が放った闇の消滅魔法を消火していた。


「あれ? エルフさん泣いてる?」


 その問いは、スライムの頭上、つまりダークエルフの少女と大柄な男に挟まれる位置に立つ()()()()()の口から発せられたものだった。

 青年は左手でスライムを掴み、少女の手を包み込むように添えていた。

 そして少女は、驚きに再度、呆気に取られた。


 青年の右手は、もう一匹のスライムを掴み、棍棒の一撃を()()()()()()()

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