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私の中世ヨーロッパ

死亡率の話を書きました。

人の生死を数字化して明るい雰囲気の中で論じる事に嫌悪感を抱く方は御注意ください。


今回は私の調査結果の一端を披露しているだけです。

丸ごと読み飛ばしても、次回以降に影響はありません。

 ナーロッパと決別したい。その為に、まずは中世ヨーロッパの実際の姿を知りたい。中世ヨーロッパとはどんな世界だったのでしょうか。


 フランク王国?十字軍の遠征?そういう事ではありません。小説の舞台を構築する為に、貴族や教会や一般庶民の日常生活を知りたい。朝起きたら、最初に何をするのでしょう。家事は誰が何をどうやっていたのでしょうか。


 例えば、電子レンジもIHクッキングヒーターもガスコンロも冷蔵庫もエアコンもストーブも扇風機も掃除機も洗濯機もありません。知識としては知っています。しかしそういう世界での生活がどうなるか、具体的に想像できますか?


 朝起きたら、朝食は誰が用意しますか?食器はどう片付けますか?昼食や夕食の用意は?竈で作ると所要時間も変わります。他にも、例えば洗濯など現代人には想像できない程の長時間が掛かります。しかも自分の手を動かさないと進みません。


 中世において、一人の人間の一日はどうなるでしょう。その男女差はどうでしょうか。


 学校の教科書には書かれていません。しかしインターネットを検索すれば、井戸端会議から論文まで様々な記事を拾えます。20年前までは図書館で百科事典や解説書を探して読み漁るしかありませんでした。良い時代になりました。


 インターネットを駆使して、私はまず、死亡率を調べてみました。乳幼児死亡率、そして成人後の寿命。村や町の様子を描く為に必要だと考えたからです。人々の子連れの様子、若者とベテランの比率、爺さん婆さんをどのくらい見かけるのか。ごく当たり前の日常風景を知る為の手掛かりとなるデータです。


 調査してみると、予想していなかった意外な事実が浮かび上がってきました。こういう事があるから調査は面白い。仕事だと堪ったものではありませんが。スケジュールが狂うので。


 中世ヨーロッパでは、正確な人口統計が存在しないそうです。その点で日本の江戸時代はほぼ完璧でした。死亡率などは日本の江戸時代の方が参考になります。


 出生時の性比。105対100で男児が若干多く、これは古今東西どんな社会でも同じ。土葬なら墓を暴いて骨を調べれば、埋葬された人物の性別や年齢がわかります。地域によっては明らかに男に偏っているらしい。女児の間引きが行われた証拠だそうです。こんな話題は意識して調べないと絶対に出てきません。


 乳幼児死亡率が高いのは良く知られた事実でしょう。およそ50%にもなるようです。つまり生まれた子の半分は7歳くらいまでに亡くなります。流産や死産も多い。ついでに言うと、出産という行為自体が命懸けでした。産褥熱など当たり前。信じられますか?


 乳児期と幼児期の高死亡率を乗り越えた人は、何歳まで生きられたのでしょう。こういう内容を知るのに便利な概念が平均余命です。20歳の青年の平均余命は、男で30年弱、女が20年強。50歳以上の老人を見掛けるのはごく稀という事になります。


 出産が命懸けで乳幼児死亡率が50%となると、別の事実も見えてきます。


 夫婦は一生の間に最低2人の子を育てなければなりません。さもないと人口が減って村が消滅します。乳幼児死亡率が50%の場合、最低で4人の子を産む必要があります。実際には成長後でも死亡率が多少ありますので、4~5人程度は必要と考えられます。


 しかし出産が命懸けだと、途中で産む事が出来なくなる女性も出てくるでしょう。あるいは望んでも子を授かれない夫婦もいます。その分は別の女性が産まなければなりません。この点についての具体的な数字はわかりませんでした。


 村を維持する為に最低必要な出産回数は、当て推量ですが6~7回となりそうです。女性は一生の間に6人から7人以上の子を産む事が義務になります。


 ここで出産のペースを考えてみます。妊娠期間が10ヶ月程度、出産して乳離れまでの期間を合わせると、2年前後に1人が平均的な出産ペースと思われます。


 結婚後最低でも12年は、妊娠と出産と乳飲み子の世話を続けるのが女性の現実です。仮に16歳から婚活を始めて結婚、18歳から出産を始めるとすると、30歳過ぎまでは子を産み続ける事になります。それは最速のペースを維持した場合の最低限度。実際にはもっと高齢になるまで出産を求められるでしょう。


 先に述べた通り、女性の寿命は40歳~45歳程度。つまり女性は、十代で結婚してからずっと、子を産む事を求められます。


 女性が出産の義務から解放されるのは人生最後の数年間。現代日本でも高齢出産でリスクが高いと言われる年齢になってからようやくです。力が弱くて性的に搾取されるからではなく、そうでなければ村が消滅するから。差別や思想の問題ではありません。種の存続に関わる理由です。


 乳幼児死亡率50%というのはこういう数字です。


 死亡率一つでこれだけの意外な事実が出てきました。他にも様々な切り口で調べてみました。中世ヨーロッパの常識が少しずつわかってきました。実に興味深い!


 …となれば良かったんですがねぇ。そんなに分かり易い時代では無かったようです。

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― 新着の感想 ―
[一言] 一生に六、七人の出産。厳しいですね~ 現代では女性の平均の寿命の方が長いですが、この当時は男性の方が長生きとある。 出産で命を落としたり体が弱くなったりと、寿命が縮んでしまっていたりするので…
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