07 花屋の息子と香水屋の娘によるちょっとした心理戦
短めなので気まぐれで投稿です。
ちょっぴり甘め。
「......ティアナ?さっきから大丈夫か?」
「え......?あ、うん、大丈夫、です!元気ですよっ!」
「そう、ならいいんだけど......」
ティアナこと元俺のマネージャーの凛は、さっきから時々、焦点が合っていなくなっていた。
彼女に大丈夫か、と聞くと、明らかに誤魔化している返事が飛んできた。正直、かなり怪しい。しかし、何があったのかも分からないため、これ以上追及することはできなかった。
「えっと、花言葉についてですよね。それは通称犬サフラン、正式名称はコルチカムです。見た目が似ているため、たまにサフランに間違われるそうですよ」
「あれ、さっき普通にサフランって言ってなかったっけ?」
「......それは、多分聞き逃しですよ。犬サフランの犬の部分を聞き逃したんですよ」
「そう......」
彼女の説明を聞きながらも、俺は最後にちょっとだけ探りを入れた。しかし、それは少し言葉に詰まった程度で、他は完璧な説明で不自然な箇所も存在しなかった。
「代表的な花言葉は『危険な美しさ』ですね。他は色々とあるようですが、多いので省かせてもらいます」
「......ねぇ、それってさ、俺に『危険な美しさ』の影響があるって言いたいの?」
「ま、まぁ、そうですね。先程顔を近くで拝見させていた時、とても綺麗な顔立ちをしていらっしゃったので、そこでこの花に気付くことが出来たのです」
「へー......褒めてくれてありがとね?」
「いえ、事実ですので」
俺は、俺に咲いている花の正体が分かったお陰で、精神が綺麗に融合した、という感覚を抱いた。融合するためには、自らがが何者なのかを『犬飼薫』が理解したことがトリガーだったらしい。『フラン』の記憶はまだ戻りきっていないが、一日あれば戻りそうな予感はしている。
それで余裕が出来た俺は、ちょっと悪戯を仕掛けてみたくなってしまった。
その方法とは、顔を近づけて、瞳を見つめながら、甘い声で甘い台詞を吐くというものだった。
その効果は明らかに出ていた。俺の予想以上に。
今度も言葉に詰まる程度だろうな、と思っていた。しかし、彼女は明らかに狼狽えた上にさっきまでよりも珠更丁寧な口調になっていた。それは狼狽えた後に、動揺を誤魔化そうとして過剰な敬語になってしまったのだろう。普通に狼狽えるよりも分かりやすい反応だった。
しかし、その反応をもう一回見ようとした時には、もう彼女は平静に戻っていた。
流石、前世の俺のマネージャーだ。
「でも、そっかぁ......花言葉、ねぇ」
「フランは馴染み無いんですか?」
「昼ドラのタイトルぐらいかな。それ以外のやつは知らないかなぁ」
「あぁ、アレですか......。取り敢えず、私は大体の花の名称と花言葉は覚えてるので、聞きたい物があればなんでも答えますよ」
俺は花言葉どころか、花の名前すらも分からないため、この世界については彼女に最大限頼った方が良さそうだ。
彼女はドヤ顔で得意気に胸を叩いて、任せろ、とばかりにこちらに目線を向けていた。折角なので彼女に早速、彼女に咲いている花について質問をした。
「じゃあ早速。ティアナの頭に咲いてる、なんかその、紫の......花は何?」
「あぁ、リンドウですね。花言葉は......正義や誠実、勝利等がありますね。転生前からずっと私っぽい花言葉だなぁって思ってたので、これだった時は嬉しかったですね」
「......それ、自分で言えるの凄いね」
「はい、そう思ってましたからね」
俺は彼女の解答に僅かな違和感を覚えた。その違和感は気の所為かどうかを確かめるため、俺は次の質問をした。
「じゃあさ、俺のお母さんのモニアータさんが鎖骨の真ん中辺りに咲かせてた花はなんだ?」
「あれはスターチスですね。花言葉は永久不変、彼女の年齢不詳で昔から変わらない容姿にピッタリの花なんですよ」
「年齢不詳......?年齢も分からないのか」
「はい、彼女が明かさないので誰にも分かりませんね、理由は謎ですが」
その年齢不詳って、俺の年齢とかを考えれば大体わかる気がする、と思ったが、その話は頭の隅っこに置いとく程度に留めた。
それよりも、さっきの僅かな違和感が確信に変わったことの方が印象に残っていた。
そうだ、あの沈黙は俺たちの花言葉に関することだった、と確信を得た。
明らかに、彼女は、ティアナは意図的に花言葉を偽っているか、隠している。何故なのかはおおかた前世関係が理由だろう。
しかし、俺に気を使って隠しているのならば、俺は追及することは避けた方が良い。彼女は優秀なマネージャーだったから、俺が気を揉んでしまうような話題は毎回避けているのは知っている。
ならば、そのままにしておこう。その事を聞いてしまったら、俺はパニックを起こすだろう。
彼女を信頼し、話してくれる時まで待っていよう。それが最善の選択だと俺は考えている。
話題を変えよう。
そう思い、俺は別の話を振った。
「そういえばさ、人によって花が咲いている位置が違うのはなんでなんだ?」
「それは咲かせる位置は自由だから、としか言いようがないですね。私の場合は花飾りみたいに付けるのに憧れて、自ら選択したみたいですが。フランは......あぁ、まだ思い出せてませんか?」
「そうだよ、記憶はもうちょいで戻りそうなんだけどね」
俺は記憶のせいで、話題が止まってしまって少し焦りを感じてしまった。ダメだ、これ以上黙っていたら追及したくなってしまう。そう考えていた時だった。
ティアナから驚きの情報が与えられた。
「フランのような病弱だった子は、赤ちゃんの時に背中の辺りに咲かせて病死しないようにしていますね」
ここまでの話で、はな〇っぱを思い浮かべた人は考え直してね。