06 香水屋の娘による乙女ゲーム解説
もうちょい続きます。
私はその後、なんとかモニアータさんを部屋から追い出した。そして、フランの現状の確認を手伝おうとしたが、突如私は泣き出してしまった。
そのまま泣き続けていた私は泣き疲れたのか、彼に縋り付いた体勢のまま眠ってしまったらしい。
起きた時には、彼も寝ており、無意識の内に私の後ろに手を回していた。それに気付くと同時に、私はモニアータさんに起こされたことに気付く。
その時、彼女はフランと私の関係を何か勘違いしているな、と察し、必死に弁解した。しかし、彼女はそれをわかった上でからかってきているように思えた。
彼女はついでにフランにも余計な質問をしていた。
やめて、変なことになったらどうするの。まぁならないとは思うけどさ!!
そして満足したのか彼女は部屋の外に出ていこうとした。しかし、彼女は去り際、フランに聞こえないような声で、こちらを見ずにあることを呟いた。
「気付かれないのなら、もっと大胆な手に出ちゃいなさい」
おそらく私に言ったのであろう言葉を、彼女は私に弁解させる暇を与えず、扉の向こうへと消えていった。
私は、その言葉が頭の中を反芻しまくっていた。
大胆って、大胆って何をするの、ナニをするの!?
私はその言葉に、何故か頬を熱くしていた。その言葉に力が抜けたのか、全力で弁解していたお陰で疲れが出てきた。そして私は床にへたり込みそうになった身体をなんとか立たせ、背筋を伸ばし、彼のいる方向へ向かった。
私は彼と現状の話をする為、ベッドに腰掛けている彼の隣に同じように腰掛ける。
そして、熱くなっている頬を無視し、私はマネージャーとして彼に話しかけた。
◇
「なぁ、俺って人間じゃない何か......植物になったのか?」
「......え?」
彼に話しかけ数分後、まだ転生後の記憶の整理が出来ていないらしく、まだ話が進んでいなかった時のこと。
突然、彼が自ら質問をしてきたと思ったら不思議な質問で、私は困惑の色を隠せなかった。
だが彼の尾てい骨付近を露出して、見えているモノを見れば、あぁそういうことか、と彼の疑問に納得した。
「いや、だってこの花、俺から咲いてるし......」
私は、彼の発言の途中で肩を叩き、話を遮ってから無言で頭の一部を指でさした。そこから私はリンドウの花を咲かせた。
「えっ......!?それって......?」
「こういう花は大体の人に付いてますから安心してください、そういう世界なので」
そう、この乙女ゲーム、『フラワーマジック~言葉を紡ぐ~』の舞台であるこの世界は、未婚の貴族と、余程幼い子供以外は花が咲いているのだ。その理由は長いので、ここでは一度省かせてもらう。
その通り、この世界では花と魔法は密接な関係にあり、身体に花を咲かすと魔法が使えるようになるのだ。まぁ、普通の花でも使い捨てであれば魔法を使えるが、圧倒的に花が咲いている人とは月とスッポン並に違い、完全劣化版魔法になってしまうのだ。
「そういう世界......?」
「あ、言ってませんでしたっけ。ここ、乙女ゲームの世界なんです」
「......乙女ゲーム......ごめん。あんまり、馴染みが無くて分からないや」
「あー......簡単に言うと、女の子の主人公がイケメン達を捕まえる恋愛ゲームです」
やっぱり男性はあんまり乙女ゲームやってないんだなぁって考えながらも、私は話を進めた。
「乙女ゲームについての説明は長いので、まとめて紙に書いておきますね」
「あぁ、うん、ありがとう」
「いえいえ、マネージャーの仕事の内なので」
今乙女ゲームについての説明をしても混乱している頭には覚えられないだろうと思い、私は後でまとめるという旨を伝えた。
そして、彼が疑問に思っている肝心の花についての話をしていく。
「まず、この世界に暮らすにあたって、最重要事項である花について大まかに説明しますね」
「うん、ぼ......俺も気になってたから助かるよ」
「ありがとうございます。......この世界で花とは免疫を強化し、魔法が使用可能になる、というとても便利な物です。これはストーリー設定の都合上生まれたのであろうシステムなので、花の構造とか考えたら負けです。探せば花の構造等についての論文もあるとは思いますが、まず、私たち庶民には見れないような資料なので関係無いですね」
この世界での花はかなり便利なもので、花が咲いている人は何歳であろうが一部病気を除いてかかることは無いと思う。少なくとも私が知る範囲では居ない。
魔法に関しては魔力の源と触媒を花が担っている。つまりは全部だ。
使い捨てなら花を使うだけで魔法を使うことが出来るらしい、凄い。まぁ多分、貴族しかやり方は知らないけど。
前にモニアータさんに、付いてる花じゃない普通の花を使って魔法使えないのか、って聞いてみたんだけど、庶民には咲いている花から魔法を使う方法しか教えられていないらしい、とても悲しい。
「魔法は学園に入ったものにしか使い方を教えられないらしいです。まぁ、門外不出とかではないらしいので、少なくともこの国の人は大体の人が魔法使えると思います。子供は扱い方を間違えると普通に死んでしまうらしいので、意地でも教えない決まりだってお母さんから聞きました」
「えっと、学園って?」
「あー......話すと長くなるので、これも後で紙に書いておきますね。この話は自分のメモを家から持ってくるので、前の話をまとめたものと一緒に渡すようにしますね」
今、話に出てきた学園といえば、この乙女ゲームの主な舞台になる『フローラ学園』のことを指す。
学園を囲むように大きな庭園があるが、名前の通りに沢山の花が咲いており、そこから花を摘むことも可能だったはずだ。
学園については多分関わらない、というか関われないと思うので、私は彼に説明する気はない。
「すみません、話が逸れました。......そして、私たちに咲いている花に関してですが、咲いている花の花言葉に性格が影響される可能性が極めて高いことが分かりました」
「......え?」
そう、それは私のリンドウの花を咲かせた7歳の頃とそれ以前の時は、人でも変わったかのように性格が変わっているから分かったことだった。
それ以前の私は驚くことに、人見知りで、周りから一歩引いたような子供だったのだ。やんちゃなのは変わらないらしく、親しい人の間なら今とあまり変わりがないらしい。
私は咲かせた年齢が7歳と遅めだったため、影響はそれしかなかった。だが、周りの人は4、5歳の頃にはもう咲かせているため、その傾向がより顕著に出ていた。異常に優しかったり、嫉妬心が異常に強かった子もいた。
しかし、そんな影響を及ぼす花言葉はこの世界では認識していないらしく、周りの大人や、もちろん子供に聞いても『花言葉?何それ知らない』みたいな答えしか帰ってこなかったのだ。
これはただのあちらの世界の制作陣が、考察要素として入れた裏設定なのだとは思う、が。
花言葉によっては、影響がとんでもないことになると思われる。
「じゃあ、俺も同じように影響受けたってことなのか?」
「はい。ですが、『フラン』が影響を受けていただけであり、『薫さん』が合わされば、ある程度緩和されていると思われます」
「......なぁ、俺の花の花言葉は何か分かるか?」
彼のその質問は、ただの知的好奇心だったのだろう。
「そうですね~......フランの花であるサフランであれば......あれ?」
私は彼の花を一目見た時、サフランという花だと思っていた。
しかし、これは違う。
普通の人であれば、花の状態を弄れることが出来る。だから、私はサフランの葉を見えなくしているのだと思っていた。
だが、今の彼がそれを制御出来ているとは思えない。違和感を覚えているのに、操作できているのは明らかにおかしい。
「......ということは、元から葉が無い......?」
「おーい、ティアナ起きてるか~?」
目の前で彼が手を振りながら至近距離で覗き込んでいる光景が見えた。
その顔は、酷く美しい容貌をしており、耐性のある私でなければ堕ちてしまいそうな容姿をしていた。
そのお陰か、私は一つの花言葉に辿り着けた。
そして、その花言葉は、その一種類の花しか持っていなかったはずだ。
その花は同時に、もう一つの代表的な花言葉を持っていた。それは━━━━━━
━━━━━━━━━『私の最良の日々は過ぎ去った』
次回から視点戻ります。