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02 犬飼薫のスキャンダルについて(後半)

本日2話目です


11/30 一部文章の修正、新たに行の追加をしました。


「えっと、すみません......?俺、なんかやらかしました......?」

「......取り敢えずお話はリビングで聞きます、来てください」


 突然マネージャーの凛が、押し掛けてきた。

 彼女は俺が、なんてことをしてくれた、と言っていたが、俺には心当たりがなく、非常に困惑していた。


 そして俺が困惑してる間にも話が進んでいた。

 彼女は左手に持っていた袋を俺に渡そうとし、俺は流されるがままに受け取ってしまった。俺が戸惑いで、動きが固まっているのを見た彼女は、俺の手を引っ張ってリビングへズカズカと進んでいった。


 そしてついに、リビングへ連れてこられてしまった。彼女は俺に渡していた袋を奪い取って、机に置き直した。


 彼女は無表情で、淡々と袋の中から本......いや、雑誌を取り出した。そのまま彼女は無言で、雑誌を机に並べていき、片方の袋の中身が空になると、もう片方の袋を手に取った。

 やはり、もうひとつの袋からも同じような雑誌が何冊も出てきていた。そんな光景を俺は呆然としながら眺めていた。


「薫さん、何ボーッとしてるんですか?」

「......っあ、いや、なんでもないです」

「......取り敢えず、これを見て何か思うことないんですか?」


 彼女は普段よりも声がワントーン低く、険しい目付きをしていた。そして明らかに不機嫌そうな様子で、こちらを見つめている。


 そんな不機嫌そうなマネージャーに言われた通りに、雑誌に目を向けると、派手な見出しに自らの名前と共に、身に覚えのない内容が書かれていた。



 『スクープ!!巷で噂の人気俳優はとんでもない浮気性だった!?』


 

 それは何故彼女が焦っていたのか、不機嫌そうな様子だったのか、先程までの言動全ての理由を、嫌でも察してしまう内容だった。


 その雑誌を手に取り、紙を何枚か捲くった。

 そこにあった見開きには、俺の話......いや、俺と瀧本露の話が書いてあった。それは俺に関する事実無根の話と、瀧本露の証言が大半であり、他は学生時代の話を誇張して書かれていたぐらいだった。


 そこに書かれていた彼女の証言は、『寂しかった、しばらく会っていない』


「薫さん!? これは一体全体どういうことですか!?」

「俺は......こんなの知らない......何で、なんで、なんだよ、これ......」


 そしてマネージャーは俺が、事態を把握したと同時に、我慢していたのであろう怒りが爆発してしまったのか、俺に詰め寄ってきていた。


 俺はそれに戸惑いの声しか返せなかった。

 ただ、そこに載っている写真を見つめていた。俺の記憶が正しければ、このページに使われている写真は全てマネージャーに内緒にしていた、瀧本露との密会現場だったからだ。



 彼女と猫カフェに30分だけ、偶然会ったかのように示し合わせた日の写真も。


 彼女とコーヒーチェーン店の席の背後に座って、別の客かのように振舞ってこっそり会話した時の写真も。


 彼女と人目のつかない公園で久しぶりに顔を合わせて笑いあった時の写真も。


 それら全てが、彼女と居た時の写真だった。

 


 これらの写真を見て、俺は脳が拒絶反応を起こすかのように、何も考えられなくなっていた。まるで磁石が反発する時のように、文章や写真、全て受け入れられなかった。


 それから俺は、ただ死んだ魚のような目で、無感情に写真を眺めていた。


 その後、マネージャーに大丈夫か、という声をかけられ、俺はなんとか正気を取り戻した。

 もう一度内容を確認しよう、と見返した。

 そしてついに、俺は内容を理解した。いや、してしまった。


 彼女に......露に、俺は、嵌められたんだ、と。

 

 頭が働くまでに、気付けば五分ほどの時間経っていたのではないか? と、感じてしまった。

 ふと、俺を呼ぶ声が聞こえた。ここには俺とマネージャーしかいないので、この声はマネージャーの声だ。

 しかし彼女の声は、先程までの不機嫌な雰囲気は何処へいったのか分からないぐらいの慈愛に満ちた声をしていた。


「あの、薫さん。あなた、嵌められたんですか?」

「............ぁ、うん......」


 その時に俺は、年下の彼女に母のような温かさを感じてしまった。それは、瀧本露に嵌められて弱っていた心には耐えきれなかった。


 その瞬間、俺は膝から崩れ落ち、俺よりも頭1つ分以上も小さい彼女に縋りつきながら、泣き喚いてしまった。


「........あの、ほんとに、ごめんなさい......おれの、せいで、ごめんなさい......」

「あ......えっと、私の方こそすみませんでした。......あの、確認したいことがあるのですが、良いですか?」


 俺は、マネージャーにかけられていた制限を破って露さんと会ってしまい、案の定こんな風に問題が起こってしまった。それに付随して、マネージャーが管理していた仕事の予定も、おそらくパーになるのだろう。


 それらのことを謝罪しようとしたのに、感情が抑えきれなかった。思考が纏まらずに、嗚咽しながらとにかくごめんなさい、としか言えず、代わりとばかりに何回も繰り返し同じような言葉を吐き出していた。


「......あの、薫さん。確認したいことがあるのですが......」

「......あっ............はい、大丈夫、です」


 マネージャーからの問いかけに気付かずに思考の海に溺れていたところを、彼女からの何回目かの問いかけでギリギリだが、現実に思考を引き戻すことが出来た。


 マネージャーに縋りついた体制から、俺は近くの机の側の椅子に座り、彼女は真反対の椅子に座った。マネージャーが座り終えた後、彼女の質問を俺は、なんとか感情を整理しながら待っていた。

 

「......何個か確認したいことがあるのですが、これは一つ目です、この写真はなんですか?」

「えっ?いや、それは......」

「さっきまで、私はとっっても不安だったんですよ?このぐらい確認させて、不安を解消させてください」

「............はい」


 彼女は俺がさっきまでの正気じゃない時や頭が働いていない時間にも感情を整理して、俺の拙い発言の節々から状況を理解してくれたらしい。


 今の彼女は押しかけてきた時とは別の怒りを抱えているらしく、俺は彼女からの確認.....いや、尋問に答えていった。


 ◇


「......取り敢えず、確認したいことは全て終わりました。次はこれからの計画を立てましょう」

「......はい」


 俺はマネージャーからの質問が終わり、俺を心配していた感情はどこへ行ったのか、という程の迫力で尋問をされてクタクタになっていた。


 俺が正気を失ったりしていた時間は思っていた時間よりも長く、合計30分以上はあったらしい。

 彼女に縋りついた時に、無言で頭をポンポンされていたことを思い出したが、その話は流石にマネージャーも恥ずかしかったらしく、互いに不可侵条約を結んだ。


「まず、仕事は全部キャンセルします。まぁ、こちらからしなくても、キャンセルされるとは思いますが」

「......はい」

「次に、薫さんには私からの監視を受けてもらいます、大丈夫ですか?」

「......大丈夫です」


 彼女は淡々と話を進めていき、たまに心配する素振りは見せつつも、声はかけずに話を続けていった。

 俺も、一応は感情の整理はついたが、裏切られたショックはまだ残っているようで、淡々と返事をしていった。


「最後ですが........」

「......?」


 突然、話が止まった。

 今さっき口を閉じたマネージャーは、先程までの真面目な表情などではなく、口に出来ないほどの恐ろしい表情に変化していった。


 そして、俺はその恐ろしい表情にかなりの悪寒を感じたが、流石に椅子から立てるような状況では無い。今、俺は冷や汗をかきながら、彼女の唇が動くのを待っていた。


 ついに動いたかと思ったら、口角がつり上がっていき、今までの真面目なマネージャーの印象とは一転、過激な言葉が紡がれた。




「薫さんを嵌めた瀧本露には、消えてもらいましょう!!」



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