01 犬飼薫のスキャンダルについて(前半)
本日1話目です
11/30 全体的に改稿をしました。読みにくかった方は読み直し推奨です。
『スクープ!! 巷で噂の人気俳優はとんでもない浮気性だった!?』
自宅の机一面に、週刊誌が何冊も並べられている。
週刊誌はどれもこれも似たような見出し。
しかし全ては、1つの出来事を指し示すかのように一致していた。
俺はその中の一冊を手に取り、急いでページをめくる。
そこには自分に関する、全く身に覚えのない情報が羅列されていた。
「薫さん!? これは一体全体どういうことですか!?」
「俺は......こんなの知らない......何で、なんで、なんだよ、これ......」
その週刊誌の内容に、俺は放心状態に陥った。
なんとか全ての内容を読み取ろうとするが、あまりのショックで目が滑って読み取れない。
長年、俺の担当マネージャーである程度慣れ親しんだ相手の白藤 凛。
年下の彼女になにがあったのか問い詰められても、俺は何も返事を返せなかった。
――いや、何が起こったのかも、理解出来ていなかったのだろう。
なんとか正気を取り戻した時、こちらに近づいてくるマネージャーに気が付く。
背の低い彼女が近付いてくると、胸元に持っていた週刊誌に隠れて姿が見えなくなった。
無意識の内に、週刊誌を閉じる。
そして、彼女の瞳に吸い込まれるような感覚に襲われた。
彼女は、全てを見透かすような瞳で。
それでいて、慈しむような瞳で。
俺は、彼女にある問い掛けをされた。
薫さん、あなた、嵌められたんですか? と。
◇
俺は巷で噂の人気俳優の犬飼 薫だ。
人気になったのは数年前に脇役を努めたドラマがSNSで話題になった時のこと。
その時から、『遅咲きの色魔』、『色気の爆弾』などというあだ名を付けられることが多くなっていった。
その影響なのかどうかは分からないが、出演オファーはいわゆる、昼ドラが大半を占めるようになった。
そして、俺は一気に『昼ドラの王子様』という独自の地位を確立。
更には『奥様が選ぶ、水道修理業者になって家に来て欲しい俳優ランキングNO.1』という色々と危ない称号を勝手にSNSで付けられるなど、色々な意味で人気は衰えていない。
色々あったブレイク年から数年が経ち、仕事も安定してきた最中の出来事。
その時の俺は新しい昼ドラの撮影のクランクインのため、仕事の現場
そして髪のセットやメイクも済ませ、俺は撮影現場へ向かった。
現場には、出演者の中では俺が一番早くに来たらしく、まだ現場は閑散としていた。
その後、スタッフさん達に一人一人に挨拶をしていった後に、俺は他の俳優たちが来るまで昼ドラの常連スタッフたちと歓談をしていた。
それが起こったのは、スタッフと歓談をしていた時だった。
演者たちが続々と集まり始めており、俺も彼らに挨拶をしようとした。だが、俺はある人から目を離せなくなってしまった。
そのある人とは、今回のドラマの主演であり、演技派女優と名高い瀧本 露であった。
俺は彼女に一目惚れをしてしまった。
これが、33年間の生きてきた俺の初恋であった。
学生時代には男女問わずに付き合っていたことはある。
だけど、別に好きでもなかった。それにキスも性的な行為も一度もしたことが無い為、人に対してドキドキするということは初めてだった。
俺は見事に初めての感情に戸惑ってしまい、お陰で撮影でミスを連発してしまった。
しかし、彼女はそんな俺にも丁寧に接してくれた。
撮影の合間、暇になった時に差し入れを手渡してくれたり、台本読みにも毎回と言っていい程協力してくれた。
そのお陰なのか俺は、段々と撮影で彼女に過度に緊張してしまう、ということもなくなった。
台詞を忘れるなどという大きなミスはなくなり、稀に台詞を噛んだりしてしまった時でも彼女はその度に慰めてくれた。
だが過度に緊張していた時には、台詞を飛ばしてしまう上に噛みまくるとかいう地雷ムーブを噛ましていた。
それを自覚していた俺は、自分は駄目なんだろうか、と自己嫌悪に陥っていた。しかしその時も、彼女は付きっきりで演技の稽古をしてくれたことで、さらに彼女が好きになっていった。
その時には一目惚れをした時よりも、もっと好きになっており、これは一種の依存状態ではないかと疑うくらいだった。
そこからはもう、無意識の好き好きアピールが日に日に増していったらしい。
撮影の休憩時間、彼女を無意識に視線を向けてしまっていた。それに演技の稽古で、彼女の役に惚れた男が出てきただけで、実際に嫉妬を抱いている表情をしてしまっていたらしいのだ。
その挙動は周りの演者やスタッフ等、第三者目線からだと明らかだったのかは分からない。
しかし恐らくは、俺の好意が周りにバレており、スタッフや演者にお膳立てされていたと思う。もしかしたら監督からも、お膳立てをされていた可能性だって充分あるのだ。
お膳立ての内容は、スタッフによって用意されていた席が隣だった。監督からの指示が、台本に書いてある彼女との距離感よりもかなり近い演技をしろ、との指示があったりなどの出来事だ。
たまに演者全員で飲み会に行った時には、俺ら以外の人達が、お手洗いに行く、ということで席を立ち、二人きりにされたこともある。
飲み会解散後の彼らは、明らかにニヤついた表情で俺を見ていた。
そんな過剰な程お膳立てをされて、俺はやっと気付いたのだ。
その事に気付いた俺は、ある決意をした。
こんなにお膳立てをしてくれたのに、ヘタレのまんま行動しないのはダメだな、と。
それらのお膳立てのお陰なのか、クランクアップした日にはやっと俺は彼女と連絡先を交換した。そうして、俺たちは友達になれた。
しかし、数週間何の誘いも出来ず、彼女とのチャットページを閉じては開いてを繰り返していた。
やっとデート....もとい、遊びの誘いの言葉を送ることが出来たが、最初の方はやんわりと躱されてしまったのだ。
しかし諦め切れなかった俺は、めげずに何度も連絡をした。
そうすると、これまでの断りの連絡はなんだったのかと思うほど、あっさりと承諾の返事がきた。
最初は『一時間だけでもいいので、最近の流行りの服が分からないから教えてくれないか』という文面で誘ってみた。
それはただの口実のつもりだったが、本当に流行遅れだったらしい。その時は彼女に、かなり真面目な顔で指摘された。
曰く、『似合ってはいるが、一昔前っていう印象』らしい。
次に『選んでくれた服が好評だったので、今度の日曜日の11時頃からまた良ければ選んでくれないか』という文面で誘った。
この文章は、服選びとあわよくば一緒にご飯を食べたいな、という考えの元書いた文章だった。流石に時間指定してしまったのは、露の予定を邪魔しちゃうかな、と思っていたが、彼女からはなんと快諾の返事が来たのだった。
服選びは前回の流れに加え、俺のセンスはどうか確認して欲しい、という名目で彼女に服を選んだ。彼女には微妙な顔をされたようだが、あまり気にしない方向にした。
その後、終わりの時間の12時になり、お礼ということでお昼ご飯を奢らせてもらった。
俺は事前に彼女のSNSで好きな物を調べ、イタリアンだと判明していた。そのため、カジュアルなイタリアンレストランを選び、案内した。
席に着いた時、彼女には『服のセンスはともかく、食事処のセンスはいいね』と皮肉られながらも、微笑まれながら囁かれた。
そんなこんなでその後も何度か彼女をデート......違う、遊びに誘った。
遊びの中で、良い雰囲気になったこともあるにはあった。しかし俺は、勇気が出ずに、付き合おうという言葉が言えないでいた。
そんな時、ついにスクープ記者に撮られてしまったのだ。
確かに自分で言うのもなんだが、人気俳優と誰もが認める人気女優が、二人きりでいるところを何度も目撃されているのだ。
それに加えて『昼ドラの王子様』犬飼薫、『薄幸人妻系女優』瀧本露、プラスで地上波ドラマでの共演をしている、となれば噂に信憑性が増してしまい、もう付き合ってるのでは? と疑いがかかるのも当然のことだった。
その時には、既にお互いが別の恋愛ドラマを撮影していたことが原因だと思われることが起こったのだ。
それは彼女と、会うことがほぼ出来なくなってしまったことだ。
俺たちのことを大目に見てくれていたマネージャーからも、ストップがかかった。
彼女とは直接会うことがほぼ出来なくなり、その会う時期もマネージャー監視の元、許された場所でしか会えなかった。
それでも俺は、彼女に失望されないように。その会えない寂しさの気を紛らわすかのように。俺はこれまで以上に、仕事に全力で取り組んだ。
それでも寂しさに耐え切れなくなった俺は、彼女に連絡を取り、何度も人目につかない所でお茶をしよう、という連絡をした。
いつも待ち合わせをする時、彼女は毎回髪型と髪色や、メイク、服装の雰囲気を全てを変えており、バレないように気遣ってる、と言われたとしても過剰な変装のように思えた。
そのことを彼女に聞くと、『住んでるマンションの業界人にもバレないようにしてるから、これぐらいしないとバレるの』と言われ、だから過剰なくらい変装をするのか、と納得してしまった。
その発想を俺も使わせてもらおう、と彼女程ではないが、真似をさせてもらった。
彼女に何回も教わった服の知識を全力で使い、服装の雰囲気と髪のセットを毎回変えたりもした。
そして彼女が髪色やメイクを変えるように、俺は歩き方を変えたり、人に見つかりにくい場所を探索したりした。それは髪色やメイクなどの、自分では変えにくいところの代わりで、俺なりに見つからないよう努力をしていた。
多分、後ろ姿を見るだけでは同じ人に見えないし、そもそも見つからないと思う。
そうした密会や俳優の仕事、彼女とのチャットの時にもう告白してみるかを迷ったりしてなどを繰り返した後、一年程経った頃の出来事だった。
久しぶりの早起きをし、彼女におはようの挨拶をしようと携帯を手に取った時のことだった。
突然インターホンが鳴り、こんな時間に誰だろう、とインターホンのモニターを覗いた。
そこにはマネージャーが、息を切らしながら、本らしき物が沢山入っているのであろうビニール袋を両手に持ち、モニターの前に疲れ切った顔で立っていた。
何事かと思い急いで玄関の扉を開けると、マネージャーは勝手に閉まる扉をわざわざ閉めるほど焦った様子で、真正面から俺に予想だにしなかったことを言い放った。
「薫さん!?なんてことをしてくれたんですか!?」
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