8話 痴女
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第一接触者であるドワーフのドンナスに冒険者ギルドに入会するように勧められている俺。
そんなとこなんかに行ったら絶対に捕まるって断固抗議したら、ならばまずワシが申請を出すって言い出した。
「なあ、家飲みじゃ駄目なのか?」
「ドワーフの家に酒が残っているワケがなかろうぞい」
宵越しの銭はもたないってあれか、お前は江戸っ子かよ。
だけど俺がここにいるって知られたら捕まえにくるやつが多そうだ。
自慢じゃないが俺のおっかけって多いのよ。主に捕獲目的だけどさ。
「店に客じゃないやつが押し寄せるぞ」
「ふん、他のやつにはばれんように、こっそりと申請してやるわい。ワシはギルドに顔が利くんぞい」
「どうしてそんなにまでして俺と飲みたいんだ?」
俺を捕まえるための罠なんじゃないかと思えてくる。
でもさっきドンナスは俺を捕まえたしなあ、いざとなったら〈転移〉で逃げればいいけどドンナスはそれは知らない。俺なんてあっさり捕まえられるって思っているはずだ。
「新たなる発明の喜びを分かち合いたいのぞい! ワシ一人ではここまでの物はできなかった」
「他の誰かも思いついたんじゃないか?」
「その場合はワシが一番最初にこれを作れなかっただろう。開発者というのはドワーフにはえらい尊敬されるんぞい」
この世界に特許はあるかは知らんけど、そんなもんなんだろうか。
あとスマン、ダンマス連中はそれ知ってる。
で、ドンナスは強いけどダンジョン関係者ではないのが確実かな。
「フーマの協力でワシは新たな着眼点を得たんぞい。大きな車輪の一部! そうだ! 全ての基本は車輪!」
「はい?」
「そのことを理解しているお前こそわが友! ドワーフは友のためならば力を惜しまんぞい」
転生して初めての友人ができました?
そう言われると断りづらくなってくるじゃないか。
前世では友達が少なかった俺としてはさ。……あいつら、俺の葬式出てくれたかな?
「俺と友達になってくれるの?」
「おう! フーマこそわが心の友ぞい!」
なんかさらにステップアップしてるんですけど。
いきなり慣れ慣れしいのはうさんくさいけど、ドンナスは最初はそうじゃなかったもんなあ。即落ちのツンデレさん?
「というわけでワシは冒険者ギルドに行ってくるぞい! そこで待っているがよい」
「店はいいのか! 営業時間中だろう?」
「留守番を頼むぞい!」
「えっ、ちょっ、無理だって! ほら、もうお客さんきたみたいだから!」
俺に店番なんて無理でしょうが。客に捕獲されそうになるっての。
だいたい、商品の説明どころか値段だって知らないんだ。
取りあえず誤魔化せそうなので一安心して、来店してきた客に捕まらないように退散しようとしたら、その相手がさ。
「ほう、面白いものがいるな」
「なんぞい、シーナか」
「えっ、知合い?」
やってきたのは痴女、もとい、仮面の女戦士でした。うん、俺の第一発見者のビキニっ子。
彼女は俺の捕獲には参加してなく、あれ以降見なかったのでもうこの街にはいないんじゃないかと思っていたのに。
「ふふ、私はシーナ。ドンナスとは共に冒険した仲ですよ」
「こいつはこう見えて無茶苦茶強いぞい。戦い方も無茶苦茶じゃが」
「わが戦闘術の素晴らしさがわかってもらえないのは残念だよ」
やれやれと肩をすくめるシーナ。無茶苦茶な戦闘術ね。いったいなんのことやら。
「俺はフーマ。シーナがすごいのはよくわかっている。この街で一番に俺を見つけたやつだ」
「ええ、そうでした。よろしくフーマ。私の美的感覚にびんびんきたキミはなかなかに美しいはずです」
むむ?
美的感覚って。
そりゃ俺はイケメンですけど。まさかそのせいで見つかったとでも言うのか。
「やめておけフーマ。相手にすると長いぞい」
「それはドンナスの車輪談義の方でしょう。この車輪バカ」
「ふん。ワシにとってそれは褒め言葉ぞい。いかにもワシは車輪のことに命をかける車輪バカぞい!」
やはり車輪マニアであったか。誇らしげに胸を張るドンナスの後ろに後光が、そう、まるで車輪のような後光が差して見えてしまった。
「いつにもまして力が入ってますね」
「おう。フーマのおかげでワシは車輪道の新たな可能性に開眼したのぞい。その恩にむくいるためにフーマを冒険者ギルドに登録するぞい」
車輪道ときたか。たしかに車輪なら道だろうけど。そして恩まで感じちゃっていると。
重い。ドワーフだけに。
ドンナスの車輪愛を理解してくれるやつがいなかったのかもしれない。それで俺が理解者だと思われたのかな。
こういうのって半端な知識で会話すると「ニワカ」とか言われたり、自分の部屋に土足で入り込まれた気がして嫌だから面倒くさいもんなんだけど、どうしよう。
「冒険者ギルドに小人を?」
「誰かさんが見つけてしまったせいでフーマの安寧が奪われたからのう。冒険者にして狙われぬようにするぞい」
「ふむ。それはすみませんでしたね。ならば私も協力いたしましょう」
シーナまで協力的なの?
どうやって断ればいいんだろう。
「いやちょっと、あの、ね。俺は冒険者になんてなれないと思うんだけど?」
「入会金と初年度の年会費ぐらい払ってやるぞい」
「ギルドってお金取るんだ? じゃなくて、俺……」
ダンジョンマスターでも冒険者ギルドに入っているやつらはいるみたいなんだけど、ほとんどが人類種かそれに化けられるやつばっかなんだよね。
人類種ってのは人間と、人間側の人型種族のこと。人間とも交配できるのが見分けるだいたいのポイントかな。【エルフ】や【ドワーフ】と【ハーフリング】の系統がメジャーな人類種。獣人もだいたいこれに入る。
だけど【ゴブリン】や【オーク】系は違うみたい。
人間だけがこの世界では特別視されているみたいなんだよね。システムからして違って種族ランクがCで表示される。同じRの下のランクでも他種族はNなのにね。
一番繁栄しているのも人間みたい。
「自分がダンジョン出身だと気にしておるのか?」
「な、なんのこと?」
「とぼけんでもええぞい。小妖精など、もはや大陸では絶滅したといわれている。いてもダンジョンにしかおらんぞい。ならばフーマの出自はおのずと知れる」
げげっ、そうだったのか!
だからこの街でも見かけたことがなかったと。そうなると余計に人前に、というか冒険者ギルドになんて行けないでしょ。
「基本的にダンジョンのモンスターはダンジョンから外には滅多に出てこん。だが、中にはそうではないのもおるので大概のダンジョンは外に警備や見張りがついておるぞい」
「フーマのいたダンジョンの名前はわかる?」
ずいっと仮面を近づけて聞いてくるシーナ。俺は揺り椅子の肘掛に座っているので、彼女は前かがみに。当然のようにビキニアーマーの見事な谷間も近づいてきて。
うわわ、ビキニアーマーしてても揺れるのか!
「わからない」
嘘ではない。俺のダンジョン、まだ名前がないのだ。鑑定したって名前は出てこない。
「やはりダンジョン生まれか」
「あっ」
しまった。ビキニっぱいに注目していてうっかり答えてしまった。ちゃんと誤魔化せたつもりがそうではなかったか。
ビキニアーマートラップ恐るべし!
「気にするな。ダンジョン生まれの祖先を持つドワーフも多いぞい。そんなことは冒険者ギルドではさして問題にならんぞい。どちらかといえばどこのダンジョンから出てきたかという方だろうな」
「そう言われても。俺、方向音痴なんだ」
これも嘘ではない。前世ではよく道に迷っていたから〈地図〉スキルのマッピングには非常に助けられている。
ダンジョンの場所は答えていないけどね。
「ふむ。迷子か」
「ふふっ、ダンジョンが死んで解放されたのかしらね?」
どうやら俺がダンジョンマスターとは思われてないらしい。こんな小さなのがダンジョンマスターなわけはないのか。
だからって迷子扱いなのはちょっと。そう誘導したんだけどさ。
「ではワシは登録に行ってくる。フーマ、シーナ、留守番を頼むぞい」
「はいはい、いってらっしゃい」
「だからちょっと待て……行っちゃったか」
あっという間に飛び出してっちゃったよ。転生スターターだと【ドワーフ】は素早さが低い種族だったんだけどなあ。
シーナと二人きりにされてどうすりゃいいんだか。
「ふふっ、気になるかしら?」
まずい。胸に集中していたのに気づかれたか?
「うん。他にはそんなカッコしているやついないけど、恥ずかしくないの?」
「あら、意外とキツイのですね。恥ずかしくなどはありません。私のこの美しい身体を隠すなんてもったいない」
むう、シーナは露出狂であったか。
たしかにボディラインは綺麗だ。小さなビキニアーマーでは隠しきれないほど大きな胸に引き締まったウェスト、そして柔らかさを確かめるために手がのびそうなヒップ。ではあるけれど、だからこそ余計にその仮面が気になってしまう。
「じゃあその仮面は顔に自信がないから?」
「言ってくれますわ。可愛いのに本当にドSですのね。この仮面の素晴らしさがわからないのは残念ですね。むしろフーマこそその不細工な眼鏡を外すべきかと」
「断固拒否する」
仮面の奥の瞳がキュピーンって光って出された要求を即座に断る。
「まあ、そう言わないで。もしフーマがその眼鏡を外してくれるのなら特別に、この私の超絶美しい素顔を披露してもよくってよ」
「別に見たくないから」
「む。美女の顔を見たくないなんて、あなたもしかして男の方が好きなの?」
「なんでそうなるかな。人間の女なんてそういう対象じゃないからどーでもいいってだけだよ」
シーナの仮面は口元が露出しているタイプで、隠されてない唇はぽってりとやや厚め。その形から見てもたぶん美女というのも嘘ではあるまい。
だけどそれがどうした。俺の方が美形なのである! 引き換えにする価値はない。大きさも釣り合わないしね。
「では力づくで……は美しくないわね。ならば」
「先に言っておくが、眼鏡と仮面を賭けた勝負なんてしないぞ」
「互いの仮面を賭けてって、先に断れました!?」
いや、シーナならなんとなく言いそうな気がしたからね。もしかしてエスパーのスキルとか入手しちゃった?
先手を打たれて悔しそうに唇を尖らせる仮面の女。ぽってりぷるんとした唇がちょっとセクシーかと思えてしまったのは気のせいに違いない。
「どうせ小さい妖精は絶滅してしまったのだからちょっとぐらい大きな女性に興味を持つのも必要ですよ。じゃないとずっと独り身になるかと。……まあ、もし素顔が美しくてもそのドSではモテはしませんか」
「なにその説得。そんなに悔しかったのか」
「ふーんだ、どうせ友達もいなかったのでしょう」
前世でも少なかったけど友達ならいたっつの!
今は転生したばかりでドンナスしかいないけど、やつは心友だぞ。
いや待て。
ぼっちだと馬鹿にされるのが嫌でついこんなことを言ってしまった。
「俺が一人きりだと思うのはお前たちの勝手だが」
「まだ他に小さくて可愛い子がいるとでも?」
「さあな?」
強がりではない。
ダンジョンモンスターとしてDPで購入してもいいし、いざとなったら俺のとっときのスキルがある!
◇ ◇
ドンナスが特例で俺の登録をしてきたけど、しばらくは周知されるのに時間がかかるということで酒場には行かなかった。
かわりに酒を買ってきていてドンナスの店で祝杯。料理はシーナが用意してくれたよ。
みそ味のスープとパンとなんかの肉のハム。美味かった。
食器はドンナスが木でささっと作ってくれた。その小さいコップに酒を注ぐのは難しいと思うのに零さないドワーフはさすがである。
やはり食事の時もシーナは仮面をつけたままだったけどね。
Tips
とっときの = とっておきの




