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7話 ゆらゆら

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 エア人間相手は普通にできるようになった気がするので、難易度を上げるために鏡を前にやってみたんだが、大失敗だった。

 ぐるぐる眼鏡つけててもつい見とれちゃって無駄に時間ばっかり過ぎるんだよ。駄目だね、俺。最近〈鑑定〉するとナルシストって称号ついてるしさ。


 だから鏡は諦めて人形相手にやることにした。前世から持ってきたフィギュアたちだ。

 これは元々俺の〈ガラテア〉スキルで本物にしようと持ち込んだんだけど、まだ本物にしていないんだよね。

 だって練習でこんなに苦戦するコミュ症予備群に片足つっこんだような俺が、一緒に暮らす相手ができるなんてまだ早いでしょ! って。


 アイテムボックスから出したフィギュアたちを立たせてみる。

 うわ、俺とほぼ同サイズの美少女フィギュアが並ぶと壮観だなあ。前世とは全く違うこれは威圧感すら覚えるよ。

 マネキンたちに囲まれているようなちょっとした恐怖? あれよりも表情がある子が多いからそうでもないか。


 うんうん。持ってくる子も厳選しただけあってみんな美少女ばかりだ。自分と同サイズになっても十分に鑑賞にたえられるのは原型師さんの腕によるものだろう。

 ちょっと露出過多な子もいるけどね。キャストオフしたくなる誘惑にかられるけど、他のフィギュアに見られてるような気がするので諦める。


 っと、フィギュアハーレムに圧倒されてる場合じゃなかった。練習しなきゃ。


「お、俺はフーま……」


 動かないけど自分とそういう対象になれる女の子、しかも美少女を前にするとなんでこれほどまでにド緊張してしまうのだろうか?

 こんなことなら、むさいおっさんのフィギュアも買っておけばよかった!


 だけどこれを克服できればでっかい人間との会話なんて余裕だろう。

 俺はがんばるぜ。

 そしていずれはこの美少女たちを本物にして……いかん、余計に緊張してきてしまう。平常心、平常心。

 明鏡止水の心をマスターせねば他者との会話なんてできん!


 あれ、なんか自分でハードル上げているような?



 ◇ ◇



 さて、特訓明けの俺である。

 特訓の甲斐あって街人との初接触を果たしたわけだ。

 その相手とは【ドワーフ】だ。前世では髭面の厳つい顔のおっさんのイメージある種族なのだが、よく観察しているうちに気づいた。この世界のドワーフは違う、と。

 髭面の下は童顔だったりするのだ。


 元々スターターのクチコミでは合法ロリと言われてた種族だけに女性は幼い外見のまま長い間を過ごすのだが、それは女性だけではなかったようだ。男性も髭は生えるけど子供みたいな感じなのである。声は渋いやつが多いんだけどね。


 そんな髭ショタ相手ならば緊張はしない。

 いや、気づく前は緊張しまくったんだけどね。



 ▽ ▽ ▽


 その日、俺は緊張しながらもファーストコンタクトを行う相手を探していた。

 もちろん〈隠形〉を使ってこっそりと、できるだけ怖くなさそうな相手をね。

 で、ある工房に寄ったんだ。

 工房といっても店の中にある作業場みたいなとこなんだけどさ。そこのドワーフのおっさんの仕事につい見入っちゃってね。家具を扱う店なのかドワーフは椅子を作っていた。


 椅子、というか車椅子のように普通のアームチェアに車輪をつけているんだけどなんかおかしい。車椅子には不要な筈の車軸を椅子の下に通してるんだ。

 車軸で左右の車輪が繋がっていると直進性はよくなるけど、逆に小回りが利き難くなるから車椅子には向かない。

 なのにドワーフはときおり自分で座り、「うむ」とか「むう」って渋い声を発していた。そしてしまいには車軸を回転しないように固定して「これじゃ!」って叫んだんだよ。


「ああ、なるほど」


 車軸が固定されて車輪が回転しなくなった椅子を揺らしてはしゃぐドワーフに、やっと目的がわかって俺はつい声をあげちゃったんだ。ドワーフは揺り椅子(ロッキングチェア)を作ろうとしていたんだなって。


 そしたらさ、ドワーフが揺らしていた椅子がピタぁっと止まって、くっちを鋭い眼光が睨んでいるんだ。


「誰じゃ!」


 げっ、〈隠形〉使ったままなのに気づかれた! もしかしてこのドワーフって高レベルの冒険者?

 そんな感じで焦った俺。逃げるかどうするか迷ったんだけど、ついドワーフに椅子について言おうとして〈隠形〉スキルをオフにして名乗りを上げちゃった。


「お、俺はフーマ!」


「なんぞい、最近街で噂の小妖精か」


 名乗るとドワーフは興味を失ったのか視線を戻し、また椅子を揺らし始めた。

 えっ、と拍子抜けの俺。あんたが言ったとおり、巷で大人気の妖精ですよ。もっとこう、なんかないの?

 変なプライドを刺激されてしまった俺。


「俺が名乗ったんだからあんたも名乗れよ」


「ふん。ここは“ドンナスの店”ぞい。ならばワシはドンナスに決まっている」


「捻りもなんにもない店名だな」


 思ったことがぽろっと口から出てしまった。

 いかんな。一人が長かったから独り言の癖が直っていない。


「ふん、作品以外はシンプルは一番ぞい!」


「ああ、だからその椅子はそんなに無駄が多いのか」


 怒鳴られたのにビビってつい挑発気味に返しちゃったよ。

 なのにドワーフはふふんとドヤ顔でさ。


「ふん、その小さな目では見えぬだろうよ、この椅子の素晴らしさを。普通の椅子にワシ自慢の車輪をつけることで楽しく揺れるこの素晴らしき発明を!」


「楽しいの?」


「うむ。この滑らかな揺れ具合。さすがはワシの車輪ぞい!」


 ガハハハと大きな口を開けて笑い出した。

 二度も車輪を自慢するということはよほど自信があるのだろう。たしかに椅子に付けられた木製の車輪はよくできているように見える。

 だけどさ。


「でもそれって車輪の必要ないじゃん」


「な、なんじゃと!」


 げげっ、椅子から飛び上がって鈍重そうな見かけに似合わない猛ダッシュで俺を捕まえるドンナス。油断した俺はあっさりとその大きな手に捕獲されてしまった。

 マジでこいつ、強い!


「痛いって! 説明するから離してくれ」


「う、うむ」


 あっさりと手を開くドンナス。

 よかった、やはり俺のことにはあまり興味はないようだ。

 だけど椅子のことに関係するせいか、その目はさっき以上に俺を睨んでいて鼻息も荒い。


「椅子がゆらゆらするためには下が車輪である必要はない。曲がった板を椅子の下に付けるのでも十分だろ?」


 こーんな感じの、と手で湾曲を表現して説明すると、ドンナスはくわっと目を大きく見開く。


「い、言われてみればたしかに……車椅子を作っていた時にふと閃いたワシの直感が外れるとは」


 あ、車椅子はあるのね。

 車椅子から揺り椅子を着想するのはすごいと思うよ。

 ドンナスはさっきまで輝いていた瞳を曇らせブツブツと呟きながら、それでも作業を開始する。

 さすがドワーフというべき見事な手際ですぐに試作の板を作り上げた。


「ふん。こういうことか?」


「うーん。もっと曲がり方は緩い方がいいかも。ええと、もっともっと大きな車輪の一部って感じの方が揺れ方がいいんじゃない?」


「む? 試してみるか」


 車輪という言葉が効いたのか、ドンナスは素直に改善案に従ってくれた。それでも先に作った方もちゃんと試していたけどね。


 △ △ △



 いくつかの足板を作りそれぞれ試したドンナスと俺。ドンナスってばささっと小人サイズの揺り椅子まで作ってくれたんだ。わずかな時間で作ったにしては彫刻まで入っているコダワリはやはり職人なんだろう。


「これいいな」


「おう。お前さんの意見も悪くなかったぞい」


 二人でゆらゆらと揺れながらのんびり会話する。

 むう、なんだか眠くなってきそうだ。

 ダンジョンマスターは寝ないでもいいんだけど、今の俺ってばダンジョンコアから隔離されているから普通に食事や睡眠が必要なんだよね。


 ゆ~らゆ~ら。

 ああ、これいいなぁ。


「それにしても、ドンナスなかなかやるじゃん」


「ふん。ワシの腕ならば当然ぞい」


「いやそうじゃなくて、さっき俺を捕まえただろ。俺、今まで捕まったことなんてなかったのに。猫にも人間にもさ」


 転生してから短いけど、わりと狙われてるんだよね。最近じゃ冒険者っぽいのもいるよ。


「ふん、おまえさん捕獲用の網は儲けさせてもらったぞい」


「あの虫取り網はあんたの作品だったのか」


 家具屋かと思ったらそんなものまで取り扱っているのか。長い柄の先についた大きな網は目も細かくて虫取りにはよさそうな品だった。

 のんびり休んでいるところにそぉっと近づいてくるあの網のせいで最近はずっと〈隠形〉スキルを使ってばかりだ。


「だがここにいるということは役には立たなかったと。残念だのう、作り手としてはちょっと悔しいぞい」


「網はよかったけど、使うやつが慣れてなかったからな」


「ふん、気を使わんでもいいぞい。小妖精用にもう一捻りか、いや三つぐらいは工夫するポイントがあっただろうて」


 俺を捕まえるのにそんな改善点があるかなあ?

 美少女フィギュアを餌にすればホイホイかかりそうな気もするけど。

 ……ん? 今の俺のサイズだとさ、フィギュアだとわかっていて俺がほしがったのに、そうじゃないって誤解されそうだな。注意せねば。


「網に強いお酒を染み込ませて、においで酔っ払わせるとか?」


「そんなことに酒を使うドワーフなどおらんぞい!」


 やっぱりドワーフは酒好きなのね。

 俺もお酒は大好きだ。前世からも持ち込んでいるけど、数に限りがあるから補充できるようにならないとそれを飲む気にならんのよ。


「ふむ、フーマはいける口か?」


「わかんない。お酒は好きだけど俺ちっちゃいから少ししか飲めないからなあ」


「おう、それは羨ましいかもしれん。よし、酒場にでもいくぞい」


 おおう、願ってもないお誘い。

 だがそれは嬉しいんだけど飲めない注文でもある。酒だけにね。


「ありがとうドンナス。とても嬉しいのだが悪いけど無理だ。俺がそんなとこにいったら捕まえようとするやつのせいで落ち着いて飲めないだろ」


「そんなやつはワシがノシてやるわ」


 ガハハと豪快に笑われてもねえ。たしかにドンナス強そうだけどさあ。

 酒場なんてゴツいやつがうじゃうじゃいそうなイメージなのだ。酒飲みたくなるんで、そういう店はまだ覗いてないんで実際はどうだかわからんけどさ。


「酒場に迷惑がかかるだろ」


「むう。たしかにあそこの店はそういうのにうるさいぞい。出禁はくらいたくないのう」


 んーと唸りながら目を瞑って顎髭を手で梳き始めるドンナス。

 というかまだ店は営業中じゃないのか?


「わかったぞい!」


 くるくると髭を指に絡めたままのドンナスが急に叫ぶ。

 家飲みにしようってのかな。ドワーフなら酒ぐらい貯蔵してそうだ。


「フーマ、お前さん冒険者になれ!」


「はい?」


「冒険者として身元がはっきりしているやつを襲えば、そいつは犯罪者ということになるぞい」


 異世界転生したら冒険者登録ってのは考えないでもなかった。でも、冒険者ギルドなんて酒場以上に危険な場所だからそれっぽい建物には近づきすらしないほどに避けているんだけど!


「いや、冒険者同士の諍いだってけっこうあるんでしょ。その場合はどうなるのさ?」


「ワシが保証人になるぞい。文句を言うやつはブッ飛ばしてやるわ!」


 どうしよう。逆らえない雰囲気なんですが。

 やはりファースコンタクトは幼女にしておくんだったかね……。





Tips

 ▽ ▽ ▽

 回想シーン

 △ △ △



プロローグ辺りの話

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