15話 居候オバケのように
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「久しぶりに使ったからミスっちゃったよ」
トロールの頭に埋まり、脱出しようともぞもぞもがきながらのコルノ。
毛に埋まるなんてもふもふ好きならば喜びそうなシチュエーション……でもないようだ。
「臭いよぅ」
「うむ。トロールの毛皮を使い物にするには洗い方にコツがあるんぞい」
「クリーン! ……効かない?」
もがきながらもコルノがなにかして、トロールを魔法陣が通過していったが特に変化はないようだった。
「コルノ嬢はそんな魔法も使えるのですね。でもなんで効かないのでしょう?」
「トロールは臭いのが当たり前、それが清潔な状態なんぞい。つまりそいつはまだ生きている。気絶しているだけなのぞい」
解説しながら再び車輪斧を回転させ、コルノが埋まっている以外のトロールの頭を潰していくドンナス。
「なるほど。今のそれがトロールにとっては清潔な状態なのですね」
「鈍ったなぁ。ボクが仕留めそこなうなんて」
「トロールを三匹も瞬時に気絶させただけでもたいしたもんぞい」
落ち込んでしまったのか、コルノはもぞもぞを止めてしまう。まあ、抜け出すのにさらに絡まっていたようではあったが。
だが、トロールが生きているというならば早くそこから助け出さなければなるまい。このままトロールが気絶から回復してコルノ付きで暴れられたら面倒だ。
「待ってろ、今助けるから。うわ、なんかスゴイ絡まってんな、これ」
「切っちゃった方が早そうですね。ドンナス」
「うむ。しかし嬢ちゃんを傷つけずに毛だけを切るのはワシの車輪斧では難しいぞい」
「ううむ。仕方ない、二人にならば見せてもいいか」
背中に背負っていたバッグを降ろし、そこから取り出すように誤魔化しながらコルノから預かっていた剣をアイテムボックスから出す。
アイテムボックスを持っているのは知られたくないし。だってこのスキルはダンジョンマスターの標準装備っぽい。ダンマス以外でも持ってるやつはいるだろうけどDP価格を考えるとそんなに多くはいないだろう。
「ほう、それはアイテムバッグであったか」
「小さいけれど見事な剣ですね。バッグもそれもダンジョン産ですか?」
「うん。コルノ、動くなよ」
「え、ちょっとフーマ、それって」
鞘まで黄金色なコルノの剣、黄金の剣を抜いた。フィギュアの時もそうだったけど刀身も黄金で綺麗だ。それに反射して映る俺の顔も美しい。
って、魅入っている場合じゃなかった。ふぅ、眼鏡をしてなければやばかったぜ。
コルノを傷つけないように気をつけながら彼女に絡まっているトロールの頭髪を斬っていく。
「ええ?」
「危ないから動かないでくれってば。うわ、さすがによく切れるなこれ」
これが本当に高級な毛皮になるのかと思えるほどの剛毛もスパスパと切れてコルノの解放に成功、彼女を連れてすぐにトロールから離れる。
「え、えええ?」
「おお、お姫さま抱っことはフーマもやりますね」
あ、ホントだ。慌てるあまり、姫抱きしてしまっていた。コルノもそれに気づいたのか鞘にしまった黄金の剣を抱きしめながら真っ赤になっていた。
「フ、フーマ!」
「す、すまん、急いでいたから」
「そうじゃなくて! ええと……ちょっと来て!」
地面に下ろしたコルノが俺の腕を取って、そのまま飛んでいく。高く高く上空へと。
うわわ、俺、飛んでる。
「トロールのトドメ、お願い。ボク、フーマと話があるから!」
「おお、まかせるぞい」
「青春ですねー」
むう、なんか勘違いされてしまった?
それとも勘違いじゃない?
いかん、俺の腕を握るコルノの手の柔らかさにドキドキしてきてしまう。
しかし落ち着こうにもこの手が離れれば俺は落ちてしまう。ここは落ちないようにコルノに抱きついてもいいかもしれん。むむむむ、悩むところだ。
◇
コルノはどこまで飛ぶんだろ。もうかなりの高度だ。ドンナスとシーナの姿も見えなくなってしまった。ダンジョンなのに天井に届く様子もないしフィールドダンジョンってすごいなあ。
「この辺ならいいかな?」
「いったいなんなんだ? 二人に聞かせたくない話か?」
「そうだよ! フーマ、自分のステータスを確認して!」
ステータス?
え、告白じゃないの?
……そりゃそうか。会ってまだ少ししかたってないのだし、いくら今の俺が超美形でもそんなはずもないか。
「ステータスはとくに異常もなさそうだけど」
「フーマは黄金の剣を抜いちゃったんだよ!」
「ごめん、勝手に使っちゃって。もしかして呪われたりするの、その剣?」
この剣はコルノの兄の形見であり、そして兄自身でもあるらしいから、呪われるってのはあるかもしれない。コルノも呪われていたりする。
でも状態異常にもなってないような。
「呪われてはいない、かな? 呪い関係もマイナススキルもないよ」
「そうじゃなくて、黄金の剣を抜けるのは魔王だけなんだよ!」
「はい?」
そんなどこぞの選定の剣みたいな機能あったの、それ?
しかも石じゃなくて鞘から抜くだけで魔王って。
「ボクもこれを抜いて魔王になったんだから!」
「そんな設定があったのか」
「黄金の剣にはクリュサオルの意思がいるんだ。つまり、お兄ちゃんが魔王だって認めたってこと。時々声も聞こえるんだよ!」
「インテリジェンスアイテムだったのか」
ゲームのラスボス、魔王クリュサオルは妹のコルノを可愛がっていたから俺が声を聞こえたら「妹に近づくな」って怒られてしまうかもしれない。
でも抜けたなら認めてくれたみたいだからそれはないかな。それともコルノを助けるためだから力を貸してくれた?
で、ステータスをもう一度確認してみる。あ。
「あった。称号に魔王が。スキルにも」
「やっぱり!」
ダンジョンマスターなだけでも勇者に狙われるのに魔王になんかなったら襲撃される確率がさらに上がるじゃないか!
「ズルイなあ。ボクなんて小魔王なのに」
「コルノのは種族名だから。スキルの方はちゃんと魔王だろ」
コルノも〈魔王〉スキル持ちだった。俺が魔王じゃなくても同じだったの、今頃気づいたぜ。
俺の種族も確認し直したけど【スクナ】のままだったのは、よかったのか残念なのかはわからない。
「剣を抜くだけでスキルが手に入ったのは嬉しいけど偽装しておくべきだよな。コルノ、教えてくれてありがとう」
「えへへ。ボクのもぎそーしてたからね。気づいてよかったよ」
本当にすぐに気づいてよかった。ドンナスとシーナ、それに捜してる相手に知られたら面倒だもんな。〈鑑定妨害〉スキルでささっとやばそうなのを消しておく。
ううむ、それにしても魔王か。早く鏡で顔も確認したい。くっきり大きなクマができたりしてやしないだろうな? それはそれでワイルドな美形になって悪くもないけどさ。
「よし、偽装完了。それじゃそろそろ戻るか。あまり遅くなると誤解がさらに面倒になりそうだ」
「ん、ゴカイ?」
「たぶんコルノが俺に告るとか、そういうの」
「えええええっ!? ボクがフーマにこ、告白!?」
あまりのショックだったのかわたわたと両手を振って動揺するコルノ。剣は持ったままだが、俺の腕は放してしまって。
つまり、俺は落下していくことになる。
だが焦らない。もしコルノが手を放したらって、ここに昇ってくるまでずっと考えていたから対策はすでにある。
俺が落下中なのも気づかないくらい慌てているコルノのすぐそばに〈転移〉して抱きつく。これは、落ちないためなので不可抗力である。
「ふ、フーマ?」
「あー、落ちないためだから、決してやましい気持ちなどないからな」
「え、あ! ご、ゴメン!」
ふう。わかってくれてなによりだ。
それにしてもこうして密着するとコルノからいい香りがする。トロールの臭いが移ってなくてなによりすぎる。
「魔王なのにフーマなんで飛べないんだろ? そうだ、ボクに乗って飛べばいいんだ!」
「それはちょっと」
コルノに跨がって飛ぶ自分がイメージされてしまった。俺も飛びたいがそれは勘弁してほしい。
あと女の子に乗るってのはいろいろとマズイよね。
Tips
アイテムバッグは見た目以上の大きな収納力を持つマジックアイテム
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