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12話 隠し油田

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 強面ギルド長ジャックの話によれば、冒険者ギルドは職に就けない者たちへの救済の面もあるらしい。

 こっちの世界は俺の前世と違って、親の仕事を受け継ぐのが当たり前。そのくせ兄弟姉妹も多いので全員が定職につくのは難しい。


 無職のやつらが犯罪者になるぐらいならば冒険者になってもらうというワケだ。多くの国もそのことがわかっているので冒険者ギルドには協力的とのこと。


「夢と冒険を求めて、って感じじゃないんだ?」


「一攫千金を狙ってダンジョンに行くやつも多いぞい」


「戦いまくって上位種族を目指す者もいますよ」


 そうだった。経験を積んでレベルアップを続けるとこの世界の種族の多くは進化して上位の種族になれるのだ。

 もっとも、俺やコルノのように珍しい種族は強いかわりに進化ができないようなのだが。


「人間も進化できるの?」


「はい。人間(ヒューマン)は進化するとハイヒューマンになるそうですよ。けれど、条件はかなり厳しいそうです」


 眼鏡の受付嬢が教えてくれた。まだいたのね。

 ギルド長に寄り添うように彼の座った椅子のすぐ後ろに立っていたんだけど、ギルド長が大きくて隠れてしまい、気づかなかったよ。

 これって、秘書かメイドっぽい立ち位置目指してるのかも?


「人間からハイヒューマンになれるかは怪しいぞい。実際にハイヒューマンになったやつなどいないとドワーフたちはわかっておる」


「でもここの王家にはハイヒューマンがいるじゃないですか」


「ありゃ隠し油田ってやつぞい」


 隠し油田?

 ああ、隔世遺伝のことかな。そんなことまで知ってるんだ。俺みたいに異世界出身のやつが教えたのかね。

 王家にいるっていうハイヒューマンってどんなやつなんだろう。こっそりと見に行ってみたくなる。


「ま、どっちにしろフーマたちには関係ないだろ。むしろ瘴気進化の方が必要な知識だ」


「瘴気進化ってモンスターになっちゃうやつ?」


「そうだ。瘴気を身体に溜めすぎるとモンスターになる。子供でも知ってることだ。小さいやつほど許容量も小さくてすぐにモンスターになっちまう。お前たち小人が絶滅したのも瘴気のせいだっていう学者も多いんだ」


 弱い種族だってクチコミにあったけど絶滅するほどだったのにはマイッタね。

 小人たちは瘴気進化してみんな小さいモンスターになっちゃったのかぁ。

 仲間は俺のスキルで増やすしかなさそうだ。


「冒険者は他のやつらよりも瘴気を多く浴びる。だからその対策をしっかりと知っておかなければならない」


「新人冒険者は必ず講習会に出てくださいね。既に冒険者になっている方も年に一度は講習会に出ることが義務になっています。特別な理由もなしにサボると登録がなくなりますから注意して下さい」


 そこらへんも車の免許と同じなのね。ペーパーゴールドだった俺はほとんどいかなかったけどさ。


「じゃ今日は講習会に出ろってこと? コルノをギルドに登録してもらうためのお金を稼ぎたかったんだけど」


「そのことだがな、わざわざここに呼んだのには理由があってな」


「やっぱり小人は冒険者ギルドには登録できないって言うの?」


 だとしたらすぐに逃げだそう。見えない場所に隠れて〈転移〉すればいい。〈転移〉スキルは相手が抵抗(レジスト)しなければ一緒に転移できる。その分MPも消費するけど、コルノも小さいのでたいした量ではない。


「ちっげぇよ。それならすぐに断って、こんな話はしねえ。めんどくせえからな」


「登録時の説明だけならばギルド長がなさることはありません」


 それもそうか。いくら絶滅したはずの小人がギルドに入るからってわざわざトップが会うこともあるまい。


「依頼がある。本来ならば説明したように新人には講習の義務があるんだが、そいつは後でやってくれりゃいい。ちっこい嬢ちゃんもすぐに登録するから、依頼を受けてくんねえか?」


「フーマたちを指名ですか? いったいどんな依頼なのか興味がありますね」


 仮面の奥の瞳を輝かせるシーナ。

 こいつは職にあぶれて冒険者になったのではないタイプだろう。間違いなく。


「シーナとドンナスにも受けてもらえると助かる」


「ワシもか?」


「ああ、緊急事態だ。ダンジョンに行って戻ってこないやつを連れ戻してくれ」


 未帰還者の救助なのか。だけど、連れ戻すっていうのも少し引っかかる。

 それに俺たちを向かわせたいみたいだけど理由もわからない。まさかうちみたいな小人じゃなければ入れないような小さいダンジョン?


「ワシ向けの依頼ではないようだが?」


「手空きなのが脳筋しか残ってねえ。やつらじゃ対応ができねえだろ。お前たちだけが頼りなんだよ」


「ええと、ダンジョンに未帰還の人を救助に行くんだよね?」


 ドンナスは脳筋じゃない扱いなのね。俺を捕まえたぐらいだから腕は確かなのはわかっているんだけどさ。


「……そうだ」


「救助というより、連れて戻ってくる方が重要なのですね。まさかモンスター化を望んでダンジョンにこもっている方でもなさそうです」


 中には自棄をおこしてそんなことをする馬鹿者がたまに出るらしい。高レベルの冒険者がモンスター化すると厄介なのだそうだ。

 だから講習会でダンジョンから戻ったら必ず身体に溜まった瘴気を減らすようにと教えていて、冒険者ギルド側でも瘴気の溜まっていそうな冒険者には注意をする。


「となると、連れ戻す相手はただの冒険者ではありませんね」


「ああ。王族だ」


「あのバカ王子め」


 大きなため息と同時にドンナスが吐きすてるように呟いた。

 バカ王子?

 城には行ったけど王子なんて見なかった気がする。まあ、夜だったんで偉そうなやつはまだ見てないだけなんだが。


「いや、そっちじゃない。ほら、さっき説明したろ、ハイヒューマンの方だ」


「王姉アリシア様ですか。なるほど、たしかにフーマたちの出番でしょう。彼女は可愛いものに目がない」


「つうかだな、アリシア殿下がダンジョンに行かれたのもフーマたちのせいとも言えなくもなくてな」


 え、俺のせいなの?

 王姉って王様の姉ってことだろ。そんなオバさん見てないはず。貴族っぽい女性のスカートの中が見えそうになったことはあったけど、若い女ばかりだ。


「アリシア殿下は街で噂の小人にたいそう興味を惹かれ、その小人はダンジョンの産まれだと考えてダンジョンへと向かったのです。反対する護衛たちを撒いて」


「ふむ。さすがアリシア殿下ですね。心配なさらなくてもひょっこり戻ってくるでしょう」


「いや、感心すんなよ。城は大騒ぎなんだぞ。あの方に限って不覚を取ることはねえと思うが国民にもファンは多いんだ。なにかあったら国が揺れるっての!」


 そんな大物なのか。どうせダンジョンへ行くなら護衛と一緒に行ってくれりゃいいのに。


「アリシア殿下はハイヒューマンです。人間を超えた種ですが、それゆえに人間種贔屓(びいき)の教会に疎まれています。教会で瘴気を落とすことをあまりなされていません。ハイヒューマンは人間よりも瘴気に耐性がありますので普段ならそれでもよいのですが、瘴気の濃いダンジョンにおられますと万が一があるのです」


 眼鏡受付嬢が問題点を教えてくれた。

 教会は瘴気を浄化してくれるけど、人間種優先で他の種族はあまり相手にしてくれないようだ。

 だから街で見かけるのも人間が多かったのかな。


「向かったダンジョンはどっちぞい?」


「どっちって?」


「人間にはあまり知られてないが、つうか正確には教会が隠しているが、ダンジョンは大きく分けて二種類ある。瘴気を出す方と、瘴気を吸収する方だ」


 あれ、ダンジョンマスターのダンジョンと、邪神のダンジョンってちゃんと区別されてんの?

 インストールされる基礎知識もちゃんとアップデートしといてほしいぞ。


「ドワーフならば常識ぞい。瘴気を喰うダンジョンと共生するドワーフも多い」


「教会は瘴気を浄化することで勢力をのばしていますから、瘴気を吸収する商売敵なんて認めたくないのでしょう」


 そんな理由なのか。昔、ダンジョンマスターと十二柱の強い神たちが戦ったこととはあまり関係ないのかな。

 だってその十二柱は()んだそうだし。


「アリシア殿下が向かわれたのは“じゅくじゅくの瘡蓋(かさぶた)”。瘴気を出すダンジョンだ」


「やな名前のダンジョンだね。小人なんていそうにない名前じゃない?」


「だからフーマ、コルノ、お前さんたちでアリシア殿下を説得して連れて戻ってくれ。ちっこい二人だけだと心許ないからドンナスとシーナも頼む」


 どうやら断れないっぽい依頼だな。

 初仕事がこんなのでいいんだろうか。ゴブリン退治なんかよりも大事(おおごと)なんですが。





Tips

 第一王子セドリックはバカ王子として親しまれています。



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