10話 形見
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さて、誰を〈ガラテア〉するかだが、ここはさっきのフィギュアを修復できるキャラを選ぶか?
でもそうすると、コルノが壊したことを気にしそうだしなあ。
そうなるとやはり好きなキャラとなるワケだがこれも悩む。だって本物にしてしまうと、そのフィギュアが無くなってしまうことになるのだから!
わざわざ前世から持ち込んだ大事なフィギュアだ。できれば簡単には失いたくない。
むう。コルノのようにバージョン違いを俺が持っている子にしようか?
それとも……うーん、悩む。
たしか〈ガラテア〉スキルはMP以外も消耗するから一人しかできないだろうなあ。
ステータスウィンドウを開いてスキルの詳細を確認すると、あれ?
「ガラテアがすぐに使えない。クーリングタイム? 『次に使用可能になるまであと100日』って表示されてるけど長いな」
「え、そうなの? ってガラテアってアフロディーテの関係者?」
「え、なんでアフロディーテ?」
聞いたらガラテアってのは女神アフロディーテが像を人間した女性の名前なんだと。むう、知らんかった。人物名をスキル名にせんでくれ。
「もしかして怒ってる?」
「なんで?」
「だってさ、アフロディーテって君のお兄さんの仇の仲間だろ」
アフロディーテがグレートマキア2のメインヒロイン()だったもんなあ。愛と美の女神のはずなのに戦闘力も高かったっけ。
気が多いから、人気はコルノの方が高かったけどね。
「え、そうなの?」
「ん? ああ、アフロはクリュサオルとは戦わなかったんだっけ。好みのイケメンだからって」
グレートマキアシリーズは美形キャラが多いことでも知られ、女性ファンも多い。
ラスボスである魔王クリュサオルも当然美形でしかも露出過多。ヘソ出し魔王としてファンから親しまれている。魔王コルノの衣装もそれを引き継いだもので「魔王だからヘソ見せ!」とラフ画の横にコメントされていた。
「ふふふっ、口ではそんなことを言っているけどね、アフロディーテはお母さんと仲がよかったんだ。だからボクやお兄ちゃんには同情的なんだよ」
「リメイクで追加されたイベントにそんなのもあったな」
「だからフーマのその力も嫌いじゃないよ」
よかった、アフロディーテ由来のスキルで。これがアテナ由来だったら嫌われていただろうな。
グレートマキア2ではアフロディーテとアテナは仲がすごい悪くて、どちらか片方しか仲間にできないんだけど、リメイク版のコルノ仲間ルートではアフロが仲間にいないとそっちに進むことができない。
だってアテナはメデューサの仇と言ってもいいからさ。
あ、もしかして俺が美形なのもアフロディーテ由来なのかも。前世でも愛と美の女神って有名なヴィーナスのことだろ。
美だけじゃなくて愛もあるんだろうか。コルノを見るだけでちょっと期待せずにはいられない自分がこじらせているのを実感する。
「信じてくれるんだ?」
「ボクが人形だったってこと? どっちでもいいんだ、ボクがボクであることに変わりはないから」
「そんなもん? なら眷属になったのも納得してくれるんだね?」
「うん。だって拒絶できないみたいだよ。それに魔王になったばかりでなにしていいかもよくわからなかったから、ちょーどいーかなって」
そんな設定だったんだ。ラフ画でしかなかったフィギュアオンリーの子ならばそうなのかもしれないか。
「ならば眷属、よろしくお願いする」
「よろしくね!」
差し出した手を握って握手してくれる魔王。
美少女と手を握ってしまった! うわわ、やーらかい!
し、しかし俺はシティボーイ。この程度のことで動揺するわけにはいかないのだ。
「どうしたのフーマ、顔赤いよ。熱があるのかな?」
短い髪を片手でかき上げたコルノの可愛い顔が急接近して、俺の額と彼女の額がふれる。
近い、近いってば! 俺の心臓が高速回転してしまうじゃないか。
「んー、熱はないかな」
「だ、だいじょうぶだ、問題ない。そ、それよりもコルノは飛べるのか?」
身長差がある俺と額を合わせるためにか、コルノはふよふよと浮いていた。
ゲームだと飛行可能じゃなかったような?
「そりゃ飛べるよ、魔王だもん」
「魔王スゲエ」
俺はまだ飛べない。飛行系のスキルはちょっと高くてね。なんとかDPを使わないで覚える方法を模索中。
ほら、俺ってば種族ランクGRで覚えるのも早いみたいだからさ。
「クリュサオルができたことはだいたいできるよー」
「マジか。じゃあ、あの切り払いもか!」
ゲームのラスボスであり、コルノの兄でもある魔王クリュサオル。黄金の剣を持てる者って意味の名前な彼は、ちゃんと黄金の剣を装備している。
その剣で一定確率で物理どころか魔法攻撃でさえ切り払う、鉄壁の防御を誇る面倒な敵だった。
魔王コルノはその黄金の剣を兄の形見として受け継いでいて、フィギュアにも付属している。金メッキされていて指紋がつかないように注意が必要な剣だ。
そう、さっき神コルノフィギュアを真っ二つにした剣! あれを見ると魔王コルノの剣技もなかなかだと思える。
「あそこまではどうだろ? それにボク、ちっちゃくなってるんでしょ」
「そうだった。とりあえず、ステータスを確認してみよう。なにができるか把握しておきたい」
「ええと、こうかな? あ、出た出た。ふーん、ボクの種族は【小魔王】なんだって」
「魔王って種族なのか? しかも大魔王ならともかく小魔王って……」
『名前:コルノ 種族:小魔王 性別:女 LV:1 クラス:フーマの眷属』
魔王はクラスじゃないのね。クラスは『フーマの眷属』か、なるほど。このステータスのカテゴリーは誰が決めてるのだろう。
「あ、種族ランクはLRだって」
「やっぱ強いんだ」
「レベルは1だけどね」
種族ランクLRも俺のGRと同じく強いユニーク種族だったはず。俺が強いかどうかはともかくとして、スキルレベルは上がりやすいし、きっとコルノもそうなのだろう。
レベルが低いのはガラテアの仕様かもしれない。
自分のレベルが表示されているだろう箇所をコルノが指差しているけど、自分以外が開いているウィンドウは見れないようで、ちょっとマヌケだ。
でも可愛らしい動作に見えるのは美少女だからだろう。美形は得である。
今の俺も美形だからマヌケなことをしても様になるかも!
◇
ステータス確認後、やはり小さいとはいえ魔王は大騒ぎになりそうでマズイということで偽装することにする。
「可愛い種族にしてね!」
「って言われても妖精はたいがい可愛いんじゃないか。そうだな、珊瑚の妖精ってしておこう」
「うん。それでいーよー」
やっと外に出れるとあってかテンションが上がってきたな。ゲームでも仲間になるとこんな感じだった。
あ、装備品もなんとかしないと。特に黄金の剣なんて小さくても狙われそう。
「魔王っぽい装備はやめようか。服を用意するからそっちに着替えて」
「えー」
「そりゃ俺も半乳や可愛いヘソ出しは嬉しいけどさ」
しまった、おっさんくさいことを言ってしまった。でも両手でヘソを隠すコルノは可愛くて。胸よりもそっちを隠すのね。
「フーマのえっち! ま、まさかそういう目的でボクを人形から本物にしたんじゃ?」
「うーん、どうだろ? 覚えてないなあ」
「う、うそ」
後ずさりして俺から距離をとろうとする。そんなことされるとショックなんですが。それに魔王なんだから俺より強いでしょ。
「酔ってガラテアしたんで、なんでコルノを選んだかなんて覚えていないんだ。まあ、ダンジョンマスターの権限で無理矢理したりしないから安心してくれ」
「ほ、本当に?」
「興味がないといったら嘘になるが、そんなやり方はスマートじゃない。カッコ悪いだろ」
せっかく美形になったんだから行動もカッコよくありたいからね。スキルでサイズの合う女の子だって増やせる。前世と違ってチャンスはいくらでもあるのさ。
信じてくれたコルノと共にパソコンの通販サイトで服を選んで購入する。といっても妖精用の服ってそんなに種類がなかったけどね。
いかにも妖精って見た目の服なんで種族を誤魔化すにはちょうどよさそうではある。
「あ、冠と剣は絶対に外そうね」
「黄金の剣はなくしたら困るよ。お兄ちゃんの形見だもん」
「アイテムボックスはまだ持ってないか。DPが貯まったらコルノに習得してもらうからそれまでは俺のアイテムボックスに入れておく?」
眷属や配下のスキルもDPで増やすことができる。ただ、アイテムボックス等の必須ともいえるスキルはスターター時には安く習得できるようになっているが、今はちょっと値上がりしているのだ。
「それでいいよ。大事にしまっててね」
剣と冠を外し、俺に渡してくれた。剣はフュギュアのオマケの時と違い、しっかりと重い。冠は透き通った角がとても綺麗だ。
注文で届いたというか出現した服をコルノに着替えてもらうため、俺は一時的にトイレにこもる。こんなことなら風呂場に脱衣場もつけておけばよかったな。
「もういいよー」
「赤い帽子に緑の服かー。そんなのでも美少女が着るとやっぱり違うなー」
「美少女? ボクが? お世辞はいいよー」
そうだった、ゲームでもコルノは自分が美少女ってなかなか信じてくれないんだよね。魔王軍なんてモンスターばかりのとこにいたから美的感覚がちょっと違うのかもしれない。
俺の頭に浮かぶ仮面の痴女。
「お世辞じゃないっての。美に関してはうるさいのがいるから、そいつが証明してくれるよ」
「そ、そんなに見つめられると照れるってば!」
美少女発言が効いたのか、真っ赤なとんがり帽子を目深に被って顔を隠してしまった。これはこれで可愛いのだが言わないでおくか。
さて、偽装も済ませたことだし、ドンナスたちに見せびらかしに行こう!
コルノも冒険者ギルドに登録してもいいかな。
Tips
クリュサオルはペガサスと双子の兄弟




