9話 ちっちゃい魔王ちゃん
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ドワーフの心の友ドンナスのおかげで冒険者ギルド登録者という身分証明を得た俺。
それのお祝いでドンナスの店で転生後初の飲酒。
正直酒の味はイマイチだったが久しぶりの他人との食事にテンションが上がっていい感じに酔ってしまった。かなり飲んだんだけど酔い潰れることがなかったのは若返ったのと〈毒耐性〉スキルがいい仕事をしたのだと思う。
泊まっていけとも誘われたが、シーナになにかされそうだったので断って帰ることにする。
「それじゃおやすみ」
「おいおい、そっちはクローゼットぞい」
「返事がないな、潰れてしまったか?」
店の商品のクローゼットの中に潜り込んだ俺を出そうとシーナの足音が近づいてきたのを感じながら〈転移〉でダンジョンに帰宅。
まだまだ〈転移〉スキルは秘密にしておきたいからね。
「ただいま」
もちろん返事はない。あったら困るけどさっきまで一人じゃなかっただけにちょっと寂しい。
シーナにぼっちだろうって言われたのが思い出されてしまう。
◇ ◇
ん?
「ふぁぁああ」
欠伸が口から漏れる。
ええと……。
ああ、昨日はドンナスんとこで飲んだんだった。久しぶりに酔ったけどちゃんと帰ってきてたな。
「おはよう」
びくぅっ! 今、誰か俺に朝の挨拶をくれたよな?
眠気が急に吹き飛んで慌てて声の方向を向くと半裸の女性が立っていて。
「お、おはやう?」
「召喚しておいて、酔って爆睡なんていい度胸だよね」
「す、すみません」
え、召喚したって……俺がこの美少女をか?
そんな覚えはない。まあ、かなり酔ってたから〈転移〉して帰ったとこまでの記憶しかないんだけどもさ。
先ほど半裸と思ったが、シーナよりは露出は控えめ。でもヘソ出しの鎧と冠をつけた美少女。うん、控えめに言っても超美少女だろう。サイズも俺と同じくらいの小人だし。
ショートカットの青い髪に、冠から長い二本の角が伸びていた。透き通った血赤色の角は緩く曲がっている。そして右目には眼帯。
ああ、この少女を俺は知っている!
「まったく、魔王を召喚しておいてなにやってるのさ」
「やはりコルノ!」
「いかにも。ボクこそが魔王コルノだよ」
この少女の正体は、ギリシャ神話をベースにした前世のRPG“グレートマキア2”の登場人物だ。いや正確にはちょっと違うけどね。
グレートマキア2のコルノは魔王軍四天王の一人として主人公たちの前に立ち塞がる敵幹部。だけど主人公との悲恋もあってファンからの人気はメインヒロインよりも上。真ヒロインとまで呼ばれるキャラだ。
実際、リメイク版では仲間になるヒロインの一人として追加されたし。その時の限定版に付属していた設定集にラフ画で描かれていたのが“魔王コルノ”。主人公に倒された魔王の後を継いで魔王になったという設定らしい。
そういうゲーム本編には登場しない設定だけだったんだけどさすがは人気キャラ。話題になったおかげで確りとフィギュア化されていたりする。
そう、人形だ。
つまり彼女は俺が酔って召喚したのではなく、酔って〈ガラテア〉スキルでフィギュアから本物にしたということなのだろう。
「え、ええと……ああ、名乗るのが遅れてすまない、俺はフーマ」
「それは知ってるよ。ボクを眷属にしたダンジョンマスターなんだよね」
「え、眷属になってるの?」
眷属ってのはダンジョンマスターの配下でダンジョンマスターとの繋がりも強く、ダンジョンの恩恵も受けられる。
ただしダンジョンレベルによって眷属にできる数は決まっていて、しかも契約の儀式を成功させなければいけないのでおいそれと簡単に増やせるものではない。
「召喚された時にもう眷属になってたよ。ダンジョン関係の知識も入ってた」
自分の頭を人差し指でつんつんするコルノ。
そうか。眷属契約によって、俺がダンジョンマスターになった時のように知識のインストールが行われるというわけね。
「だからここから出たかったけど、ダンジョンを破壊しちゃいけないって我慢してたんだ」
「えっ。ってああ、眷属だとそういう制限もかかるのか」
「じゃなきゃこんな狭いところで酔っ払いと二人っきりなんてヤダよ」
現在我がダンジョンはコアルームを基本にした極狭いダンジョン。ダンジョン壁によって塞がれているのでコルノは出ることも叶わなかったらしい。
酔ってたせいか全く記憶にないのだが、ちゃんと〈ガラテア〉する前のフィギュアの時点で眷属契約したみたい。〈ガラテア〉をする時は本物になった途端に敵対されて暴れないようにって、そうする予定だったのだ。
「状況を理解してくれたら外にも出れるようにするから」
「もうだいたいわかってると思うんだけど」
むう、ちょっと不機嫌っぽい。ずっと俺が起きるまで退屈だったのかな。
あ、もしかして。
「トイレならそのドアの先だから」
「もう知ってるってば! 出口探して調べたんだから!」
トイレの扉を指差して説明したら怒られた。
さすがにコアルーム内に便座があるのも嫌なのでトイレは隣接する別室になっている。もちろん風呂場と台所も別室。機能的な超極小ダンジョンなのだ。
あとはウォーキングクローゼットがほしいところ。シティボーイ的にはさ。まだ服が少ないから設置しても寂しくなりそうなんでやらないけどね。
「頭に入ってた知識にあったから試したけど、お尻を洗ってくれるのはすごいビックリしたよ!」
「そんなことまで基礎知識扱いなの?」
「たぶんキミの知識がベースになっているんじゃないかな」
なるほど。眷属にしたらすぐに話が通じて役に立ってくれるようになっていると。
俺の知識がベースということはオタク知識も転写されていたりするのだろうか。ちょっと恥ずかしい。
「あ、それならわかるかな。俺がやったのは召喚じゃないんだよ」
「なにそれ?」
どうせいつかはバレるだろうからと判断し、俺のスキルについて話す。
俺のとっときの〈ガラテア〉スキル。人形や像を本物にしてしまうというチートにもほどがある超スキルだ。もちろん超高価スキル。
このスキルを手に入れるためにDP100分の1チートがある【スクナ】を選んだようなものだ。
だって手持ちのフィギュアが本物になるんだよ! オタクだったら選ばないという選択肢はないワケで。
「ボクが人形だったって言われても」
「ならば証拠を見せよう」
アイテムボックスからフィギュアを出してコアルームに並べていく。やはり魔王コルノのフィギュアの箱の中身がなくなっているので、それを〈ガラテア〉したのが確認できた。
「この箱の中身が君のフィギュアだったんだ」
「たしかに大きな箱だけどさ」
「あ、それ違う。今の俺たちが小さいの。その辺は基礎知識に入っていないのか?」
「知ってるけど、信じられないんだよね」
そうか。この部屋には自分の小ささを実感できる対比物がないから小さくなっていると言われても実感できなかったか。
ならばフィギュアをもう一体〈ガラテア〉して、自分が人形だったと理解してもらってから外出するとしよう。
「さあ、誰を本物にしますかね!」
「昔のボクとキラキラしてるボク?」
並べられたフィギュアを前に反応する小さな魔王。
コルノのフィギュアは実は他にも持っている。保存用や改造用というワケではなく、別Verのフィギュアだ。一つはノーマルコルノでもう一つは神コルノ。リメイクで追加されたコルノENDでの姿。
どちらも出来のいいオススメのフィギュアなんだけど、コルノが増えるとややこしくなるので、取りあえず今回は見送ろう。
「どっちもコルノだけど、キラキラしてる方は女神になったコルノだよ。ゲームの主人公、ええと、ゼウスとヘラの息子で軍神アレスの双子の兄と結婚して、二人でゼウスに認められて神になったっていう」
俺の解説中にいきなりコルノが持っていた剣を鞘から抜き放って神コルノのフィギュアを真っ二つにしてしまった。
「な、なんて事を!」
「あいつと結婚? ありえない。お兄ちゃんを殺した相手と結婚するなんてボクじゃないよ、こんなの!」
「……そういう事か。このコルノが結婚するルートの時はラスボスが違ってて、主人公はクリュサオルと戦わないんだよ」
くそう、見事なまでに真っ二つだ。顔も中心で斬られているから修復はかなり難しいだろう。とにかく、これ以上破壊されないためにもアイテムボックスにしまっておこう。直せるといいなあ。
「え、ルート?」
「あとでゲームをプレイさせてあげるから。あと、俺のフィギュアをもう破壊しちゃ駄目だよ、これ命令ね!」
「う……わかったよ」
まったくもう。とても悲しい。嫁さんにフィギュアやオタクグッズを処分されたらこんな気分になるのだろうか。前世でも死ぬまで独身だったからよくわからないけどさ。
「ご、ごめん、ね。ボク、自分だって言われる人形がそんなことになってるなんて許せなくて」
「うん。コルノの気持ちを考えなかった俺も悪い。許すよ」
「ありがとう」
俺が怒っているのがわかったのか、おずおずと謝ってきたので俺も許すことにした。いつまでも怒っていたところでフィギュアが直るわけでもない。ならば美少女の謝罪を受け入れる方が建設的だろう。
礼を言い微笑む彼女はとても可愛くて悲しい気持ちも薄らいだ。まったく俺ってばチョロすぎるかも。
Tips
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