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08 マニュアルを確認しよう

 店長とユナが控え室を後にし、一人になった俺は絨毯に腰を下ろす。

 小型テレビの横に置かれた窪みのある台に玉をセットし、再生ボタンらしきものをポチっと押した。

 真っ暗だった画面から一転、お店の外観をバックに筆で描いたような文字が映し出される。


 《回転寿司ウツロ トレーニングマニュアル》


 ゆったりとした曲調のBGMが流れ始め、続いてナレーションが入る。


『ようこそかいてんずしうつろへ!』


 この声は……店長の声だ。


 店長『このまにゅあるをみてはたらくさいにちゅういすべきことをまなんでいくのじゃー』


 ――棒だ。棒読みだ!

 映像が次の場面に切り替わる。俺と同年代っぽい金色の短髪な男性が従業員専用口――裏口の前に立っている。

 

 《レッスン1 挨拶》


 男性が裏口のドアを開ける。

 ガチャ。

 男性『おいーっす』

 効果音『ブッブー』

 画面いっぱいに表示される赤色の×マーク。

 店長『これではいけないのじゃー』


 そして棒々な店長。


 店長『ではもういちど』

 ガチャ。

 男性『おはようございます!』

 効果音『ピンポンピンポーン』

 画面いっぱいに表示される青の○マーク。

 店長『あいさつはしごとにおけるきほんなのでしっかりとするのじゃー』


 ――くっそ、発音が気になって集中できない。抑揚が無さ過ぎる!


 《レッスン2 報告・連絡・相談》

 赤い作務衣姿のユナが、グラスをおぼんから床に落としてしまう。

 ガシャーン!

 ほうきで破片を掃きながら、

 ユナ『……こっそり捨てちゃおう』

 効果音『ブッブー』

 画面いっぱいに表示される赤色の×マーク。

 店長『ぐらすをわってしまったったのじゃこのばあいじょうしに――』


 言えてない! 噛んでるぞ!

 ちょっと強引すぎる。編集するとき誰かNG出さなかったのか?

 その後もレッスンは続き、


『――いじょうなのじゃぁわかったかのう? きさくなじょうしやなかまといっしょにきみもがんばるのじゃー』


 アップになった店長とその他従業員のガッツポーズを最後に映像はストップした。


「やっと終わった……」


 棒ナスステージを辛くもクリアしたぞ。しっかしほとんど頭に入らなかったな。……まあ、元のバイト先と規則はほとんど変わらないからいいか。

 余韻に浸っていたその時、ガラガラッと控え室の戸が滑った。ハク店長だ。


「どうじゃ? 見終わったか?」

「ちょうど今終わりました」

「わらわはなかなかの名演技だったじゃろう?」


 店長は自信満々といった感じで小さな胸を張る。


「えーっと……『ぼう』頭の演技とか特にすごかったです。見終わった後に『ぼう』然としてしまいました。ぶら『ぼー』! ……って感じの出来でした」

「うんうん。じゃろじゃろ?」

「…………」


 今俺が表現できるのはこれが限界だ。店長に届けこの想い。

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