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25 取材を受けよう!(2)

 とりあえずオーダーを終えた俺はカウンター席へ向かう。軍艦の仕事をしているガトウの前に座り、


「よう。お任せで適当に五皿分頼むよ」

「いいですよ、その代わり覚悟して下さいね」


 何を覚悟すればいいのか知らないけどガトウは軍艦を巻き始めた。


 ――待っている間口の中が寂しいな……この痛々しいお茶でも呑むか。


 テーブルにある怪しい紫色した粉末を湯呑みに入れお湯で溶かす。


 ズズズ――ハッ!


 お茶をすすっている時、背後から感じる人の気配。これはひょっとして――。


「……お手」

「バウワウブルルルル――だから犬じゃないですって!」

「……さっきよりワイルドになってるね」


 振り返った先にいたのはやっぱりシズハさんだ。どうしても俺をペット扱いしたいのか。

 そんなシズハさんが手にしているおぼんの上ではお目当てのモノが湯気を立てている。


「……どうぞ」

「おっ、待ってました!」


 通常のよりも一回り大きなお椀が俺の前に運ばれる。小ぶりながらも鯛のお頭が入っている豪勢な味噌汁だ。

 やっぱ通なら、まずは目と鼻で堪能しないとな。

 俺は顔をお椀に近づけてみる。


 くんくん。


 芳醇な磯の香りが空腹感を刺激して口の中が洪水状態だ。これこれー、これを食べたかったんだ。


「……店長特製、死んだ魚のような目をした魔鯛のあら汁だよ」

「おおっ、焦点がまるで合っていない濁りきった瞳、すごくうまそ――ってなるか! 実際死んでるし!」


「……じゃあ、『腐っても鯛』でおなじみ、鯛のあら汁だよ」

「そんなおなじみ要らないですよ! ……え? ひょっとしてこの鯛――いやいやそんなまさか」


 元はポジティブな意味なことわざなのに変な想像をしてしまって全然食欲をそそられない。いや、そそらせる気がないのか、ワザとなのか。グルメ番組だったらリポーターも対応に困る提供の仕方だ。

 シズハさんはおぼんをギュッと胸に抱き、


「……フフフ、つかの間の平和を楽しむがいいわ」


 あなたはどこぞの魔王様ですか? ――って確か魔王の令嬢だったっけか。そこは「どうぞごゆっくり」とかだろうに。

 捨て台詞を残してシズハさんはレジへと戻っていった。

 うーん、やっぱり接客は向いていない気がする。




「ふう。食った食った。さて――」


 シズハさんの手を煩わせるのもアレだし、どうせこのまま裏に向かうから自分で片付けるか。

 いい具合にお腹が膨れた俺は、お椀と五段重ねの寿司皿をレジへと持っていく。


「シズハさーん、レジいいですか?」

「……はーい」


 カタカタ――チーン。

「……お会計、三万七千五百六十四Jです」

「意外と高くついちゃったなー。えーっと、ひい、ふう、み……えっ? さ、三万?」


 そんなバカな。銀座の高級鮨店でもこんなにいかないんじゃ。

 俺はレジに表示されている金額へ目を凝らした。


 J37,564


 さん、なな――み、な、ご、ろ、し……皆殺し?


「……あ、レジ打ち間違えちゃった」

「どんな間違え方ですか!」


 無意識のうちに魔族の本能が出ちゃったのだろうか? これから来店するお客さんの安否が心配でしようがない。


「……またのご来店をお待ちしてます……次があればね、フフッ」

「嫌な見送り方だな!」


 正規の料金分だけ支払った俺は寿司皿を片手にそそくさとキッチンの洗い場へ向かった。


「ほいほいっと。今日も忙しいんだろうな」


 シンクに洗い物を沈めているとき、俺のそばを店長が横切る。


「あ、店長。おはようございます」

「うむ。どうじゃ、あら汁おいしかったろ?」

「想像以上の味でしたよ」


 ……色んな意味で。


「んで、シズハの接客はどうだったかの?」

「まあ、簡単に言うとですね……皆殺しにあった鯛は死んだ魚のような目をしてたんですけど、腐っても鯛でした」


「……」


 一瞬ぽかーんとした表情を浮かべた店長は、すぐさま俺の腰をポンと叩き、


「ユウヤよ、今日は仕事いいから。いい病院紹介してあげるから行ってきくるのじゃ」

「どういう意味ですか!」


 いやいや、話の筋はだいたい合ってるはずなのに。


「そうじゃ、明日テレビの撮影がウチであるからの」

「俺も見学していいですか?」

「別にいいが、変なコトしちゃだめじゃぞ」

「心配性だなー店長は。寿司にこっそり大量のワサビを仕込むくらいしかしませんよー」

「そんな事したら炎上するのじゃー! 誰か責任者ー!」

「だからアンタだよ!」

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