01 とあるバイトの日常風景
国道沿いの並木道は深緑に染まっており、あまりの暑さに景色が陽炎でゆらゆらと揺れている。
「すっかり夏だなー」
窓越しに広がる夏真っ盛りの風景を眺めていた俺は、手元のテーブルを埋め尽くさんばかりに置かれた注文伝票に目を落とし現実に戻る。
土曜日の昼間ということもあり、俺がバイト中の回転寿司チェーン店うずまさでは殺到する予約注文への対応に追われていた。
「よーし、そろそろ始めるか」
手酢で手のひらを潤し、俺はシャリを握り始める。
「お持ち帰りお願いしまーす」
「あー、はいはい」
握ってるそばから、ホールスタッフからカウンター越しに注文票を渡される。
軽くため息を漏らしながらも、俺は華麗な手さばきで流れるように握りを完成させていく。
ものの数分で三十貫分の寿司を握り、ずっしりと重みのある寿司桶をホールスタッフへと渡す。
「このペースなら楽勝だな」
ふふん、と鼻を鳴らし作業を続ける。
もともと実家が寿司屋である俺は、将来の事も兼ねて回転寿司屋でバイトを始めたのだ。
お店には全自動シャリ握り機もあるのだが、俺は敢えて手握りでシャリを握らせてもらっている。昔ながらの寿司屋と違って回転寿司店では一日に提供される寿司の量が桁違いだからだ。
幼い頃から親父に握りのレクチャーを受けており、一日数百貫以上は握れる回転寿司は自分の腕を磨く場所としてはもってこいだった。
バイトを始めてから一年以上経った今、握った寿司の数は数十万はくだらないだろう。今では機械にも劣らぬ早さでかつ旨い寿司を提供できるまでに成長できたと自負している。何よりその成果が実感できるのは、お客さんが寿司を頬張り笑顔になる瞬間だ。
このまま順風満帆な生活がこの先も続くものだと俺は勝手に思っていた。
――この時までは。