5.出会い
いつも通りに、エレノアの商いの手伝いをしていた時だった。
「お嬢さん、林檎を3つ頂けるかな?」
はい!と返事をして上を見上げ、
手に持っていた一つの林檎が足元に落ちる音がした。
息が止まるのを、感じた。
「メイリア!林檎落としちゃダメじゃない。すみません、林檎3つですね」
「いや、お気になさらず。メイリアちゃんって言うのかい?偉いねぇ、こんなに小さいのにお母さんのお手伝いして」
「あ…、」
「どうしたのメイリー?」
「おやおや」
(お父様。お父様、お父様…!)
紛れも無い、私のお父様。
小さい体でお父様の足元にギュッと抱きつく。もう、会えないと思っていた、もう、もう一生。
「ほらメイリー離れなさい、もう、今日はどうしちゃったのよ」
「ふふ、私にも同じくらいの娘がいましてね。手伝いが出来るような子では無いんですが、可愛いもんです」
「あら、そうなんですか?…お待たせ致しました!」
「どうもありがとう。お釣りは取っておいてください」
「こんなに、良いんです?」
「ええ、気持ちです」
「…ありがとうございます!」
エレノアに引き離され、お父様が去っていく後ろ姿をただただ眺める。
(私はもう、お父様の子では無い…)
あの後ろ姿に声を掛けることも、走って抱きつく事も許されてはいないのだ。
その日の夜は酷く落ち込んで、エレノアは不思議そうな顔をしていた。
1日程経ち、冷静になってよくよく考えてみると、私が来世だと思っていたのは間違っているらしい。お父様が若過ぎたのだ。
確かに、建国記念祭に人々の前へ出てきた国王は、クレイグ様のお爺様の様にも見えた。
だとしたら私は、過去に遡ったことになるのだろうか。
(そんなこと、あり得るの…?いや、あり得ないわよね…)
自問自答を繰り返してもどうにもならず、あまり深く考えないことにした。
この時私は、お父様に会えたことでいっぱいいっぱいになり、お父様の発言にまで気が回っていなかった。
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お父様と再会し、1ヶ月が経った。毎日エレノアに着いて行きお父様の姿を探したが、あの日以来見つけることすら出来ていない。
(…そう簡単に、お父様が街へ来ることは無いわよね)
分かってはいたが、遠くから一目見るだけでも良い。お父様に会いたい。
エレノアが少し休憩をしているタイミングで、散歩に行くと伝えて走り出す。
この街の立地は、ほぼ覚えている。
この角を曲がるとジャファさんのパン屋があって、その隣にはセリアおばさんの花屋。奥では服やアクセサリーを売っていて、そこを左に曲がると市場がある。
この街は、他にもまだまだ沢山のお店と人で溢れている。
来ているかどうかも分からないお父様を探すのは容易では無い。
しかし、この足で街中を走るしか方法は無いのだ。
一通り街を走ったが、お父様は居なかった。
太陽はまだ高く街を照らしている。
どこかで一休みして戻ろう、と思った時だった。
(こんな道あったかしら)
森に抜ける道の脇に、小道が続いている。森へは数回行っているが、この小道は初めて見た。
(…よし)
本来の好奇心なのか、子供だからこその好奇心なのかは分からないが、その小道がきっと冒険の始まりになるような。書斎にあった小説のような物語が始まるのではないか、という気持ちが私を小道へと歩ませた。
30分程歩き、小道は開けた草原へ出た。
(すごい!とっても綺麗)
爽やかな風が頬を掠める。
風につられて辺りを見渡すとと、さっきまで走り回っていた街を、ミニチュア模型の様に一望できる。
(こんな素敵な場所があったなんて。早く見つけていれば…)
「………君、だれ?」