4.育ち
自分の不甲斐なさ、無力さに時折憂鬱になったり、日々成長する我が身に生命の神秘を感じながら、"メイリー"は2歳となった。
視界もややハッキリとし、伝えたいことは殆ど喋って伝えることができる。しかし2歳の子供が流暢に喋り始めるのも憚られ、最低限の単語を紡ぎ、母親へ意思を伝えている。
「まま、おえほん」
「メイリーは本当に絵本が好きね。はい、今日は何が読みたい?」
「おひめさま!」
「また〜?今日は動物さんの絵本にしない?」
「ん!」
「分かった分かった、お姫様の絵本ね」
母親──エレノア・オルコットは、女手一つでメイリーを育てている。
部屋に飾られている写真立てには、寄り添って笑うエレノアと男性の姿があるが、その男性がこの家に居たことは一度も無い。
仕事に家事にと忙しいエレノアだが、何時も私を背中におぶって商いをしている。
エレノアの背中越しに見る風景は、私にとって全てが新鮮なものだった。
街を行き交う人々、街を包む美味しそうな香り、楽しそうな話し声や音楽。まるで本当に絵本の中の世界のようで、キラキラと輝いて見えた。
4歳になった時、子供部屋の隣に書斎があるのを見つけた。それからは、全ての時間をその書斎にある本を読むことに使った。
(…本ってこんなに面白い物だったかしら)
私は、本を読むのがあまり得意では無かった。お母様が読んでくれた絵本は大好きだったが、クレイグ様との婚約を機に、読む本は全て国の歴史や政治のことばかりが書かれている物に変わった。
その時から本は、私にとって只の文字の羅列に過ぎなくなっていた。
本の虫となり、貪るように書斎の本を読み漁っている私を見て、エレノアは嬉しそうな、でも何処か寂しそうな顔をしていた。
6歳になり、書斎の本を全て読み終えた私の次の興味は外の世界へと移った。
エレノアの商いに着いて行き手伝いをし、朝から晩まで外へ出て散歩をした。
迷子になり、エレノアにこっ酷く叱られたこともあった。
強く叱られたことのなかった私は、叱られたことが怖くて泣いてしまった。そんな私を見てエレノアは強く掻き抱くように私を抱きしめ、「知らない所に1人で行っちゃダメよ」と言った。
エレノアの暖かい温もりに、お母様を思い出さずにはいられなかった。
そして7歳の春、メイリーに転機が訪れる。