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30.泣き真似



「ぅ、…っ」

「泣けば許されるとでもお思い?本当に残念な子」

「ごめ、なさ」

「やだぁ私達が悪いことしてるみたいじゃない」

「ご、めんなさい…」

「あら、別に謝らなくて良いのよ?貴女が言うことを聞いてくれるなら、ね」

「…ぃ…や、です」

「はぁ?貴女逆らう気?」

「いや…です…!」


ご令嬢達に囲まれているリリー・メレスを見るのは、これで2度目だ。


「おやめ下さい。お嬢様方がこの様なことをされていると学園が知れば、どうなるでしょうね」

「…また邪魔をしに来られたの?本当、コールドローズ家の侍女は躾がなってないわ」

「私は本気です。学園は貴女達の行いを許さない」

「学園が許してくださらなくても、お父様は許してくださるわ」


(あぁ、なんてこと。この学園の持つ意味を理解していないのね)

得意げにお父様は許してくださると言い放ったのは、ナイアード国の公爵令嬢だ。


「貴女のお父上が許しても、ナイアード国王は許しませんよ」

「なっ…何で国王陛下が出てくるのよ!」


本当に何も分かっていないのだと知り、落胆する。

公爵家の娘ともあろう者が、エントウィッスル学園がどのように成り立っているのかも知らないなんて。


「貴女達が行なっていることは、国家間の問題になるのだと言っているのです。エントウィッスル学園の成り立ちは勿論、学修されましたよね?」

「ーッ!」


やっと自分が何を為出かしたのか理解したようで、ご令嬢達の顔が青くなっていく。


「金輪際、リリー・メレスや他の生徒にこの様な行いをしないと誓うのならば、私は学園にこのことを知らせるつもりは御座いません」


ご令嬢達にそう告げると、真っ青な顔のまま私を睨みつけ、何も言わず立ち去って行った。


「あの!また助けてくれて、ありがとうございます」

「助けた訳ではありませんが…貴女の気高い姿勢は賞賛に値すると、思います」

「…ぁ、ぁりがとうござい、ます…ぅ」

「どうして泣くのですか?!」


急に泣き出したリリー・メレスに焦り、ポケットに手を伸ばし取り出したのは、満月のあの日リベラに渡されたハンカチ。「いずれちゃんとした物をお返しするけれど、私からの仲直りのプレゼントとして受け取って?」と言って、お気に入りの筈のハンカチをくれたのだ。

一瞬躊躇したが、私はそのハンカチをリリー・メレスに差し出した。


「淑女たるもの、そう簡単に涙を流してはいけません」

「はぃ…こ゛めん゛な゛さ゛い」


ずず、と鼻をすすり涙を拭くリリー・メレスを置いてその場を離れることも出来ず、ただ黙って過ごした。





「すみません…洗ってお返しします、このハンカチ」

「いえ、洗っていただかなくても」

「洗わせてください…!」

「そ、そこまで仰るなら、お願い致します」

「はい!」


暫くして泣き止んだリリー・メレスは、少し赤みの残った鼻のままハンカチを握りしめている。

何故そこまでしてこのハンカチを洗いたいのかは分からないが、離す気は無さそうなので任せることにした。


「…では。今後はこの様なことも無くなるとは思いますが、お気をつけて」

「はい、ありがとうございます!」


(これで収まってくれると良いんだけど)

あのご令嬢達が今後何もしないとは考え難いが、悠々と去って行くリリー・メレスの元気そうな後ろ姿に、少しだけ安心した。




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