29.霜髪
「いけない…!」
私は今、物凄く焦っている。
今日は珍しく授業が長引き、このままだとリベラを待たせる事になってしまうのだ。
もう直ぐ貴族科初等部の授業が終わるが、まだ廊下に人は居ない。
背に腹はかえられぬ、と誰にも見られないことを祈りながら小走りしていた。
(──よし、次の角を曲がったら走らなくても大丈夫ね)
足を少し緩め、角に差し掛かる。ここまで来れば、流石に間に合──
ドンッ!
(えっ)
急に訪れた衝撃に尻餅をついてしまう。
何が起こったのかわからず見上げた先には、私と同じ霜髪の男の子。
「あ…大丈夫?」
「は、はい。申し訳ございません、お怪我等されていませんか?」
「してないけど…君は?」
「し…ておりません、大丈夫です」
尻餅をついただけで、特に痛い所も無い。直ぐに立ち上がり大丈夫だと示すと「よかった」とだけ言って去って行った。
(あんな子、居たかしら)
見る限り初等部生のようだったが、今までで一度も見たことの無い顔だった。
(それに、髪の毛が白かった。見たことがあったなら覚えているはずだわ)
私と同じ白い髪。リラは珍しいと言っていたけれど、案外そうでも無いのかもしれない。
少し気に掛かったが、今はそれどころでは無い。
結局また小走りを続ける私の努力虚しく、授業を終えるベルの音が無慈悲にも鳴り響いた。




