21.学園
馬車が、長い長い真っ直ぐな橋に差し掛かる。この橋を渡りきった先に、エントウィッスル学園はある。
「メイリー、どうしたらそんなに落ち着いていられるの?」
「…お嬢様はソワソワしすぎです」
「5カ国全ての貴族のご子息ご息女達と顔を合わせるなんて、落ち着いていられないわ」
「きっとそのご子息ご息女の方々も、そう思っているでしょう」
「…それもそうね。そう考えたら何だか気持ちが楽になったわ、ありがとうメイリー」
「いいえ」
5つの国に接する海の、ちょうど真ん中にあるエンティス島。
かつてはどの国がエンティス島を治めるのかで戦争を繰り返し、長い間緊張状態が続いていた。いつまた戦争が始まるかも知れない状況下で平民は節制を強いられ、疫病や栄養失調で命を落とす者も多く、5つの国は次第に国力を落としていった。
そんな中、当時のレッツェ国王が他4カ国の王を集め密談を行い、エンティス島は"5カ国の王位を継ぐ者や貴族の為、国々が争い戦争が起こるのを避ける為の教育の場"としようと決め、5カ国で平等に資金を出し合い建築されたのが、エントウィッスル学園なのだ。
(そんな学園から追放されたら、謹慎となるのも当たり前よね)
何故私が追放されたのかは未だに理解も納得も出来ないが、あの時、お父様は間違いなく妥当な判断を下していた。
「メイリー!見て、お花がいっぱい」
「今日は私達のような新入生が沢山橋を通りますから…花道、でしょう」
橋の両側には、大量の花が陽の光を浴びて美しく咲いている。
5つの国それぞれからエンティス島に掛けられた橋は、各国章の色に寄せた花々で美しく飾られ、2年に1度迎える新入生を盛大に歓迎していた。
「さぁお嬢様方、足元お気をつけて」
「ありがとう」
「ありがとうございます」
久方ぶりに降り立った学園の芝を踏み締め、懐かしい学舎を見つめる。
(もう失敗なんてしないわ)
「お嬢様、先ずはお部屋へ参りましょう」
「ちょっとメイリー、自分の荷物くらい自分で持つわよ」
「そういう訳には行きません。お嬢様に荷物を持たせるなんて、お国柄が疑われてしまいます」
「そういうものかしら…」
「そうです」
渋々といった感じでリベラは自分の荷物から手を離し、隣を歩く
「…なんだ、同室じゃ無いの?」
「ご息女に男性の執事が付いている場合も多くありますから、平等に個室を与えられるのですよ…もちろんお嬢様のお部屋の方がお広いので、安心してください」
「そういうことじゃ無いでしょう…少し楽しみにしていたのに」
「拗ねないでください、隣なのに変わりはありません」
むっと頰を小さく膨らませるリベラは可愛い。可愛いが、淑女には見えない。
「ねぇメイリー?朝から聞こうかずっと迷っていたのだけど…その髪は何?」
「リラさんが、私の髪色は目立ってしまうからと特注で作ってくれたようで…似合いませんか?」
リベラと制服の確認をした日の夕暮れに、リラに呼び出され受け取った黒髪の鬘。「メイリアさんの霜髪は目立ってしまうでしょう」と言って渡してくれたのだ。
「黒髪だって決して多い訳では無いけれど…似合ってるわ。ねぇ、私達姉妹みたいじゃない?」
「…そうですか?」
「えぇ、だって私もメイリーも瞳が青いでしょう?こうして髪の色も一緒なら、姉妹に間違われてもおかしくないわ」
「それは…問題ですね…」
「どうして?」
「お嬢様と侍女が姉妹だったら大問題です」
「まぁ、そんなのどうでも良いじゃない!メイリー姉さん、学園を見て回りましょう?」
「お嬢様!それ人前では絶対に口にしてはいけませんからね!」
姉妹、という言葉に気を良くしたリベラは嬉しそうに私の手を引く。
リベラの口から紡がれた「姉さん」に私も満更でもないのは、リベラには内緒だ。




