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19.親愛

文と文の間で大きく時間が開く場合に、縦で「・・・」を入れる修正をしました。

読み辛い場合、横「・・・」にするか、削除しますので、お気軽にお申し付けください。




この屋敷へ来て2度目の一人ぼっちで眺める満月はやはり、綺麗だった。


(分かってはいたけど、寂しいわ…)

この1ヶ月間はむしろ、私の方がリベラを避けていた。

リラが渡してくれたサンドウィッチは食べてくれただろうか。もしかしたら、何かわからなくて捨ててしまったかも知れない。また自分を追い込んではいないだろうか、ちゃんと休憩は取っているのだろうか。


次々と浮かんではまた沈んでいく心配は、きっとリベラにとっては余計なお世話だ。





「メイリアさん、旦那様からです」

「ありがとうございます!」


私が屋敷に勤めて、3年が経った。

この屋敷の主──以前の私のお父様は、こうして時々本を譲ってくれる。

お父様の読む本なだけあって、内容は政治ばかりの難しい本だ。

私が本好きなのをリラ伝いに聞いたらしく、本を貰い始めて以来、私はまた本の虫と化した。

家の書斎から持ってきた数冊の本を読みまわしていた私にとっては、お父様からの(侍女)へのプレゼントは、とても有り難いものだった。



…リベラとは、まだ仲直り出来ていない。

私から避け続けているし、リベラも忙しいから当たり前といえば当たり前だ。


(もう時間が無い)

リベラは後2ヶ月後足らずで、エントウィッスル学園に入学する。

エントウィッスル学園は侍女も共に通うことが出来るが、このままではお呼びはかからないだろう。

そうなればもう、暫く会うことも出来ない。

(リベラを救うなんてどの口が言えるのよ)

決意しておきながら、女の子1人と仲直りする意気地すら無いなんて。





(今日も、居ない…)

リベラが入学するまでに私に残されたチャンスは、今日の満月の夜を除いてあと1回だけだ。


一月後、リベラがここに居なかったら。

(その時はこの足で、仲直りしに行くまでよ…私なら、出来る、出来る…)

自信も、意気地も無い。

どうしたら良いのかも分からない。が、やらなければならない、ということだけは分かっていた。


(そうだ、仲直りには何かプレゼントが必要よね)

何を贈ったら、喜んでくれるだろう。料理…は、向いていない。──なら!





最後の、満月の夜。

私はリベラへの仲直りのプレゼントをぎゅっと握りしめ、祈りながら庭へ向かっていた。

(どうか、居てくれますように)

どうかリベラも、私と仲直りしたいと、思ってくれて居ますように。



(……いな、い)

そう上手くはいかないのは、分かっていた、けれど。

寂しい、悲しい。

リベラなら来てくれるんじゃないか、なんて。

(これも、必要ないのかも、しれない)

手に握っていたプレゼントを、そっとポケットにしまい、その場を後にしようと庭に背を向けた、その時


「…メイリー?」

「リベラ、」


久しぶりに聞く、聞き慣れた声


「なんで泣いてるのよ…ほら、拭いて?」


髪も伸びて、背も高くなった。前よりずっと、大人になっている。


「リベラと、仲直りしたいって、思ってた」

「……うん」

「満月になったら、ここに来てくれると思って、待ってた」

「…遅くなって、ごめんなさい」


リベラに差し出されたのは、私もお気に入りで大事にしていたハンカチ。それをリベラは、躊躇なく私に渡した。


「私の方こそ、ごめん…私、リベラの為だって、思ってたの、でも全部私の、思い違いだった」

「メイリーの言ってたことは、間違ってなかった。でも私あの時、余裕がなくて…メイリーに酷いこと言った。本当に、ごめんなさい」


そう言って私の手を握ったリベラの頬も濡れていて、私はこくこくと頷きながら、ハンカチでリベラの涙を拭った。




「本当に久しぶり。こうやって2人で満月を眺めるの」

「…そうね。リベラ、来てくれないと思った」

「来ないわけ、ないじゃない」


散々泣き腫らした後改めてみたリベラは、酷い顔をしていた。

私もそうだったようで、2人で顔を合わせ声を殺して笑った。



形の悪いサンドウィッチが、食べたら美味しかったこと。リラがマナーに厳しいこと。毎日2人とも、お互いを無意識に探していたこと。

あの満月の日から今日まであったことを、沢山語り合った。



「リベラ、これ…仲直りのプレゼント」

「ふふ、ありがとう。仲直りにプレゼントなんて、メイリーはロマンチストね」

「…仲直りするなら、プレゼントが必要だと思ったのよ。手作りなの」

「…本当に?」

「ええ」

「凄い、綺麗…。メイリー、今私に付けてくれる?」


座るメイリーの背後に回り、前より伸びた黒髪をさらさらと流す


「私、来月の今頃にはエントウィッスル学園にいるのね」

「…そうね」

「メイリーは嫌がるかも知れないけれど…メイリーも一緒に、来てくれる?」

「…も、ちろん」

「もしかして、また泣いてる?」

「…泣いてないわ」


クスクスと笑うリベラの髪をハーフアップになるように集めて結び、その上からカチッとプレゼントのバレッタを付ける


「どう?似合ってる?」

「うん…綺麗」


満月と、カクタスの花を細工したバレッタ。思った通り、リベラによく似合っている。


「ねぇメイリー。私がどうしてこんなに頑張ったのか、分かる?」

「…クレイグ様の婚約者として恥の無いように、努力したのよね」

「いいえ、違うわ。本当にメイリーって、私のこと分かってない」

「そんなこと…!」


あの日と同じことを言われ、ムキになって言い返そうしたが、あの日とは違うリベラの纏う雰囲気に思わず息を呑む。


(見慣れたはずのかつての自分の顔が、美しいなんて)


おかしな話だが、月に淡く照らされ穏やかに微笑むリベラは、とても美しかった。



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