1.目覚め
「……う」
嫌な夢を見た。とてもとても嫌な夢。
夢から覚めた感覚に安心し、同時に強い違和感を覚える。
「う、ぁ」
思うように手足が動かず、まともに声も発せない。開けた筈の目も、ひどくボンヤリとしていてよく分からない。
これは一体どういう事なのだろうか。
(もしかして私は攫われてしまった?痺れ薬、かしら。
でも名のあるコールドローズ家の一人娘を攫うなんて、一体何処の命知らずなの!
………それにしても、とっても静か)
不安になるくらい静かだ。私はこれからどうなってしまうのだろう。
(お父様、お母様、助けて…!怖い、怖いっ)
「ふ、ぅゃあ、ふゃぁあぁぁああ、ふやぁぁあ」
私のすぐ近くで赤ん坊の泣き声がして、パタパタと足音が聞こえてくる。
(まさか私を攫った犯人…?!)
赤ん坊の泣き声は止まない。
(やめて、泣かないで、私達殺されてしまう───!)
「よーしよし、ほら泣かないの」
突然感じた浮遊感と、頭上から聞こえる女性の声。
何故か安心させられるその声と、背中をトントンと優しくたたかれる心地よさに、段々と頭がぼやけていく。
(お父様、お母様……クレイグ様…)
本当は気づいているのだ。あれは、決して夢では無かった。
愛した婚約者はもう、私への愛を一欠片程も持ってはいなかった。
どうしてああなってしまったのかも、今どうなっているのかも、何も何も解らない。何も───