16.無自覚
(…リベラ、来なかった)
私は本当に嫌われてしまったらしい。
どんよりとした憂鬱な気分で掃除を続けていると、屋敷の中が少し慌ただしいことに気付く。
「ぁ、あの!今日、何かありましたか?」
「リベラお嬢様がお倒れになったみたいで…今お医者様に診て貰っているそうなんです。お嬢様ここ最近風邪も引いていなかったのに…心配ですよね、ってどこ行くんです?」
通りすがりの侍女に話を聞くと、リベラが倒れたと言う。
(そんな、倒れただなんて!)
話し終える前に、足は動いていた。
だって私は、私がリベラだった頃は、倒れたことなんて無かったのだ。
「リラ、さん!お嬢様は!」
「今、眠っております。お医者様は大事無いと仰っていましたが、まだ目を覚まさないのです」
「そんな…」
「…きっと大丈夫です。お嬢様が起きた時に、メイリアさんがそんな顔をしていたら大変ですよ」
薄く空いた扉から、顔色の悪い女の子と、心配そうにその女の子を見つめるお父様とお母様が見えた。
お父様は女の子の手を握り締め、祈るように目を閉じている。
お母様はそんな2人を心配そうに見つめながら、指先を震わせている。
心の中を、黒い塊が埋め尽くしていく。
(リベラがこんな状態の時に、妬ましい、だなんて…私、どうかしているわ)
汚く、抱いてはいけない感情なのに。私は2人の子供では無いのに。リベラは、私の大切な…大切な、何?
リベラは私にとって、一体どんな存在なのだろう。
考えてはいけないことを考えてしまったような気がして、私は逃げるようにその場を後にし、自室へ走った。